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芋粥はおいしい

「さあ、どうぞ! ゆっくりとよく噛みながら食べてくださいね?」


 よそい終わっても、なかなかスプーンを持たないので、勧めてみた。


「米と芋…」


 ん? なんか反応が微妙な人がいる。 芋粥が不服そう? 様子を窺っていると、


「美味いっ!」

「なんだこれ、美味いなっ!!」


 うん、普通に美味しいよね? 朝、私も食べたもん。


「米と芋が美味い…?」


 あ、やっぱりなんか引っ掛かってる人がいる。


「芋粥、お嫌いでしたか?」


「あ、いや…。嫌いと言うか…」


 煮え切らない男性に代わって、マルゴさんの旦那さんが答えてくれた。


「芋も米も、元は家畜の餌だからな」


「はああああああああっ!? 餌ぁああああああっ!?」


「いや、すまん! この国で米を食うようになったのは最近の事なんだ。今は結構普通に食ってる!」


 マルゴさんもルベンさんもそんなことは一言も言っていなかったけど…。


「すまん! 嬢ちゃんの故郷に喧嘩を売る気は無いんだ!!」


 旦那さんは、芋粥の入った器とスプーンを敷物の上に置き、また土下座を…、


「はい、そこまで! こんなことくらいで土下座なんてしないでください!」


 させなかった! 途中で肩を抑えることに成功した。


「だが、嬢ちゃんの国では、これが最上の礼の取り方だろう?」


 え……?


「嬢ちゃんがマントの下に着ているのは、“キモノ”だろう? キモノの国では、最上の礼と詫びはこうするんじゃないのか?」


 旦那さんは、ごく当たり前のように聞いてきた。


「<着物>をご存知ですか?」


 土下座はこの国の文化なのかと思っていたが、違うらしい。着物の国があり、そこでの礼と詫びは土下座だと…。


「詳しくは知らないんだが、昔同業者に聞いたんだ。数百年前に出来たばかりの国なのに、独自の文化がある国だと」


「どこにあるか、ご存知ですか!?」


「いや、そこまでは聞いていない。嬢ちゃんの国じゃ、ないのか…?」


「そうですか…」


 もしかして、日本人の先輩移住者が国を興した? 味噌と醤油はその国からの輸入品とか? 探せば、日本のものがもっと見つかるかも!?


「なんだ、この水!? 美味いっ!!」

「ああ? うわっ! 何だよ、本当に美味い!!」


 嬉しそうな大声で意識を引き戻された。


 ああ、水か。うん。クリーンを掛けるだけで、びっくりするくらい美味しいよね。


「おかわりは自分でお願いしますね」


 水を入れた中鍋におたまを突っ込んで出しておくと、あっと言う間に芋粥も水も空になった。


「こんなに美味いなんて…」


 まだ、びっくりしたように呟いてる人がいるけど、スルーしておく。もう、旦那さんに謝られたくないからね。


 クリーンを掛けた鍋をインベントリにしまい、代わりにりんごの皿を出した。


「ちゃんと噛まないと、お腹が痛くなりますよ?」


 一応注意はしておいたけど聞こえなかったみたいだ。皆嬉しそうに頬張っている。 まあ、お腹が痛くなっても魔法で治せば良いんだけどね。


「父さん、俺、全然事態が飲み込めてないんだけど、そろそろ説明してくれないか?」


 りんごも食べ終わって、少し落ち着いた頃合に、息子さんが切り出した。


「あ? ああ、そうか。お前はずっと意識がなかったからな」


 旦那さんが息子さんに説明している間に、息子さん以外にも【診断】を掛けてみた。疲れてはいるが、体調を崩している人はいない。


(ハク、もう少しごはんを出してあげようと思うんだけど、いいかな?)


 大事な食料なので、ハクにも確認を取っておく。


(ボア肉で作ったものならいいにゃ! オークはダメにゃ!)


(わかった。あと、マルゴさん達へのお土産に干しりんごとドライアップルを渡そうと思うんだけど…)


(マルゴとルベン達の為なら、いいにゃ。また作ってくれるにゃ?)


(うん、またすぐに作るからね!)


 ハクの了承を得たので、インベントリの確認をしていると、話の終わった息子さんに話しかけられた。


「あの、お嬢さん」


「アリスです」


「え?」


「アリスです」


 旦那さんに“嬢ちゃん”って呼ばれても平気だけど、息子さんに“お嬢さん”なんて呼ばれると、背中がむずむずする。実年齢がほとんど変わらないせいだろう。


「あ、俺はオースティンです。命を救ってもらってありがとうございます。お礼が遅くなってしまって…。 お代を支払わせてください」


 あれ? お父さんから聞いていないのかな?


「お礼はお母さまのマルゴさんにおっしゃってください。治療費もマルゴさんからいただいているので、これ以上はお気遣いなく。 こちらこそ、お留守の間にお部屋をお借りしていました。ありがとうございました!」


 にっこり笑って話を終わらせる。


「お腹の具合はどうですか? まだまだ足りていないなら、第二弾をお出ししましょうか^^」


「ちょっと待ってくれっ!」


 インベントリに手を突っ込むと同時に、旦那さんから止められた。


「マルゴとルベンの前払いとやらはさっきのりんごまでだろう? だったらこの先に分けてくれる食料は何なんだ?」


「? サービスのつもりですが?」


「それはダメだ! これ以上食料を分けてくれるつもりがあるなら、俺に買い取らせてくれ!」


 ……何故? マルゴ家とルベン家には『ただより高い物は無い』とかの家訓でもあるの?


「嬢ちゃんのように若い娘さんの親切に負んぶに抱っこで甘えていたら、俺の男が廃るんだ! 買わせてくれ!」


「そうです! こんなことが母さんの耳に入ったら、俺達は玄関で一晩過ごすことになる!」


「マルゴにバレたら、捨てられちまう! 夫婦の危機だ!」


 えええええええ!?  マルゴさんなら笑ってくれると思うんだけど!


(アリス、商売にゃ! 稼ぐのにゃ♪)


 ハクまで……。


「そう言われても…。 お分けできるのは、米のごはんしかないんですが……」


 マルゴさんのパンはあげない! あれは私たちのものだ!


 家畜の餌と言われてしまった米でお金を取るなんてできないし…。


「芋と米の飯があんなに美味いなんて知らなかったんだ! 悪かったよ! 俺も買わせて貰うから、米の飯を売ってくれ!」


 迷っていると、芋粥に引っ掛かっていた人も声を挙げた。お米を美味しいって言ってもらえて嬉しいな♪


(アリス! 売るにゃ!!)


 う~ん、何かマルゴ家の2人から決意みたいなのを感じるし…。


「では、臨時でお店を開くとしましょうか。アリスのごはん屋、オープンです!」


「ありがたい! 嬢ちゃんはアリスちゃんか。 …俺は名乗ったか?」


 旦那さんはおずおずと聞いてきた。


「いいえ?」


 さっき、【診断】を掛けた時に名前を見たけどね。


「おお、こりゃ、すまん! 恩人に名乗りもしなかったなんて…。 俺はオスカーだ。よろしくな!」


 ニカッと笑った顔は、むさくるしいひげ面に似合わず、可愛らしかった^^


「俺は…」


 オスカーさんを皮切りに、自己紹介が始まった。


(アリス!)


 私も自己紹介を返している時に、【魔力感知】に反応があった。


「!」


 ほぼ同時にオスカーさんも反応する。


 出所は……、オスカーさんが投げ捨てた剣の上!


 剣を盗もうとしている!?


「この、泥棒鳥っ!!」

「畜生! させるかっ!」


 私のウインドカッターと、オスカーさんのナイフの投擲はほぼ同時だった。


 ウインドカッターがハーピーの首を刎ねた一瞬後に、オスカーさんのナイフがハーピーの胸を貫いた。


 …どうしてあの距離にナイフが届くの? 


 いつものように、ハーピーの頭部はそのまま落下してつぶれ、胴体はハクが結界で受け止めてくれた。


「ハーピー相手にウインドカッターで斬首だと…っ!? その上、首から下を受け止めた魔法は何だ!? 結界か?」


 あ…、結界がバレた。ハクの魔法って事まではバレていないと思うんだけど…。


「アリス嬢ちゃん、あんたは何者(なにもん)だ?」


 何者って言われても…、


「ただの旅人ですが?」


「「「「「うそだっ」」」」」


 正直に答えたのに、男性陣に嘘つき認定をされてしまった……。


ありがとうございました!

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