ライムの成長
「……ックシュン!」
鼻がむずむずすると思ったら、ハクがしっぽでいたずらをしていた。
「もう、起きるにゃ~」
陽射しが柔らかくなっているから、そろそろ夕方かな?
「きゅっ」
ライムの声が頭の後ろから聞こえる? いつの間にか枕になってくれていたらしい。
「ライムが喉が渇いたって言ってるにゃ~」
お鍋に水を用意してあげると、凄い勢いで飲んでいる。
「ハクもどうぞ?」
自分達の分もコップに注いで飲んでみると、一杯では足りなかった。 脱水症状が出る前に水分補給が出来てよかった~。
「おはよう! お昼寝は気持ちがいいね~♪」
「おはようにゃ。 ぽかぽかの中で寝るのは気持ちが良かったにゃ^^」
「きゅ♪」
「ライムの枕も気持ちよかったよ~。ありがとうね!」
「きゅう♪」
あ~、よく寝た。 昼寝なんて贅沢、何年ぶりだろう?
「私はごはんの支度をするから、遊んでていいよ~」
かまどを出しながら声を掛けると、期待できらきらした目で見られるので、先に言っておく。
「今日のごはんだけじゃなくて、まとめていろいろと用意しておこうと思ってるの。あまり期待しないでね?」
そう言うと、ハクは露骨につまらなさそうな顔になった。早めに言っておいてよかった…。
とりあえず、大鍋いっぱいにクリーンした水を沸かしておく。お湯の状態でインベントリに収納しておけば、何かと便利だろう。
もう一基に、昼に仕込んでおいたドライアップルの鍋をかけて、蓋をして弱火で放置。
その間に、昼間用意した挽肉を複製してから、ハンバーグのタネを作る。
「アリス、何をしてるのにゃ?」
ひたすら玉ねぎをみじん切りにしていると、興味を持ったのか2匹が近づいてきた。
「ハンバーグの下準備だよ。いっぱい作っておいたら、いろいろと便利だからね」
「オークも玉ねぎも、粉々にゃ…。 本当に美味しいのにゃ?」
「どうかな? 美味しいと良いね~?」
もったいぶるわけじゃないけど、足りてない材料があるから、答えははぐらかす。
「どういう意味にゃ? アリスは美味しくないものを作るのにゃ!?」
「出来る限り、美味しく作るよ♪」
玉ねぎをひたすら細かく切っても涙が出ないなんて、今の体は素晴らしい! ティッシュがない今、うかつに泣けないからね(鼻が大変なことになるから…)。
「アリス~、おいしい匂いがするにゃ~」
「ぷきゅ~~」
うん、りんごの煮詰まったいい香りがしてる。水分がなくなったので、火から下ろして、【ドライ】♪
何日も天日干しにする手間が省けるなんて、ドライの魔法は本当に便利! マルゴさんに感謝しないとね♪
沸いたお湯をインベントリに収納し、代わりに溜めていたりんごの皮と芯を入れた浄化水を鍋にかける。今日飲んだ分でほとんどなくなったから、丁度いいタイミングだ。
今までりんご水は鍋に入れっぱなしで管理していたんだけど、水と同じように、インベントリに直接入れられることがわかった。 これで、鍋をりんご水に取られないから安心して、たくさん作れる。
「味見する?」
ハクとライムに1切れずつドライアップルを差し出すと、嬉しそうに食いついた。
「にゃ~ん♪」
「ぷきゅ~♪」
幸せそうな鳴き声で出来がわかる。
「うん、美味しくできた♪ 甘いね~!」
「おかわりにゃ!」
「オ、カワ、リ…」
…ん?
「にゃ!?」
「ぷきゅ~、ぷきゅきゅきゅ! オカ、ワ、リ」
「とっても美味しいからもっと食べたい! オカワリって…」
「あ、やっぱり? “オカワリ”って言ってるよね!?」
思わずライムを抱き上げて、『高い高い』をする。
「ライム、凄いよ! 今、言葉を話せたね?」
ハクも宙に浮いて、ライムにあわせて飛び上がっている。
「「ライム、おめでとう!」にゃ!」
「アリス、オ、カワリ! ハク、スキ!」
「僕も好きにゃ!」
あれ~? なんか、ハクとの温度差を感じるぞ? 私はドライアップルに負けて、ハクは好きって!?
…ちょっとだけ、寂しいけど仕方がないか。ライムとハクは仲良しだもんね。 気を取り直して、ドライアップルを取ろうとしたら、
「アリスモ、スキ」
ライムの声が聞こえた。 ん~、ドライアップルのおねだりに聞こえるけど、まあ、いっか。
「うん、私も好き! はい、どうぞ」
1枚のお皿にりんご1個分のドライアップルを置いて渡してあげると、嬉しそうに仲良く食べている。この様子じゃ、すぐになくなりそうだ。
追加で5個分をドライアップルにした。
ライムに言葉を話させるほどお気に入りのドライアップル。切らさないようにしよう。
「アリス、干しりんごも作って欲しいにゃ」
干しりんごも追加で5個分作っておいた。
【クリーン】と【ドライ】のおかげで、信じられないくらいの時短調理が出来る。魔法の世界、万歳!!
「これからは、ライムも人前で話さない方がいいね。心話を覚えないとね」
ますます誘拐のリスクが上がってしまうと、心配をしていたが、
「大丈夫にゃ! アリス以外には、ただの鳴き声にしか聞こえないにゃ~」
「え?」
「【言語翻訳】はアリスの固有スキルにゃ。 だから大丈夫にゃ!」
そっか。ライムが『赤ちゃん言葉』を卒業したから、私にも言葉が理解できるようになったんだ♪ ライムの成長の証だね。なにかお祝いしないと^^
「ハクとライム、何か食べたいものを1つずつ言ってみて?」
リクエストを聞くと、
「煮ボアをオークで食べたいにゃ!」
「ショウガ、ヤキ。オーク」
との事だった。オークでワンランク上の味をってこと?
「了解! ちょっと時間がかかるけど、遊んで待っててね?」
「わかったにゃ!」
「ワカッタ」
さて、やるぞっ!!
ありがとうございました!




