ラリマー最後の夜 3
「あみだ、く、じ~、あみだ、く、じ~、当てて嬉しい……」
帆布の敷物の真ん中に、蜘蛛の巣を歪にしたような線を描いた紙がある。放射状に広がる線の端、自分に向かって伸びている線から中心に向かって縦線、横線の上を指で追っていき、
「3番の袋ですね。 っ! 組紐(髪飾り)が当たりました! これはディアーナに似合いそうだ。大当たりです!」
「いいのっ!? 嬉しい!!」
「次は俺だな。あ~みだ~くじぃ、あ~みだ~くじぃ、当てて嬉しいあ~みだく、じ!っと。 5番は……、ポーションの詰め合わせが当たったぞ!」
「なんとっ! セラフィーノ君、それは商業ギルド(うち)に売ってください! 高く買い取りますよ!」
最終的に行きついた先に書いてある番号がその人の当たり番号。
当たった当人にはイマイチな商品でもそれを譲りたい人や欲しがる人がいるので、問題なく盛り上がりを見せている。たま~に、
「きゃあ! アリス手作りのクッキーの詰め合わせ! 大当たりだわ! ………シルヴァーノ、組紐の髪飾りと交換、ね?」
「そんな悲愴な顔をしなくても大丈夫ですよ、ディアーナ。髪飾りは交換ではなくプレゼントしますから。ああ、でも、アリスさんのクッキーは羨ましいですね。少しだけ分けてくれますか?」
「もちろんよっ」
「ディアーナ! 俺にも!」
「いいわよ。マスターが当てた干し肉2枚とクッキー1枚の交換ね?」
「なっ! おまっ……。それは不公平だろう? アレは俺の貴重なつまみだぞ!」
「クッキーだって私の大切な、大切な、大切なオヤツよ?」
小さな諍いに発展しそうな雰囲気もあるけど、みんなが楽しそうに笑っているから気にしない。
中には、
「っ!! <治癒1回無料券>!? 連絡さえ取れれば、アリスさまの方から治療に来てくれる……!?」
「あ、総支配人さん、ごめんね。それハズレ」
「!?」
「急いで駆けつけて精いっぱいのことはするけど、治せなかったらゴメンってことで……」
「……治癒魔法は【ヒール】限定ですかな?」
「ううん。使える魔法は全力で駆使して治療にあたる。って言っても今は【リカバー】までしか使えないから治せない病とか怪我もあるだろうし」
「大当たりではないですか!! この1枚に何千万メレの価値があると思っているのです!?」
「……私は旅してるから居所を探すのに時間がかかるし、居所がわかっても移動に時間がかかるから急病人には使えない何気に不便なチケットだと思うんだけど。ライムが提案してくれたから入れたんだよね」
「おお、それではライムくんにお礼をしなくては! ……うちの畑の作物を欲しいだけ、ではどうです?」
「ぷっきゅう!(もらった!)」
なんて、思わぬ展開を見せる景品もある。
ちなみに私もくじに参加した。当たった景品はネタ枠として出した、ハクの肉球とライムの触手(?)、スレイとニールの蹄スタンプだ。
私の手元に戻ってきたのは、従魔たちの成長を大切に見守れ、というこの世界からのメッセージだと思って大切にインベントリに収納した。……セラフィーノが何かを訴えるような視線を送って来ていたけど、気が付かないフリでスルーしておいた。
楽しかった時間はあっという間に過ぎてしまう。
はしゃぎすぎて疲れてしまったライムがニールの頭の上でうたた寝を始めたのをきっかけとして、今日のお食事会はお開きとなった。
ネストレさんが呼んでくれた屋台にはまだ食材が残っていたので買い取ろうと声を掛けようとすると、一足早く、ネストレさんが残っている全ての食材を私と従魔たちへのプレゼントとして買い取ることを宣言し、それを聞いた食事会の参加者全員が買い取りに参加してしまった。
お陰で私のインベントリに色とりどりのカットした果物、スライスした生ハムとポルケッタ(子ボアの丸焼き)、 種類に合わせてカットされたチーズが加わって、ハク達が大はしゃぎだ。もちろん私も嬉しい!
インベントリのリストでもらった食材の名前を見る度に、この夜のこと、参加してくれたみんなのことを思い出すだろう。
この街に来てから大変なことややるせないこと、本当に色んな事があったけど……。
やっぱり最後に思うのは、私もハク達もみんな同じ。
本当に、本当に、楽しかったなぁ♪
ありがとうございました!




