冒険者志望です!
「ライムが『美味しい野菜のお礼に、栄養を分けてあげる』って言っていますが、どうします?」
「ライムが…?」
「ええ、ライムが。 そのついでに、一緒に植わっていた『カモミール』も少し分けて欲しいんですが」
事情を飲み込めないルベンさんにマルゴさんが説明してくれた。 ルベンさんは驚きながらも感心して、何度も頷いている。
「ライム凄いな! 昨夜はありがとう! ああ、白い花のことだな? いいぞ。どのくらい摘んで来る?」
「結構面倒なので、自分で摘みに行きますよ?」
「アリスさんは解体を覚えるんだろう? 任せろ」
忙しいルベンさんにカモミールをチマチマと収穫してもらうのは申し訳ないなぁ……、と思って躊躇っていると、
「今日からは俺も畑を手伝えるからな。花を摘むくらい大した手間じゃない。任せてくれ」
ルシアンさんも手伝ってくれると言うので、お願いすることにした。
「虫がついていなくて、花びらが少し反り返って真ん中の黄色い部分がこんもりと盛り上っている花を、茎を3cmほどつけた状態で収穫して欲しいんです」
「咲き切った後の花が欲しいのか? ……どうするんだ?」
「お茶にします」
「飲めるのかい?」
あれ? ここではハーブティーとかは飲まないのかな? コンパニオンだけなんてもったいない!
「飲めますよ~! 美味しくて、お肌に良くて、体に良い、色々とお得な花です♪」
「「詳しく聞かせて!」おくれ!」
“お肌”の件で、ルシィさんとマルゴさんの目の色が変わった。
「カモミールをお茶にして飲むと、太陽の光に強くなります。 つまり、日焼けによるシミやソバカスを防ぐので、白い綺麗なお肌を保てます。
胃腸も整えてくれるので、胃が痛いな~とか、気持ちが悪いな~と思ったときにはお勧めです。
血流の改善にも効果がありますよ。“冷えは万病のもと”ですからね。 血流が良くなるだけで色々と、特に女性特有の体の不調が改善されますよ」
「女に優しい花なのか?」
ルシアンさんが疑問を挟んだ。
「確かに、女性には随分と優しいですね。母乳の分泌も促してくれますし。
でも! 男性にだって優しいですよ? ……周囲に、髪に不安がありそうな人はいませんか?」
そう聞くとルベンさんは両手で頭のてっぺんを押さえ、ルシアンさんは視線をルベンさんの頭に固定した。ルベンさんの髪はまだふさふさしているけど?
「禿げないのか!?」
「薄毛や抜け毛を予防します。 血流が改善されると、発毛や育毛にも効果があるので禿げ難くなりますよ」
……男性組の視線も熱い。身近に薄い人がいるのかな?
「と、まあ、他にも、色々とお得なんです^^」
「ありったけ積んでくるわ!」
ルシィさんが気合を入れて宣言する。
「畑に必要な分は残してくださいね? あ、収穫は鋏を使ってください。次の花が咲きにくくなると困るので」
「わかったわ。丁寧に摘んでくるから、お昼に飲ませてくれる?」
「いいですよ。保存の仕方もその時に説明しますね」
「楽しみだねぇ♪」
お昼のお茶が楽しみで笑っていると、
「……なあ、なんで親父たちは普通に聞いているんだ? カモミールの花は“薬”だって話だよな。治癒士の飯の種なんじゃないのか?」
ルシアンさんが不思議そうにみんなを見回した。
「アリスさんはさっき“治癒士になることは考えていない”って言っていたねぇ?」
「言いましたねぇ」
さすがマルゴさん。よく覚えているなと感心していたら、
「はあ!? こんな知識を持っていて、その歳で【リカバー】を使えて、治癒士に出来なかった治療まで成功させておいて、なんで治癒士にならないんだよっ!?」
「そうよ、どうして!? 薬だって、自分で作ってるんでしょう? 知識だって豊富だし魔力量だって多いから、すぐにでも上位ランクの治癒士になれるじゃない!」
ルシィさん姉弟に掴みかからんばかりの勢いで迫られた。
「冒険者になる予定なので」
「どうして!? それだけの能力があって、どうして冒険者になんて!」
「お嬢様にはわからないだろうけど、冒険者は危険なんだぞ! 軽い気持ちでなるものじゃない!」
やっぱり冒険者は危険な職業のようで、2人は大反対らしい。 どうしたものかとハクに顔を向けたが、笑っているだけで何も言わない。
「危険なのはわかっていますよ?」
でも、創造神と守護獣が揃って薦めるんだ。
「でも、無理をしなければ、それなりに稼げるだけの能力は持ってます」
だから胸を張って言う。 冒険者になる為にビジューが創ってくれた<身体>と<スキル>と<装備>があるんだ。 簡単には死なない。
「お嬢様に何ができるんだ! わざわざ危険な場所に飛び込む必要なんてないだろう!?」
「そうよ! 治癒士になったら“安全に”たくさん稼げるわ! リカバー1回で金貨よ!? 冒険者よりも、ずっとずっと稼げるわ!」
ルシィさんもルシアンさんも、とても親身に心配をしてくれているのがわかる。 だから、安心してもらうために、
「マルゴさん、どうでしょう?」
インベントリに残っている、ゴブリン以外の獲物をすべて取り出して解体台の上に置いた。 マルゴさんは獲物の状態や切り口をテキパキと観察して、
「今の段階でも、D~Cクラス相当の腕はあるだろう。冒険者として、十分にやっていけると思うよ」
と言ってくれた。 それでも納得しない2人に、
「どう生きていくかはアリスさん次第だ。 能力がないなら止めるが、十分にありそうだ。応援してやれ」
「アリスさんは、女神に愛されて生まれてきた様だからね。 よほど無謀じゃない限りは好きにさせるさ」
大人2人が口添えしてくれた。
「でも、もし、騙されてひどい目にあったりしたら……」
「なにも冒険者なんて荒くれ仕事…」
ルシィさん姉弟は随分と心配をしてくれているが、私はそんなに甘くないと思うんだけど?
(アリスの甘い部分は僕がフォローするから心配ないにゃ!)
……どうやら私は甘かったようだ。 でも、しっかりものの保護者が付いてくれているし、
「ぷきゅ~~!」
ライムもいる。どうにかなるだろう。
「アリスさんは優しいが、それだけじゃないからね。 もし、騙されるようなことがあっても、多少のことなら経験として糧にできるさ」
マルゴさんからも、微妙な太鼓判を押してもらった。
「ルシィ、ルシアン、考えてごらん。
回復魔法は【リカバー】まで使いこなす。
【薬師】スキルで薬を自分で作っちまう。
【鑑定】スキルを使いこなした診断力に、その辺の治癒士に負けない知識もある。
これに加えて【攻撃魔法】に高レベルの【アイテムボックス】。
他とは段違いだろう豊富な魔力。
ハウンドドッグが襲って来た時の反応の早さからみて、【魔力感知】も持っているね?
剣は一撃でオークをキレイに真っ二つにしちまうし、他の魔物もほぼ首を落として仕留めるだけの腕がある。
これに加えて、ハクちゃんやライムちゃんのような賢い魔物を従魔にする【テイム】スキル。
他にも色々持っていそうだ。
これだけ女神に愛された人間が、わざわざ冒険者になろうってんだ。何をやらかすのか楽しみじゃないか!」
マルゴさんの見解を聞いて、2人は口を開けたまま固まった。
【テイム】スキルはまだ持っていないけど、ややこしくなりそうだから黙っておく。
「凄いわね…」
「なんだよ、それ…」
「【治癒士】に納まっちまう方が勿体無いないじゃないか?」
マルゴさんが楽しそうに言うと、ルベンさんが無言で大きく頷いた。
ありがとうございました!




