お見送りの後に……
みんなの乗った馬車がゆっくりと進んでお互いの表情が見えなくなると、堰を切ったようにぽろぽろと涙を溢すヴァレンテ君の背中を優しく擦る。
寂しいのを我慢して、みんなに心配を掛けないように頑張って笑顔を作っていたヴァレンテ君にはご褒美があるんだ。それは大量の紙の束。
「手紙…? このガタガタの字は……、なんだよ、あいつら……、いつの間に文字を書けるようになったんだっ……」
ミネルヴァさんを始めミネルヴァ家のみんながヴァレンテ君に書いた、❝離れていてもずっと家族❞❝独り立ちおめでとう!❞❝いつもあなたを想っている❞❝おにいちゃん、だいすき❞❝がんばれ❞といった内容のお手紙。
まだ文字を教わっていなかった年少さん達も、ミネルヴァさんや護衛組に文字を教わりながら一所懸命に書いていた。❝がんばれ❞❝だいすき❞と一言だけだけどね? 中にはヴァレンテ君と自分の名前だけを書いた子もいたりしたけど、みんな頑張って書いていたよ。
それと、手紙はくるくると丸めて紐で結ばれているんだけど、その紐はそれぞれが自分で組んだ組紐なんだ。年少さんたちもお兄ちゃんお姉ちゃんに手伝ってもらいながら一生懸命に組んだあと、❝げんき!❞❝ごはん!❞❝おかね!❞とそれぞれに祈りを込めたプレゼントだ。きっとこれからのヴァレンテ君を守るお守りになってくれるはず。
せっかく閉まっていたヴァレンテ君の涙腺が今度は全開で開いてしまったけど……。今度のは悲しい涙じゃないから、いいよね?
涙の止まったヴァレンテ君を工房の親方さんの所まで送って行き、みんなの分も合わせてご挨拶。昨日ミネルヴァさんが挨拶に来ていたけど、今日はみんなの分も心を込めてお願いしておいた。ヴァレンテ君をよろしく!と。
………ヴァレンテ君のモデルとしていつでも工房に来てくれと言われたことには笑顔でお礼を言ったけど、自分が今彫っている木像のモデルもお願いしたいと言われたことには、全力で拒否を示しておいた。
この時期にこの親方のモデルなんていったら……、ビジューに会わせる顔が無くなるからね! 最初にお願いしたとおり、ビジュー神像は私の描いたビジューの似顔絵を元にお願いします!
さて………。そろそろ頃合いかな?
実は私、ハク達に言わなくてはいけないことがあるんだ。でも、なかなか勇気が出なくて……。でも、きっとハク達は気が付いてると思うから、さっさと自分から告白しないと信頼関係にひびが入りかねない。
でも、言い出すにはなかなか勇気のいる内容で……。
ハクとライムを前にどう話を切り出そうかと迷っていると、2匹もそれに気が付いたのか、無言でじっと私を見つめて来た。
言い難い……、でも言わないといけない……。何度も口を開き、でも声に出せずに口を閉じ。これではいけないと唇を湿らせてもう一度口を開く……。を繰り返していると、
「「………アリス?」」
とうとうしびれを切らした2匹がため息交じりに私の名を呼んだ。
…………大丈夫だ。きちんと善後策は考えてある。……問題を解決させてから告白すればよかったかも?とチラリと頭を過ぎった考えは、もう今更手遅れで。
「あのね? じつは、私たち、今現金を1メレも持っていないの! 無一文…、無一メレ?ってヤツなの!」
勇気をもって告白することを選んだ。大丈夫! きっとハク達は理解してくれる……っ!
「……にゃ―――――――――っ!?」
「……ぷきゅ――――――――っ!?」
ギュッと目を閉じて勢いを付けて言った告白は、2匹に悲鳴のような鳴き声を上げさせることになってしまった。
もしかして……、気が付いていなかったのかな?
ああ、やっぱり、金策を済ませてから告白すればよかったよ! 本当に、今更手遅れなんだけどっ!
ありがとうございました!




