異世界では宙に浮く?
気がつくと、気持ちの良い風の吹く草原だった。
前方に森が見えるだけで、周りには何もない。
「ここが『ビジュー』」
特別『異世界』を感じることもない。 ヨーロッパの田舎の方へ行くとこんな風景が広がっていそうだ。
どうやら無事に、『ビジュー』に着いたらしい。
さて、まずは何をするか……。 頭を整理するために、少し目を閉じた。
「ようこそ、『ビジュー』へ!! これからよろしくにゃん♪」
「っ!!」
突然聞こえた幼い声に驚いて目を開くと、そこに『異世界』があった。
私の握りこぶし位の大きさのほわほわの毛玉。白地に黒の虎縞模様。三角形の耳とひょろりと長いシッポの子猫が宙に浮き、私を見下ろしていた。
「んにゃん?」
可愛らしく鳴く可愛い子猫だけど、私の生きてきた世界には、人語を話して宙に浮く猫はいなかった。
「『ビジュー』の猫は浮くんだ…。 あ、魔物? 初めての魔物ともう遭遇しちゃった!?」
思わず、逃げる体勢を取ったら、
「し、失礼にゃ! 魔物じゃないにゃっ! 神獣にゃーっ!!」
魔物じゃないと怒られた。 この猫はシンジュウという種類の猫らしい。 逃げるのをやめて観察してみる。
「シンジュウは私をエサにするの?」
訳のわからない生物を相手に暢気な気もするが、悪意が感じられないのと、生まれて間もない子猫の可愛らしさで、どうにも警戒しづらい。
「神獣は人を食べたりしないにゃ!」
私をエサにする気はないようだし、一応は、安全かな?
「では、わたしに何かご用?」
可愛い子猫を餌付けしてみたいが、食べ物は持って来られなかった。 残念だ。
「ご用があるのはアリスの方にゃ。 僕はアリスのお世話をしに来てあげたのにゃ♪」
おや、この猫は男の子だったようだ。私のお世話を……?
「今、私を愛凜澄って、呼んだ!?」
「違ったかにゃ?」
「ううん! ううん、違わない……」
得体の知れない子猫に名前を呼ばれて嬉しいなんて、どれだけ心細く感じていたのだろう。
「違わないよ。私は愛凜澄。
あなたは誰? どうして私を知っているの?」
「僕は神獣にゃ♪。
アリスのお世話をする為に、女神ビジュー様に創り出されたにゃ~」
ビジュー! そうだよね。私の名前を知っているのはもう、ビジューだけなんだから。
「私の世話を? じゃあ、シンジュウは、これから私と一緒にいてくれるの?」
「そうにゃ。この世界に不慣れなアリスをサポートする為に、生まれてきたのにゃ」
でも、ビジューは『ビジュー』に干渉しないって言っていたけど?
「シンジュウはこの世界で私に関わってもいいの? “基本不干渉”とやらは大丈夫なの?」
「ちょっと無理したけど、大丈夫にゃ。 装備品と同じにゃ(僕を送り出す為に、この土地の裏側の湖が1つ干上がっちゃったことは永遠の秘密にゃ…)」
生き物なのに、装備品と同じでいいんだ……?
「シンジュウはまだ小さいのに、この世界に詳しいの?」
どう見ても、私がお世話をする方の立場に見えるんだけど。
「ビジュー様と、この世界の聖獣に英才教育を受けたのにゃ。 まかせるにゃ!」
そう言って胸を張る子猫は、お腹の毛がほわほわで大変に可愛らしく、頼もしさよりも微笑ましさを感じた。
「うん、これからよろしくね!」
「頑張って保護者するにゃ。まかせるにゃ♪(ペットとして送り出されたことは、秘密だにゃ…)」
さみしい異世界生活の始まりだと思っていた私に、とっても可愛らしいパートナーができた♪
ありがとうございました!