護衛旅 野営 5
「日差しも柔らかく、今日は良い天気であるな」
「ええ。風が気持ちいいですわね!」
首を上げ、尻尾を振り振りしながら軽やかな足取りのニールとスレイ。
「ニールとスレイ、うれしそうだね~」
「のんびりと羽を伸ばしているのにゃ~」
そんな2頭を見ながら嬉しそうにしているライムとハク。
散歩気分でご機嫌なみんなに釣られて私も楽しい気分になっているけど、後ろの馬車の様子を見に行くと、
「よく付いて来ているのにゃ! 偉いのにゃ」
「がんばってるね~」
必死の形相で走っているお馬さん……。8本足の魔物に普通の馬がついて来るのは大変だよね! 応援の気持ちを込めて依頼人夫妻の馬に【ヒール】を飛ばすと、必死の形相が少し和らぎ、代わりに気合のこもった表情になる。
体力を回復できた馬の様子を見て嬉しそうなハクとライムに微笑みかけながら、ついでに盗賊2人に対してもヒールを飛ばす。
この2人、昨日はロープでつないで自力で走らせていたんだけど、今日は帆布で簀巻き状態にして引きずっているんだ。ご機嫌で走るニールとスレイについてくるのは無理だと判断したハクの提案で。
走り疲れた男たちが生身で引きずられるよりは、最初から簀巻きにしておいた方が男たちの安全にもつながると言われて私も賛成したんだけど、引きずられたまま何の反応もしなくなるとさすがに心配になるからね。ヒールで回復した2人が悲鳴をあげるのを聞いて、安心して御者台に戻った。
……気を失ったままにしている方が親切だったかな? でも死んじゃったら生き返らせられないからね。生存確認の為に悲鳴は必要なんだから、仕方がないよね。
その後は魔物にも盗賊にも遭うことなく、至って平和な道中だった。
トラブル、と言うかちょっとだけ困ったことは、依頼人夫妻のお馬さんに【ヒール】を掛けたことを、うちのニールとスレイが拗ねてしまったことくらいかな?
「我らを差し置き主さまから魔力をいただくとは、なんとも憎きヤツよ!」
なんて苦々し気に言うのを聞いて思わず笑っちゃったよ。元気いっぱいのニールとスレイには【ヒール】なんて必要ないでしょ?
このまま真っ直ぐいけば明日には集落に着けるけど、左手に見えている森にも興味を引かれる……。だって、【マップ】にハジメマシテの反応があるんだもん!
真っ直ぐ目的地に行くか、寄り道しちゃうか……。私たちだけの旅なら寄り道一択なんだけど、依頼人がいる旅だしね……。
と、迷った時には即相談! そしてこんな時に活躍するのが<白猫(虎!)ハクの郵便屋さん>♪
まずはお手紙を書きます。書けたら手紙を小さく折り畳み、細長く柔らかい布に包みます。それを手紙が後ろに来るようにハクの首に優しく結んだら……、頰っ被りさせたいくらいに可愛いどろぼう…郵便屋さん!のハクの出来上がりだ。
揺れる馬車の上を難なく走り、後ろの依頼人夫妻の馬車の御者台へ軽やかにジャンプ! 驚く依頼人夫妻に首の後ろのお手紙を取って貰ったら配達終了。
でも、デキるハクはそれだけでは終わらない。可愛らしいにくきゅうで❝集落❞と❝森❞の文字を指し示し、夫妻が選ばなかった方の文字を細い爪でずたずたに。今度はそれを口にくわえて戻って来てくれるという、優秀な郵便屋さんなのです♪
ちなみに、どうしてお手紙を口にくわえて戻って来たのかと聞くと、
「あんなに揺れる馬車の中で首に布を結ばせたら、首を絞められるのにゃ!」
とのこと。揺れるのはこっちの馬車も同じなんだけどね? 私が首にお手紙入りの布を結ぶことを許してくれたことはハクからの信頼の証だったんだと気が付いて、嬉しくて頬が緩むのを止められなかったのは、仕方がないよね!
夫妻が選んだのは❝森❞。
危険がなく商売もできる集落の方を選ぶかと思っていたんだけど、2人とも私からの手紙を読んで❝また商材が豊富になるね❞と笑い合っていたそうだ。期待に応えられるといいんだけどね!
【マップ】にドクダミの群生地らしき場所があった。
チラリとハクを見て思い返す。
……臭かったんだよねぇ、ドクダミ。私は耐えられたけど、可愛いお手手で鼻を押さえながら涙目になってたハクが可哀想だったな。
<解毒薬>を作るのに必要だから、あれ以来ドクダミは採取せずに【複製】で増やしていたんだけど……。お茶にして飲むと病気の予防にもなるドクダミ。せっかく近くに群生地があるのにスルーするのはもったいないし……。
ということで!
夫妻に採取を依頼する。依頼料は中鍋の縁までふんわりといっぱいに摘んで鍋1個1,000メレ。とりあえず5個預ける。私とハクは別の場所へ移動するけど、この辺りに結界を張った上でニールとスレイの護衛付き。
群生地に案内してそう説明をすると、夫妻は鍋とドクダミに何度も視線をやって、
「破格、すぎるでしょ……?」
と困惑顔。
でも、ただでさえ臭いドクダミは採取の為に千切るともっともっと臭くなり、その臭さが手に移ってしまうこと(【クリーン】で取れるよ! もちろん無料)。それを臭いに負けずに1枚1枚丁寧に採取して欲しいことを伝えると、2人は頬を引きつらせながらも力強く請け負ってくれた。
ニールとスレイに2人の護衛をお願いし、ライムに、
(少し離れてから従魔部屋に入ろうね!)
と伝えると、
(ぼくもここにいる~!)
ハウスを拒否。森は危険だからどうしようかと迷っていると、
(今日はニールとスレイも一緒だから、ここで留守番させても大丈夫なのにゃ!)
(ライム兄上は我がきっちりとお守り致します!)
(ライムにいさまにはわたくしの背に乗っていていただきますからご安心くださいまし)
みんながライムを後押しする。
1匹寂しくハウスでお留守番をするより、みんなと一緒の方がライムも楽しいだろうし、
(じゃあ、ライムにも依頼人夫妻の護衛をお願いしようかな! ニール、スレイ。よろしくね!)
(ぼく、さいしゅもできる~!)
ライムにはここでドクダミの採取をお願いすることにした。
久しぶりのハクと2人だけの行動はこの世界に来たばかりの頃を思い出させ、なんとなく懐かしい気になった。
もちろん、来たばかりの頃と違って色々とできるようになってるけどね!
さぁて! どんなハジメマシテが待っているのかな?
狩り&採取、私たちもがんばるぞーっ!
ありがとうございました!




