護衛旅 集落 12 でも野営 ……はトラブルを招くらしい 2
「防御結界……?」
「防御、結界なのか……?」
ニールやスレイが直接攻撃をしたと思われるのが嫌で発した❝防御結界発言❞は、冒険者たちに軽い混乱を招いたらしいが、
「そっか。だから私がいくら触っても何も起こらなかったんだ?」
ハクの結界を不思議そうに何度も叩いていた女性が納得したように頷くのを見て、仲間の男性たちもなんとなく納得したようだ。
「だったらどうして俺は怪我を負わされたんだ!? 俺に悪意があったとでも!?」
ただし、勝手にニールやスレイに触ろうとした無礼な男を覗いて。
まあ、私も、この男がニールやスレイを故意に傷つけるつもりがあったとは思わないけどね? だって、魔物とはいえ❝子供の憧れスレイプニル❞だからね。
でも、
「だったらどうしてあなたは私の従魔に勝手に近づき、手を伸ばしたの?」
そこに邪な気持ちがなかったとは断言できないよね?
「そ、それは、ただ触ってみたかっただけだっ」
「触る? それがこの仔たちにとってどれだけのストレスになるかも考えず?」
「ストレスって……、ただ触るだけじゃないか!」
「ただ、触るだけ……? だったらあなたは自分がのんびりと寛いでいる時に、いきなり面識のない人にべたべたと触られることになっても、何も感じないのね? 相手が触りたがっているならとただ我慢をするのね?」
私に問われた男はその瞬間を想像したのか、盛大に眉を顰める。そうだよね? そんな反応になるよね?
「うちの従魔たちだってあなたと同じよ。急な接近は不愉快だと感じるし、戦闘時や私を守る目的以外の攻撃を禁じられているこの仔たちからしたら、同意のない突然の接触には恐怖も感じる。 だから私が結界でこの仔たちを守っているの。でも、そこの女性が理解しているとおり、何の悪意もなければただの結界よ?」
言外に、悪意があったんだろうと言ってやると、カッと顔を赤らめた男は何かを怒鳴ろうとしたが、
「もしもこのスレイプニルたちに触れることができて、おまえが撫でても黙って我慢をしてくれたなら……。おまえはきっとスレイプニルを軽く叩き、それを酒の席で自慢話にしただろうな」
仲間の男性に冷たい目でみられ、気まずそうに黙り込み、視線を逸らせた。
……自分はそんなことをしない!と言わないだけ、理性が残ってるってことかな?
「怒鳴ったり乱暴したり、他人を陥れようとすることだけが悪意じゃないわよ? 無意識に、自分の行動の裏に潜んでいることがあるから言動には気を付けないとね」
仲間の女性に諭されて、やっと納得したようだ。
ニールとスレイ、そして私に向かって気まずそうに謝ってから、すごすごと自分たちのスペースへ戻って行った。それを見送りながら、
「アンタと従魔には本当にすまなかったな」
「あの程度の火傷ですませてくれてありがとな」
仲間の人たちがそれぞれに謝罪をしてくれる。常識と良識もある彼らがどうして彼とパーティーを組んでいるのかと不思議に思い聞いてみると、
「死んだ仲間のたった一人の身内なんだ」
「バカなヤツだけど、最後の最後までバカな訳でもないから……」
困ったような笑顔と一緒に答えが返ってきた。
……彼を1人で放りだしたと想像すると、あんまりよろしくない道の人に簡単に引っかかりそうで怖い気がするな。
彼らのボランティア精神に心の中で拍手を送り、謝罪を受け取りその場は別れた。
さて、一難去って、振り出しに……。
今日の晩ごはんは何にしよう?
ありがとうございました!




