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護衛旅 集落 22 依頼 3

 出発前に依頼人夫妻に予定の変更を伝えておくために宿に戻ろうとすると、裁判所の職員さんに引き留められた。


 引き渡した盗賊たちを奴隷として売る代金や褒賞金の支払いの日程についての相談と言われたので、


「今夜この町を出発するから、それまでに準備できる? できなければギルドの口座に振り込んで欲しいんだけど」


 と答えると、


「「今夜出発!?」」


 職員さんとギルドマスターは揃って驚き、


「通常なら3日はかかる<キラービーの蜂蜜採取>に今から出発して強行軍で夜には戻り、体を休めもせずにその足で依頼人を連れてこの町を出て行くと言うのか? 疲れた体でわざわざ危険な夜に出発だと? 君は護衛任務を舐めているのか!?」


 ギルドマスターは物凄い勢いで私を怒鳴りつけた。


 頭ごなしにいきなり怒鳴られて一瞬だけムカッとしたけど、ギルドマスターの心配はもっともだ。もしも私にハクとライム、スレイやニールといったとても頼もしい従魔たちがいなかったら、そんなプランは考えもしなかっただろうしね。


 でも、彼らの存在とビジューからもらったスキルを合わせたら、決して無謀なプランではないんだよね。


 だってアルフォンソ夫妻、というか、オデッタの希望は❝早く次の集落へ行きたい❞ではなく、❝無駄なお金を使いたくない❞といったものだから。


 町を出てから野営に良い場所があればさっさとみんなで眠るつもりだからね! もちろん夜番はハクがしっかりとこなしてくれるから安心だし? 


 でも、そこまでの事情をギルドマスターに説明する必要もないだろうし……。反応に困っていると、


「アリスさんは護衛任務を舐めてなんかいませんよ」

「そうよ。アリスはいつだって私たちの身の安全を一番に考えてくれているわ!」


 アルフォンソさんとオデッタが宿から出て来てギルドマスターに反論してくれた。


 どこから聞いていたのかなぁ? なんて疑問を持っている間に話は勝手に進む。


「あなた達が彼女の依頼人だな? あなた達の護衛は彼女だけだと聞いているのだが、今から彼女は普通の冒険者が3日かけて行う依頼をたった半日という強行軍で遂行し、夜にはあなた達依頼人と共に町を出ると計画しているのだが、それを聞いてもあなた達は彼女を庇うのか? 夜は危険度が格段に上がるから、旅に出るなら朝日が出てからだということは子供でも知っている常識で、疲れを溜めた状態で夜番を務めるなんて『居眠りします』と言っているようなものではないか!」


「私たちの護衛はアリスさんと優秀な従魔たち。今夜の出発を決めたのは私の妻で、アリスさんはそれに従っただけ。ついでにお伝えするなら……、アリスさんと従魔たちの能力は、ギルドマスターのおっしゃる❝普通❞の冒険者よりも格段に優れている。

 彼女が今夜出発ということを踏まえた上でギルドからの依頼を受けるというのなら、それは私たちを守り切るのに何の支障もないと判断したということでしょう。私と妻はその判断を信頼しています」


「どんな依頼を受けたのかは知らないけど、昼は移動をしながら魔物を倒し、夜は私たちの安全を守りながらの野営なんて、この旅が始まってからはずっとそうだったわ。何を今さら?」


 オデッタとアルフォンソさんは、夜番をハクがしていて私は熟睡しているとは言わない。ハクの実力を知っている人からすれば、私が万全の体調を維持できて護衛業務に支障が出ない理由になるんだけど、そうでない人には不安材料でしかないことを理解しているようだ。……良い依頼人に恵まれたな。


「ねえ、アリス? なんの依頼を受けたの?」


「キラービーの蜂蜜採取。最初は蜂蜜を売って欲しいって言われたんだけど、それは出来ないから代わりに採取しに行こうと思って」


「ああ、噂で聞きましたよ。どうやら大変なことになっているらしいですね? でも、どうしてアリスさんが蜂蜜を持っていると……? もしや、私たちが売ったキラービーの毒針の数から推測を!?」


 私はオデッタとアルフォンソさんが依頼人で良かったと思っているのに、2人が申し訳なさそうな表情で私を見つめるから、思わずギルドマスターを睨んでしまった。……わかっている、これは八つ当たりだ。


 ギルドマスターは私の睨みに一瞬だけ❝どうして自分が睨まれるんだ?❞という表情を浮かべたけど、すぐにアルフォンソさんの質問に肯定を返した。


 正確には、アルフォンソさんたちが町で売った毒針と、私がギルドに納品した毒針の数からの推測らしい。


 あれだけ多くのキラービーを倒したのなら、蜂蜜を採っていてもおかしくない、と。


 まあ、大当たりなんだけどね? ちょっとタイミングが悪かったよね。私たちが出発を決める前にこの話が出ていたなら、何の問題もなかっただろうに。


 そもそも、朝、顔を合わせた時に❝薬の話❞なんて言わずに❝蜂蜜の話❞と言っていればまた話は違っていただろうに。と考えていると、ちょっと腹が立ってきた。


 そんな私の心情を読んでいたかのように、


(こんな依頼、断っちゃえばいいのにゃ。それから蜂蜜を採取しに行くのにゃ!)

「アリス、この依頼断ったりできないの?」


 ハクとオデッタが同時に私を誘惑する。


 う~ん、心惹かれる提案だ。


 オデッタの提案が聞こえたギルドマスターは、眉を顰めているけどね? まだ、正式に依頼として受けたわけじゃないから、ここで断るのは、セーフ……、なのかな? 


 ちょっと、悩んじゃうなぁ!


ありがとうございました!

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