ライムの成長 3
「食った…」
「ああ、美味かった~」
「ビジュー神に感謝を…」
「…ぐぅ。…すぴ~」
「オースティン、寝ちまったぞ…」
見事な食べっぷりで、米一粒残さず食べ終えたオスカーさん達はそれぞれに寛いでいる。
鍋や皿のついでに、オスカーさん達の食器にもクリーンを掛けていると、こちらを眺めていたオスカーさんが話しかけてきた。
「嬢ちゃんの飯は本当に美味いなぁ~」
「そうですか?」
「飯も美味かったけど、嬢ちゃんの魔力量もとんでもないよな~?」
「そうですか?」
「出てくる飯が、ぬくぬくなのにも驚いたが、ハーピーを風魔法で1撃なんて、Cクラス冒険者でも出来るやつは少ないぜ?」
「そうですか? なら安心して、私も<冒険者>になれますね」
ビジューやハクの保証はあるが、この世界の住人に言われると、自信になる。
「……嬢ちゃんは<冒険者>になりたいのか?」
オスカーさんが意外そうに聞いてきた。
「ええ、大きな街に着いたら、登録しようと思ってます」
「何でだ? 嬢ちゃんみたいに回復魔法を連続で使って、ケロリとしている治癒士なんざそうそういねぇ。治癒士になろうとは思わねぇのか?」
…村でも、ルシィさんやルシアンさんに勧められたけど、
「…窮屈そうですよね?」
「何?」
「なんか<治癒士ギルド>って所もうるさそうですし?」
「ああ、まあ、そうだな?」
「<冒険者>の方が、自由に楽しめそうでしょう?」
「まあ、ハーピーを1撃なんだ。それなりには楽しめるだろうよ」
ハーピーってそんなに強い魔物だっけ…?
「おやっさん、ハーピーを1撃ってのはそんなに凄いのか?」
気になったのは私だけじゃなかったらしい。
「ああ。ハーピーは<風属性>の魔物だからな。 風の攻撃魔法を、弱体・無効化できるんだ。 それを嬢ちゃんは、【ウインドカッター】1発で首を落としちまうんだから、どんだけ魔力を込めてんだ?ってことだ」
納得した。 ハーピーに対しての『嫌い』意識のせいで、いつも以上に魔力を込めて攻撃しているからだ。
「大嫌いなので、ついつい魔力多めの攻撃になるんですよね~」
「何かあったのか?」
「ヤツ等は私の従魔を狙うんで」
「従魔、その肩にいるト…、猫だな?」
(猫じゃないにゃ!!)
(し~っ、ハク、し~っ!)
オスカーさん、トラって言いかけたような…?
「ええ。なので、見かけたら嫌悪感が」
「なるほどな……」
オスカーさんは腕を組みながら頷いている。
「そんなに強いなら、最初に会った時に逃げなくても良かったんじゃあ…?」
黙って聞いていた人達に、ポツリと言われたけど、
「私、まだ人を殺したことはないんで…」
簡単に言ったら、納得してくれた。
「……飯の後で良かった」
うん?
「じゃあ、私はそろそろ行きます」
「ちょっと待て! もうじき暗くなる。ここで一緒に野営をしないか?」
空が赤く染まり始めたのを機に先へ進もうとしたら、オスカーさんに引き止められた。
でも、他人がいるとなぁ…。
黙った私が不安に思っていると勘違いしたのか、
「俺達は嬢ちゃんに指一本触れたりしねぇ! マルゴにバレたら殺されちまうからな! 安心してくれ!」
「不埒なことはしないし、火の番は俺達で交代でやるから、アリスちゃんはゆっくりと眠れるぞ?」
「母さんに誓って、アリスさんの安全は約束します!」
「飯か!? 俺達が食いすぎて、アリス嬢ちゃんの分が足りなく無くなりそうなのか?」
「うぉぉぉぉ! すまねぇ! 米が美味すぎたんだ、許してくれーっ!」
…黙っていたら、どんどん誤解が深まっていった。
「大丈夫です! 食料は十分にありますから! 皆さんの分だって、十分にありますよ!!」
落ち着いてもらおうと大声で訂正したら、今度は一斉に首を傾げられた。
「じゃあ、どうしてだ? 俺達は恩人に危害を加えないぞ?」
……。
(ハク、どうしよう? ライムを出してもいいと思う?)
(善良そうな男達だし、大丈夫じゃないかにゃ?)
う~ん、確かに、悪い人達ではなさそうだけど…。
(ライムの意見も聞いて来てくれる?)
頼むとマントの中に入って来たので、マントの中にインベントリを開いた。
ルシアンさんのマントは大活躍だ♪
「なあ、どうしてだ?」
「昨日1日をのんびり過ごしたので、今日は距離を稼ごうと思っていたんです」
「急ぐのか?」
「いえ、特には…」
「だったら、俺達を用心棒代わりに今夜はゆっくりと休んでおけ。単独の旅は、体調管理が大事だぞ?」
気持ちは嬉しいんだけどな~。 身の危険も感じないし。
(アリス、ライムも良いって言ってるにゃ!)
(本当? わかった)
従魔たちが良いなら、私に異存はない。
「実は従魔がいまして…」
「…猫が1匹だな?」
「それとスライムが1匹」
「スライム!?」
スライムが従魔だと珍しいのかな? びっくりしてる。
「ええ、ハーピーが狙ってくるのがうっとおしいので、この区域を早く出たいな~、と。 ライム、出ておいで~」
「(は~い)ぷきゅ~」
ライムはマントの裾から、ひょこっと出てきた。ついでに私もマントを脱いでインベントリに入れておく……。
(あれ? あれれれれ~?)
「こっちのふわふわがハク、こっちのぷにぷにがライムです。バカ鳥に狙われる可愛さでしょう?」
「ああ、可愛いな!」
「うん、かわいい…」
(ねえ、ハク! 一体どういうこと!?)
(ふっふっふ! びっくりしたにゃ~?)
(そりゃ、びっくりするよ!)
(ぼく、おおきくなった)
大きく…。うん、体の大きさは変わっていないけど、心話ができるようになってたり、体色が変わるなんて…。
(いきなり色が変わるなんて…。もう、ずっと水色の体なの?)
(ううん。いまだけ)
(擬態にゃ。この色なら普通のスライムに見えるにゃ~。 もっと大きくなったら、また違う色が増えるにゃ!)
そうなんだ? ここ数日、成長が著しいな…。
「嬢ちゃんの事情はわかった。だが、ハーピーの生息区域はもうしばらく続くぞ。夜は嬢ちゃん1人で警戒するよりも、俺達といた方がいいんじゃねぇか?」
(アリス! アリスは僕が守るにゃ! 今日は一緒に野営するにゃ!)
オスカーさんの提案を、ハクが積極的に後押しする。
(ん? ハク、乗り気だね?)
(マルゴの夫なら、鳥の解体が出来るかもしれないにゃ!!)
…もしかしなくても、ハーピー肉を食べたいんだね?
ハクの食欲はいつでもブレないな…。
「そうですね。では、ご一緒しましょうか? と言っても、私達は好き勝手してると思いますが…」
「ああ、それで構わない。 これでマルゴに捨てられずに済むぜ!」
「父さん、良かったな!! 俺も母さんに追い出されるかとヒヤヒヤしたぞ!」
……マルゴさん強いな。 それだけなかよし・らぶらぶってことか♪
ありがとうございました!




