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村長(代理)命令

「「ポーリン!!」」


 マルゴさんとルベンさんが怒っている。


 マルゴさんはポーリンを捕まえようとしたけど、ポーリンは自称顔役達の後ろに隠れて舌を出している。


「仕方がないなぁ……」


 意識する前に、私の口から言葉が零れ落ちた。


 マルゴさんとルベンさんの驚いた顔と、ポーリンの得意げな笑顔が見える。


「わかったならさっさ」

「それは、後にいる『顔役』2人の同意を得た上での、村長代理としての『命令』なのね?」


「そうよっ!」


 確認すると、ポーリンは胸を張って高らかに、『顔役』の2人は得意げに何度も頷いて肯定した。


「だったら、仕方がないわね。その『命令』に従うわ」


「「!!」」


 マルゴさんとルベンさんが申し訳なさそうな、悔しそうな顔で私を振り返った。


(いいのかにゃ?)


(いいよね?)


(いいにゃ!)


 ハクの了承も取れた。


「『村長代理の命令』なら、仕方がないもの。 マルゴさん、ルベンさん、ごめんなさい」


 2人に謝って、踵を返す。


 偶然目が合ったギャラリーは、訳が分からないといった顔をしている。


「待っておくれ! アリスさん!!」


 マルゴさんの引き止める声に振り返り、でも、目を見つめて首を横に振るだけで、納得してくれた。


「村に尽くしてくれた恩人に、仇で返すなんて…。申し訳ない…。

 この村の顔役として、ババが詫びる。本当に、申し訳ない!」


 マルゴさんが謝ってくれ、


「『村長代理』がどこまで本当か分からないが、横暴を許しているのは俺達の責任だ。 本当に、すまない!!」


 ルベンさんまで頭を下げてくれた。


 この2人にはなんの含むところもないので、にっこりと笑って首をふる。


「幼いとはいえ、村長の孫が、村の顔役2人の支持を得て行う『村長命令』ですから、お2人にはどうしようもありません。治療を待っている方々は気の毒ですが…。 これも仕方のないことです」


 周りに聞こえるように大きな声で言うと、マルゴさんは本当に悔しげにうつむいた。


 私がこの村に見切りをつけた事に気が付いたらしい。


「ああ、仕方がないことだ…」


 そう言って顔を上げたマルゴさんは、


「この村の顔役として、『村長代理の命令』の一部を破棄する! 旅の治癒士見習い・アリス様には、我が家にて一服されてからの出発を願いたい。これまでの村への恩に報いる為に、旅立ちの支度を手伝わせていただく!」


 と、声を上げ、


「この村の顔役の1人として、これまでの村への厚情に報いる為の時間をいただきたい! 旅に役立つ品なりを用意させていただく!」


 ルベンさんまで大きな声で宣言した。


 私も2人にはお礼をしないといけないかな?


(もう少しだけ、この村に滞在するけど、遅くても夕方には出て行こうと思う。いいかな?)


(わかったにゃ! ルシィとルシアンにもお別れを言うにゃ!)


 うん。あと数時間だけ、この村にいよう。


「『ネフ村の顔役』、マルゴ殿とルベン殿にはたいそう世話になりました。この村の村長一派には含む所もがありますが、お2人とご家族には感謝しております。お2人とご家族のもてなしへの礼に、ささやかな贈り物を差し上げましょう。それが済み次第、この村を出ることにいたします」


 周りに聞こえるように、大きな声で、はっきりと! ちょっとだけ勿体つけた口調なんか使ってみて。


 マルゴさん、ルベンさん、ハクと頷きあってから、無言でその場を後にした。


 後ろの方で、子供と大人3名が何か言ってるような気もしたが、きっと気のせいに違いない。





「もう、なんて詫びればいいのか分からないよ…。 本当に申し訳なかった…」


 力なくマルゴさんが頭を下げ、その横ではルベンさんが無言でずっと頭を下げていて、


「…………グスッ」


 事情を聞いたルシィさんはずっと泣いている。


「いえ、私も大人気なかったかと…。 いままで大人しく治療の順番を待ってくれていた人達には申し訳ないのですが…」


 反省してみても、意思は変わらず。


「ごめんなさい」


 謝るしかなかった。


「色々と仕度があるので、部屋をお借りしてもいいですか?」


 私がそう聞いたのを機に、一旦解散になった。





 部屋に行く前に、かまどの回収をしに表に出ると、息を切らしたルシアンさんが立っていた。


 どうやら話を聞いたらしい。


「肥料を出す場所は出来てますか?」


 声を掛けると、責めるように強い目で聞かれた。


「肥料なんて、どうでもいいだろう? あんたは腹が立たないのか!?」


「腹が立ったから出て行くんですよ? でも、肥料は、ルベンさんとの約束です。話が別です」


 答えると、とても悔しそうな顔で言った。


「その肥料は、村の為に使われるんだぞ。あんたを追い出す村長一家が得をするんだ」


「村の為じゃないですよ? ルベンさん一家とマルゴさん一家の為です。2家で使って余る分を、2家と仲がいい家にまわしてあげれば良いんです。できたら、ニナちゃんの家と、エメさんの所にもあげて欲しいかな。 

 そのことを村の人達が理解してくれたら、あとは狸が得をしようがしなかろうが、どうでもいいです」


「俺達の、為?」


 ルシアンさんは、驚いたような顔をする。


「食事の時間がとても楽しかったので、ほんのお礼です。 だから、肥料を出す場所だけ、考えてくださいね?」


 まだ不服そうだけど、時間がないので放っておくことにする。 かまどを収納して家に入った。






「じゃあ、ライムの“栄養”をインベントリの中に出すことは可能なんだね?」


「ぷきゅ!」


「ハウスの中からできるの?」


「ぷきゅ!」


「じゃあ、今から出してくれる? くれぐれも!ライムの無理のない量でね?」


 念押しすると大きく震えて、ハウスに入っていった。


「インベントリは開きっぱなしにしておくから、終わったら出てきてねーっ?」


 聞こえているかは不明だが、声を掛けておく。


「ライムが直接畑に出さないのはいい事にゃ!」


「うん、“高品質の肥料”を出せることは、広めない方がいいもんね。これからも、ライムに栄養が溜まったら、インベントリの中に出してもらうことにするよ」


 世の中、善人ばかりじゃないからね。


「それがいいにゃ~!」


 ハクの同意ももらったし、今後、ライムには表向き『無害なペット』ポジションでいてもらおう。


「これからどうするにゃ?」


「予定はライムが出てきてから、話そう。 とりあえずはインベントリ内の確認をするよ」


 この村にいる間に色々と揃った。 調味料を始め、調理器具も最低限はあるし、食材も増えた。もう、肉と魚を焼くだけ。果物をそのままかじるだけ。の旅にはならないだろう。


 魔物素材はこのまま持っていても問題はない。


 世話になったお礼に、ポーションをいくつか置いていこうかな。


 インベントリに“栄養”を出し終えて出てきたライムに広がってもらって、その上で初級ポーションを中ビン2個と、小ビン3個、増血薬3個と、解毒薬を3個作った。


「ここから70km程西へ行くと少し大きな村があるの。とりあえずはそこへ向かおうと思うんだけど、どうかな?」


「ゆっくりと向かっても3日くらいにゃ~。良いと思うにゃ」


「ぷっきゅ~」


 次の予定も決まった。今日はあまり移動できなくても、4日後には着ける場所だ。


 荷物は全てインベントリに収納しているので、荷造りの必要もない。<鴉>を腰に佩いたら準備は完了だ。


 ハクとライムを連れて部屋を出た。


ありがとうございました!

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