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カモミールティー

「ねえ、本当に大丈夫? 顔が蒼白になってるわよ…? 本当に、虫が苦手なのね」


「大丈夫です。 ルシアンさん、もっと丁寧に1本ずつクルクルしてください! 1匹も残さないでっ!」


 こっち(ビジュー)のカモミールにも、アブラムシみたいなのがくっ付いていた…。


「こっちはジャブジャブ洗っていいのか?」


「あ、そっちは軽く埃を取る程度で大丈夫です。 虫は付いていないんですよね?」


「ああ、こっちは大丈夫だ。俺とルシィで、2度確認している」


「ありがとうございます!! 軽く洗えたらざるにあげて、今、飲む分以外は乾燥させましょう。

 ライム! そんなもの食べたらお腹壊すよっ!」


 ライムがルシアンさんに近づいて行ったので、慌てて止める。


「魔物の内臓より大丈夫だろう?」


 マルゴさんの呟きは聞こえなかった方向で。


「ルシアンさん、水を替えましょう。こっちのバケツに水を出しておきます」


 アブラムシが視界に入らないように動いていると、マルゴさんから声が掛かった。


「アリスさん、こっちのざるに上がってる分は、先に収納しちまいな」


「いいんですか?」


「ああ、こっちは虫が付いていなかった分だ。安心して持っておいき」


「ありがとう! 遠慮しません!!」


 本当に遠慮なく、ざる2枚分に山になっているカモミールをストローバスケット2つに移して、インベントリに収納する。


「こっちも洗い終わったぞ。虫はもう付いていないから、安心しろ」


「……本当ですか?」


「信用しろよ! 1個ずつ、丁寧にクルクルしてたろ?」


「確かに…。 お疲れ様でした♪ じゃあ、ざるにあげて、水気を切って乾燥させましょう! 1週間ほど、風通しのいい日陰に置いておきます。 太陽の光に当たらないように注意してくださいね?」


「太陽に当たったら、飲めなくなるのかい?」


「飲めるけど、美味しくなくなります。“薬”っぽい味になります」


「薬を作っているんだから、いいだろ?」


「お茶を作ってるんだからダメですよ?」


「……薬?」


 ルシアンさんは誤解しているようだ。


「美味しくて体にもいい、お得なお茶です♪ なので慎重に乾燥させて、半年以内には飲み切ってくださいね!」


 ここには乾燥剤とかなさそうだし、日持ちはしないと思った方が良いだろう。


 ビニールとかがあれば、マルゴさんの冷凍庫で保存も出来たのに、残念だ。


「今日はフレッシュなカモミールティーを入れましょう。

 1人分5~6個が目安です。 このティーポットは大きいので35個入れちゃいましょう。

 茎はかさばるので短く切って、沸かしたてのお湯を注ぎます。 5分ほど待つんですが、時計は…」


「あるよ」


 あるんだ! さすがマルゴさん、お金持ち♪


「じゃあ、5分計ってください。その間は暇になるので…。 ルシィさん、1曲お願いします♪」


「え? 私?  じゃあ…」


 自分でも無茶振りかな?と思ったけど、驚くことに、ルシィさんはあっさりと頷いて歌いだした。


 自然の美しさを優しく語りかけるように歌うルシィさんの歌声は、甘く香り始めるカモミールにとても似合っている。


「5分経ったよ」


 マルゴさんが声を掛けたのは2曲目の途中だった。


「5分くらいの歌があれば便利ですね~」


「あら、本当ね。 探してみようかしら」


 なんとなしに言った一言でルシィさんがその気になってくれたので、これからのお茶の時間も優雅なものになりそうだ。


 人数分を淹れると、カップ半分ずつになってしまったけど、誰も気にしない。カップに1輪ずつ新しい花を浮かべて出すと、


「いい香りねぇ。りんごに似てるわ」

「ぷきゅきゅ♪」

「ああ、本当だねぇ。アリスさんが作ってくれるりんご水のような香りがするね」

「美味いな」

「ああ、こんなに美味いのに、薬になるのか…」

「んにゃん!(おいしいにゃ!)」


 評価は上々のようだ。


 インベントリから蜂蜜を出して、勧めてみる。


「少量を足すと美味しいですよ」


 見本に自分とハクとライムの分に入れると、皆も試す気になったようだ。


 今度は黙って、嬉しそうに飲んでいる。


「アリスさん、これも広めていいのかい? 登録するなら、黙ってるが?」


 さっきからマルゴさんがメモを取っていたのは、広めることを見据えていたのか。


「簡単に実践できる体に良いことなので、どんどん広めてください^^ あ、でも、飲んで体に違和感を感じる人や、妊婦さんには飲ませないでくださいね?」


「母乳の出が良くなるって言っていなかったかい?」


「ええ、出産後は大丈夫なんですが、妊娠中は流産や早産を引き起こす可能性があります。あと、カモミールが体質に合わない人もいるので、1度飲んで体調が悪くなった人も、飲まない様に注意してあげてください」


 伝えたことはちゃんと紙に書いているので、安心して教えられる。


「これを、村の特産として商売にしても構わないかい?」


 マルゴさんの発言には、その場にいた全員が驚いた。


「商売になりますか?」


「広めてみたい」


 ああ、儲けたいんじゃなくて、広めたいのか。


「もちろん、いいですよ。 

 飲み方の提案として、ミルクを足してもおいしいですし、摩り下ろした生姜を入れると体が温まるので、風邪の引き始めに飲むといいと思います。暑さで寝苦しい夜には、冷たくして飲んでもいいですね。これは冷凍庫がある、この村の特権ですね♪」


 メモを取り終えるのを待って話を続ける。


「今日はフレッシュなお茶を入れましたけど、保存用の乾燥カモミールは、1人分ティースプーンに1杯なので、普通の紅茶と淹れ方は同じですね。

 茶殻は入浴剤、は一般的じゃないか…。 足湯、とかは使いますか?」


「あしゆ?」


「バケツなどにお湯を溜めて、足だけ浸かるんです。疲れが取れますよ。 足湯の中に、茶殻を入れてもいい香りが広がりますし、足湯に使わない分は、乾かして消臭剤としても使えます」


「ルシアンの部屋に集めましょう!」


 ルシィさんは消臭剤に使う気満々だ。 皮の臭いにも効くといいんだけど。


 のんびりお代わりをしたいところだが、そろそろ治療に行かなくてはいけない。


「ルシアンさんは、今後狩人に戻るんですか?」


「? ああ、そうだな。 とりあえずはソロで狩りをしてみようと思っている」


「では、これは、狩人復帰のお祝いです。マルゴさんと私から」


 インベントリから牙の入った皮袋を取り出して渡した。


「アタシは袋を提供しただけさ。全部アリスさんからだよ」


 マルゴさんは律儀に訂正をしてしまったが、ルシアンさんはあまり聞いていなかったようだ。


「これを、俺に…? 100個はありそうだぞ? ボアの牙まである…」


「これでいっぱい獲物を狩って、ルベンさんやルシィさん、マルゴさん一家に美味しいお肉を届けてくださいね!」


 プレッシャーを掛けてみたが、ルシアンさんは、


「おうっ! 任せろっ!」


 自信ありげに、力強く笑った。  最初の穏やかそうなイメージは気のせいだったようだ。


ありがとうございました!

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