護衛旅 ハクの異変 1
私が目を覚ましてから、一言もハクの声を聞いていない。
始めはバツが悪くて何も言わないのかと思っていたんだけど、いつものハクなら弟妹たちに任せずに自分で説明してくれたはず。なのに、ハクからは何の説明もない。
ただ、反省の気持ちを表しているのか、ちっちゃなかわいい舌で私の涙の痕を一生懸命にぺろぺろしてくれていた。でも、ごめん、の一言も言ってくれてはいない。
今も私の問いかけに、困ったように首を傾げてみせてから、私の頬にすりすりと頭を寄せてくれるだけ。
ハクらしくない。どう考えてもおかしい。
どこか具合でも悪いのかと聞いても、首を横に振って否定するだけ。
念のために【リカバー】を掛けてみたら、困ったように微笑まれてしまった。
「ハクはげんきだよ!」
「少しお疲れなのでは?」
「主さまに内緒ごとをしたことを反省なさっているのでしょう。……わたくしも反省しておりますわ」
「ぼくも、ごめんね?」
「我も反省しております。申し訳なく……」
ライム、ニール、スレイが代わりに答えてくれたけど、ハクは何も言わずに何度も頷くだけ。
明らかにおかしいんだけど、それ以上問いかけることはできなかった。
私の肩から飛び降りたハクが向かった先に、依頼人夫妻の姿があったから。
それも私たちに向かって、ハイタッチをするように両手の平をパタパタさせていたり、ガッツポーズをするように両手で握ったこぶしを前後に振っていたり……。
何かあったのかな?
ハクが右手をちょい、と振ると同時に、
「アリス! 心配したわ!」
「ここから一歩も進めないので驚きましたよ」
2人の声が聞こえてきた。オデッタが走り寄ってきて、
「何があったの? 怪我はしてない!?」
泣きそうな表情で私たちを見回し、
「っ!? ライムちゃん……? ライムちゃんよね!? いったいどうしたのっ!?」
ライムの変化に気が付いて泣きそうに顔を歪める。アルフォンソさんもライムを見つめて、
「ライムくんにこんな被害が出るような、強力な魔物が出たのですか?」
痛ましいという表情になった。
……なにか大きな勘違いがあるようなんだけど、どうやって説明しようかな?
なんとなく、この勘違いに乗っかった方が説明が楽な気がするなぁ?
夜中、お手洗いに起きたオデッタが私たちの不在に気が付いた。
誰もいないのでとても驚いたけど、馬車やテントがそのままになっていたので❝置いて行かれた❞と思うことはなかったようだ。
……起きたら護衛が誰もいなくなっていたら、それは焦るよね? 馬車やテントがそのままになっていて本当に良かったよ。
でも、そこで思い至ったのが❝自分たちを置いて全員で出て行かなくてはいけないほどの魔物が出た?❞という勘違い。慌ててアルフォンソさんを起こして周囲の確認をしようとして、もう一つ、とんでもないことに気が付いた。
自分たちが一定の場所以外には移動できないことに。見えない壁に邪魔をされて、ある地点から前には進めなくなっていることに。
うん。これはハクの結界だよね? どうやら内側からも出入りできない上に内外両側も防音仕様になっているらしい。 私とニールやスレイは何の抵抗もなく出ていけたからそんな仕様になっているとは気が付かなかったよ。
ありがとうございました!
中途半端な終わりになってしまってすみません。
どうか、次回までお待ちくださいませ!




