トリビアの価値
「大金ですか? ずっとお風呂のある宿に泊まって、24時間好きな時にお風呂に入る生活が出来るようになりますか?」
「なるだろうね」
「ええええええっっ!?」
冗談で言ったら真顔で返されて、驚いた。
「全部でそのくらいの価値がある話なんだよ。 理解したかい?」
「理解しました。 ……【増血薬】と【クリーン】の関係は聞かなかった、と言うことでお願いします。しばらくは独占販売で稼ぎますので!」
「しばらく…?」
「ええ、そのうちに誰かがマネするでしょうから」
「情報を公開するのかい?」
「積極的に公開する気はないですが、これからも【クリーン】を多用していれば誰かが気付きますよ」
【浄化水】も販売するつもりだから、それを使えば、薬の質は上昇する。 そう説明をすると、
「だったら、大きな街の<商業ギルド>へ行って、『情報』として登録しておきな」
「<治癒士ギルド>じゃなくて、<商業ギルド>ですか?」
「ああ。アリスさんは【治癒士】にはならないんだろう? だったら<商業ギルド>だね。
<治癒士ギルド>へ持って行けば、『情報の買取』として、一度に大金が手に入るがそれで終わりさ。あとは<治癒士ギルド>が上手に儲ける手段にされる。
<商業ギルド>へ持って行き『情報の登録』をしておけば、情報は広く公開される代わりに、『使用料』がアリスさんの手に入ることになる。期間は15年だけだが、総額は<治癒士ギルド>よりは多くなるはずだ」
特許のようなものか。<商業ギルド>の方が、広く広まりそうだ。
「わかりました。 機会があれば、<商業ギルド>へ行ってみます」
そう言って顔を上げると、マルゴさんは自分に【クリーン】を掛け終わって、解体用ナイフの手入れを始めている。 あれ~?
「私、やっと2頭目が終わったんですが…」
「ああ、手際が良くなったねぇ。覚えが良いよ」
「いや、マルゴさん、4頭終わってますよね…?」
【クリーン】を掛けながら、少しだけ落ち込むと、
「年季が違うよ!」
一言で済まされた。 …これから精進します。
「さて、どれを売ってくれるんだい?」
約束はワイルドボアを3頭と猪を2頭。
「ワイルドボアを1頭、どれでも良いので返してください。あとはお任せします」
そう伝えると、一番大きな個体を返してくれた。
「じゃあ、猪を2頭とワイルドボア3頭の肉を貰うよ。
猪は1kg1500メレで、2頭分69kgで103,500メレ
ワイルドボアは1kg3000メレで、3頭分140㎏で420,000メレ
合計523,500メレでどうだい?」
「猪が、値上がりしていませんか?」
「正当な肉屋価格だよ」
「猪は村が買うんですよね? だったら、村の価格にしないと…」
「…自分から値下げするんじゃないよ」
やっぱり、分かってて値上げしてくれたんだ。ありがたいけどね。マルゴさんに身銭を切らせる気は無い。
「村の価格だといくらですか?」
「1㎏ 1,200メレだよ」
「では、猪が82,800メレとボアが420,000メレで、合計502,800メレ。端数は切捨てで50万メレですね!」
高級宿1泊分になった! 諦め顔で笑っているハクと頷きあっていると、
「アリスさん、約束しておくれ。金がなくなったら、本当にウチにくるんだよ? ハクちゃん、ライムちゃん、もしもの時は、ここに連れて戻ってきておくれ」
マルゴさんの心配に輪を掛けてしまったらしい……。
なんとかマルゴさんを宥め、『もしもの時は遠慮なく頼る』約束をして、肉以外の部位と肉の代金を受け取った。
インベントリからハウンドドッグとコボルト、猪の牙を取り出して、マルゴさんから貰った皮袋に入れると、思った以上にパンパンに膨らんでしまった。
「袋を換えようかね」
と勧めてくれたが、返事をする前に、
「こんにちはーっ!」
ルシィさんの元気な声が響いた。
ありがとうございました!




