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手紙 解けない誤解

「おはようにゃ♪」


 野営とは思えない快適さで目が覚めた。テントや寝袋が無くても、ふわっふわのハクとぷるんぷるんのライム、暖かい毛皮のマントのおかげで、ぐっすりと気持ちよく眠れた。


「おはよう! 昨夜もお疲れさま!」


「ぷきゅ♪」


 ゆっくりと体を起こすと、ライムが変形して背もたれのようになってくれた。 …スライムって、どこまで優しく賢いんだ?


 寝起きのクリーンを掛けてさっぱりする。


「今日はずっと移動かにゃ?」


「ん~。特に急いで次の村に向かう必要はないよね? 朝ごはんを食べたら、前方に見えてる木まで移動しよう。木の陰でマントの裾上げをしてから、また移動かな?」


 話しながら、朝ごはんの支度をする。 テーブルと椅子も欲しいな…。


「昨夜作ったオーク鍋はいつ食べるのにゃ?」


「夜のつもりだけど、今食べたい?」


「ぷきゅ!」

「僕も食べたいにゃ!」


 朝から鍋か…、とも思ったが、可愛い従魔たちのリクエストなので、鍋とご飯とりんご水を出す。


「熱いから気をつけてね?」


 深皿によそって渡してやると、嬉しそうにそわそわしているのが可愛い。


「「いただきます」にゃ!」

「ぷっきゅ!」


 食前の挨拶を済ませると、顔を突っ込む勢いで食べ始めたのでやけどを心配したが、2匹とも問題なく美味しそうに食べている。


 2匹に給仕をしながらのんびりと食べていると、どんどん鍋の中が寂しくなり、最後にはライムが鍋にダイブして最後の一滴まで綺麗に食べた。私はちょっと食べたりないんだけど…。


「ライム…。それは行儀が悪いからね。お店の中とかではしないようにね?」


「僕達だけなら良いのかにゃ?」


「うん、いいよ」


 元は魔物なんだから、私達の間ではあまりうるさいことを言う気は無い。一応注意はするけどね。


「ぷきゅ!」

「わかった!って言ってるにゃ」


「うん」 


 片づけを済ませ、インベントリのリストを確認していると、マルゴさんからの手紙に目が留まった。


「手紙を読んでからの出発でいい?」


「良いにゃ~」

「ぷきゅ~」


 マルゴさんとルベンさんからの手紙は、それぞれに1枚ずつ注意書きのように書かれている。

<お金持ちの家のお嬢様>という誤解は解けていなかったようで、どんな行動からそう思ったかが細かく書かれていた。


 ・レシピを簡単に譲る。

  レシピは財産。平民であれば、立派な嫁入り道具とみなされる。簡単に人に譲ったりしない。

 ・お金に対する執着が薄い。 

  売買時に相手に有利にしすぎる。普段から余程お金に余裕がある生活をしていない限りありえない。

 ・クリーンの魔石を売らずに自分で使う。

  お金を持っていないことを不安に思わないのは、“お金が無い”状況になったことがないからだろう。

 ・治療の際に有力者を後回しにした。

  権力におもねらないのはそれ以上の権力を有しているか、とびきりの世間知らずか、おバカさんだけ。

 ・治療後の食品や薬の無償提供。

  薬もボア肉も高価なものだという認識がない。

 ・色々な調味料を知っていて使いこなせる。

  年齢と手の美しさから見て、料理人とは考えられない。さまざまな調味料を自由に使える立場にいたんだろう。

 ・風呂に入るのが毎日だと思っている。

  贅沢な風呂に、毎日入るのが当たり前だと思っている。クリーンで全身を清潔に保てることを贅沢と思わず、“我慢”と認識している。

 ・風呂の為に高級宿に泊まろうと考えている。

 ・食事を日に3度だと思っている。

  王族か上級貴族家以外は、日に2度の食事が普通。それ以外で昼食を食べるのは、戦争中の兵士か、遠征中の冒険者くらい。

 ・まだ、一部にしか普及していない<冷凍庫>の存在を知っていること。

  風呂上りに冷たいデザートを食べられるのが当たり前の家庭に育っている。

 ・知識を財産だと認識していない。

  知識を得られるのが当たり前の環境に育っている。

 ・世情に疎すぎる

 ・硬貨を実際に見るのが初めてだったこと。

  田舎の子供でも、小銅貨くらいは触ったことがある。

 ・装備品のレベル

  国宝レベルの美しい剣を、実用にしている。 

  貴族のお嬢様たちがこぞって手に入れたがるような美しいドレスを旅装にし、そのまま解体作業をすることに躊躇わない。


 以上の点から、大国の王家の姫君か、上級貴族家の令嬢が家出中であると推測される。身分を隠すのは難しいと思うので、“遊学中”や“修行中”と言った新しい設定を考えることを勧める。  

 ちなみに、“没落した家の、元・令嬢”という設定はすぐにバレるので勧めない。



 といったことが、書かれてあった。


 ………なんか色々とやらかしていたらしい。 マルゴさんやルベンさんが時々何かを言いたげだったのはこういうことだったのか。


 ハクが手紙を読みながら、長い、長~い溜息を吐いている。


「…どうするにゃ?」


「…どうするって?」


「設定、作るにゃ?」


「…作らないよ。このまま行く。私は平民だけど、周りがどう思おうと自由ってことで」


「面倒なことにならないにゃ?」


「隠し事がある上に、嘘を吐く方が面倒だよ」


「それもそうにゃ!」


 意見が一致したので、これからもこのまま、ステータスだけを隠して行動することにした。


 ライムも肯定するように伸び縮みしてるから、これでいいんだ♪


「あ、続きがあるね」


 マルゴさんの手紙の一番下に、付け足したように崩れた文字で書かれた一文があった。


「解体はギルドでも教えてくれるんだねぇ。 1種類につき1回無料だけど、2回目からは有料か。いくらだろうね?」


「アリス、絶対に、一度で覚えるにゃ!」


 ……余計な経費は認められないようだ。


「わかった。なるべく数体ずつ溜めてから教わるようにする」


 マルゴさんの指南書で予習して、教わった後にすぐ反復練習をしてモノにする! その為にも魔物をたくさん狩らないと!


ありがとうございました!

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