護衛依頼。選り好みも冒険者の権利です! 4
う~ん……。道中に怪我や病気をしないという保証はないし、【キュア】や【ヒール】、【リカバー】の価格も最初に決めておくべきかな? 私としては、依頼人へのサービスで良いと思うんだけど、そんなことをしたら、きっとハクやライムに叱られちゃうし……。だったらいくらくらいが妥当かな?
依頼人夫妻に受けてもらうアルバイトの種類や支払い金額をどうするかと頭を悩ませている横で、
「荷物の預かりサービスなんかどうかにゃ?」
「いいね! バシャ1だいぶんのにもつで10まんめれくらい?」
「う~ん……? 品質が劣化しないことで出る利益の差額の計算が必要になるから難しいにゃ~」
ハクとライムも依頼人と私たちの両方が特になる提案を考えてくれているし、ディアーナはギルドの買取担当さんと相談しながら、主な魔物と採取物の買取目安表なるものを作成してくれている。
もちろん、素材の状態やその時々の在庫状況によって価格が変動することは大前提なので、あくまでも❝目安❞なんだけどね? 獲物の価値が何もわからない状態で売買せずにすむのはとっても助かるし役に立つ。
……まだ、依頼人夫妻からは何の返事もないんだけどね。
それでも❝アルバイト料金表❞や❝買取目安表❞を作成するにはきちんと理由がある。ただ先走っているわけではない。
その理由は、私の相談役でもあるハクが「あの夫妻は絶対アリスに依頼してくるのにゃ!」って、自信満々でいうから。
ただそれだけなんだけどね? 信じるには十分なんだ、私にとっては。
だから、依頼人夫妻が私が借りている応接室にやって来た時には、
「……お邪魔、でしたね。少し時間をおいて出直します」
「お気遣いなく。どうぞ、座って? 私たちと同じお茶でいい?」
(待ちくたびれたのにゃ~!)
(やっときたの~!)
私たちの準備はすっかり終わっていて、❝お茶の時間❞を楽しんでいた。
今日のお茶請けはさつま芋の塩バターチップス。それに合わせてお茶はミルクもお砂糖もなしのストレートティーだ。ハクとライムのお茶にはミルクを入れてるけどね。
夫妻の好みを知らないので、とりあえずは私と同じようにストレートで、ミルクとお砂糖は別に添えて出すと、
「あの……、私たちはあまりお金に余裕が……」
「たまたま❝お茶の時間❞に訪れたお客さまにお茶を振舞うだけよ? お茶代の請求なんてしないわよ」
代金の心配をされてしまった。世知辛いこの世界を嘆くべきか、さすがは商人さんだと称えるべきか……。なんとも言えない微妙な気分を隠して微笑みを浮かべると、
「このギルド内で誰に尋ねても、みんながみんな『依頼を受けてもらえ!』『この縁をつなげ!』と言っていたのは、こういうことなのか?」
「皆さんの話は本当だったのね……。これで凄腕だなんて……。
女神さま、私たちはこの幸運に感謝します! この素晴らしい幸運を自らの欲で穢さないよう、誠実に向き合うことを誓います!」
夫妻はぼそぼそと短い内緒話をしたかと思うと、
「アリスさんが狩った魔物や盗賊の権利は私たちとは無縁のものです。当然、全ての権利はアリスさんのものだと認めます!」
「斡旋していただくアルバイト代で賄える限り、毎日でも【クリーン】を購入させてもらいます!」
「アリスさんは解体が得意ではないと聞きました! 私、店の仕込みを手伝っていたので、調理の下準備のお手伝いは得意です! あと、簡単な解体もできます!」
「私は調理や解体はしたことがないのですが、今日中にゴブリンの魔石の取り出し方を覚えます! あと、薬草などの見分けは付くので、頑張って採取します! なので、好きなだけ狩りや採取の時間を取ってください!」
怒涛の売り込みが始まった。ただし、
「あ、でも、前の集落に引き返す際の別途1日1万メレの支払いはなんとかなりませんか? その道中でも狩りや採取が可能だと思うのですが……?」
私の出した条件を丸飲みするわけではなく、きちんと自分たちの希望も言ってくれる。夫妻の言い分ももっともなので私たちに否やはない。了承すると、
「このお話は、依頼の期間中に、私たちが手に入れる素材でアリスさんが必要な物があれば買い取っていただいたり、アリスさんが手に入れた素材から私たちが欲しいと思うものを買い取らせていただいて、それを次の集落で販売できる、という解釈で間違っていませんか?」
「はい、合っています」
「買い取りのタイミングは次の集落に入る直前でもいいのでしょうか!? それまでは、アリスさんのアイテムボックスの中で預かっていていただける、と? 噂ではかなり高レベルのアイテムボックスだと聞いていますが……」
「それで構いません。お聞きのとおり、私のアイテムボックスは高レベルなので、品質がほとんど劣化しないので安心してもらって大丈夫です。別途料金が掛かっても良ければ、お2人の荷物も預かりますよ?」
今度は、私の出した条件を呑むことで、自分たちにどんなメリットがあるのかの確認作業も忘れない。
その確認内容が、彼らにとって都合の良い曲解などの入らない、こちらの意図することを素直に受け取ってくれたものだったので、私たちはとても気分良くお話をすることができ、
「アリスさんに、この依頼を受けていただきたい!」
「はい、喜んでお受けします♪」
気分よく、依頼の受注をすることができた。
ディアーナの提案を聞いてみて良かったな♪




