リッチスライムの貯蔵量
「このくらい乾燥できたら、清潔なビンなどに入れて保存してください」
乾かしていたカモミールを【ドライ】を使って乾燥させる。
「このくらい、か…」
皆は真剣な顔でカモミールの乾燥具合を確認している。
「日光に当てないように、カビが生えないように、気をつけてくださいね? カビは病のもとですから」
「カビが生えてもそこだけ取り除いて食べれば、腹が下ることもないが…」
マルゴさんの疑問はもっともだけど、
「生きていくことが優先なので、カビを取り除いて食べることを否定はできません。でも、カビは水溶性なので、目に見えるカビを取り除いても、その食品そのものが汚染されてるんです…。 カビを生やさない! これを第一に考えてくださいね?」
食べ物が貴重な世界のようだから、ちょっとカビが生えたくらいで食品を捨てることはないだろう。でも、“カビは体に良くない”という認識だけは持っていて損はない。
「わかったよ。カビが生えないように注意する。息子に何か考えさせよう」
「頼りになる息子さんですね! お会いできないのが残念です。 お部屋をお借りしたことのお礼を、伝えてもらえますか?」
ベッドでゆっくりと休ませてもらった。部屋は【クリーン】で綺麗にして来たが、お礼を直接言えないのは残念だ。
「ああ、伝えておくよ。生姜焼きとオークカツを作ってやったら亭主も息子も喜ぶだろうねぇ」
息子さんへのお礼は、レシピでいい様だ。良かった^^
「ライムの栄養……、肥料を出す場所は決まりましたか?」
「ああ、ルシアンに聞いた。ウチの納屋に入れてくれ」
「納屋、って倉庫のことですよね? 肥料なんて入れていいんですか? 袋とかに入ってるわけじゃなくて、わさ~っ!ってそのまま出ますけど…」
確認したら、
「肥料を必要な畑に配布し終わったら、アタシがクリーンをかけるから大丈夫さ」
「必要なものは全て移動した。大したものは残っていないから大丈夫だ」
とのことだった。ちゃんと打ち合わせていたらしい。
安心して、皆でぞろぞろとルベンさんの納屋に移動した。
ルベンさんの納屋はそこそこの広さなのに、物がほとんど置かれていなかった。短時間でよく片付いたものだ。
「じゃあ、出します」
納屋の中に出すのなら、ライムに直接出してもらえばよかったな~、と思いながらインベントリを開くと、インベントリからこぼれる落ちるように肥料が出てきた。
しばらくすると、肥料の山が高くなったので、少しずつ出口に向かいながら山をいくつか築く。インベントリから全て出し終わった後に、ライムが跳ね出し、直接栄養を吐き出し始めた。室内で私たちだけだから問題はないんだけど…。
「その小さい体のどこに、こんなに溜め込んでいたの?」
思わず口を衝くと、ハク以外の全員が何度も頷いた。
(ごはんの栄養は別だから、ライムが弱ることはないにゃ)
ハクだけは、余裕の態度だ。
ライムが栄養を出し終わる頃には、納屋にはライムとハクと私しかいなかった。足の踏み場がなくなって、1人、また1人と納屋の外へ出て行ったのだ。
「こんなに大量に出してくれて良かったのか?」
マルゴさんから<リッチスライム>について詳しく聞いていたルベンさんが、戸口から心配そうに聞いたが、ライムは見た目に何の変化もなく、機嫌良さそうに跳ねている。
「ごはんからの栄養は別に蓄えているから大丈夫だそうです」
ハクの言ったことを伝えると、戸口で衝立代わりに立っていた皆が安心したように笑った。
「さて……。そろそろ行きますね!」
自分達の畑の肥料より、ライムの心配をしてくれた皆の気持ちが嬉しくて、気分良く弾みがついたので、「出発しよう!」という気になった。
「行くの?」
ルシィさんは少しだけ寂しそうな顔をしたけど、
「お金が無くなったら、戻ってくるんでしょう? 待ってるわ!」
と言って笑う。
「お金が無くなったら大変なので、待たないでくださいよ~!」
「じゃあ、何もなくてもまた来てくれる?」
そう言っていたずらに笑うルシィさんに、
「村長がマルゴさんだったら、永住も考えちゃいますね!」
私も笑って冗談で返した。
「そうかい? だったら、村長になってみようかねぇ」
「そりゃあ、いい!」
「面白そうだ!」
「じゃあ、その日を楽しみに、行って来ます!」
(その時は、僕も皆の前で声を出して話そうかにゃ~♪)
(いいね! ライムにもお願いして、農業で村おこししちゃう?)
村の入り口に着くまで、皆でずっと笑ってた。
ありがとうございました!




