お引越し準備 20
宿でのんびりとお風呂タイムを楽しんだ後、ハクとライムがベッドの上でころころとじゃれ合っているのを横目で見ながら<痛み止め>を製薬していると、宿のスタッフに案内されたベニアミーナちゃんがやって来た。
<沈黙の誓い>を行ってくれる裁判官さんの予約が取れたことを報告に来てくれたんだ。
時間は明朝7時頃。ミネルヴァ家の朝食が終わってからの予定。護衛の冒険者たちへの連絡も完了。
初めて知ったんだけど、リベラトーレさんとバルさんのパーティーメンバー以外の護衛組は、ミネルヴァ家にお泊りしているそうだ。3食付きで1泊2,000メレ。
格安だけど、食事は (お引越しの旅で不満を抱かないように)3食中の2食は粗末な物だそう。まだ駆け出しで節約中のルシアンさんたちはともかく、それなりに上位ランクのアルバロやマルタのパーティーまでミネルヴァ家にお泊りしていると聞いてびっくりした。
マルゴさんから預かっている経費の節約&少しでもミネルヴァ家に❝現金収入&安全を❞と考えてのことらしい。……ってベニアミーナちゃんたち年長さんは思っているんだって。ミネルヴァさんが無料で良いって言ったのを護衛組が拒んだ結果が2,000メレ。私には高いのか安いのか判断できないんだけど、年長さん達に言わせると絶妙なラインだそうだ。
そのおかげで護衛組への連絡は簡単に済み、ご両親と同居しているリベラトーレさんと酒場で連絡を待っていたバルさん達にも了承を得られたのでこうして報告にきてくれた、と。
前々から思っていたけど、ベニアミーナちゃんもクリスピーノ君も、駆け出しとは思えないくらいしっかりとしたお仕事をしてるよね? 私も見習わないと!
昨夜たくさん作った<痛み止め>をさらに【複製】スキルで複製したので、ストックは結構な数になった。それを以前に製薬しておいた分と合わせて商業ギルドに依頼分以上の納品をしたので、今日の<沈黙の誓い>の為の費用を支払っても、私の懐はそれなりにぬくぬくだ。
金策が思っていた以上に上手くいって、ほくほく気分でミネルヴァ家の門をくぐろうとしたら、
「おはよう、アリス。家に入る前に話を聞いて欲しいんだ。少しだけ時間をくれ」
なんだか思い詰めたような表情のアルバロとマルタに出迎えられた。
「子供たちに聞かれたくないの。例の結界を張ってくれない?」
何かあったのかと不安に思いながら、声を潜めたマルタに言われるがままにハクに結界を張ってもらって視線で言葉の続きを促すと、
「おチビちゃん達だけ美味しい物を食べるなんてずぅ~るぅ~いぃぃ!」
「頼む! 俺たちにもあいすくりーむを買う権利をくれーっっ! もちろん、割高で良いからよぉぉぉぉ!」
「……………んん?」
玄関に背を向け直立したまま、表情だけを情けないものに変えた2人の気の抜けるような主張が結界内に響いた。
「おチビちゃん達に、『とっても冷たくってとっても甘い、とっても幸せになれる魔法のようなお菓子』って自慢されて、食べたくて食べたくて仕方がないの~っ!」
「ジャスパーで食った、あの味が忘れられねぇんだっ! 頼むよ、アリス!」
……朝から玄関で待ち構えて、真剣な表情で言うようなことじゃあないよね?
なんだか気が抜けてしまい、返事の言葉を出せずにいると、
「もちろん、俺たちだけって訳じゃないぞ? 子供たちの分も俺たちが買わせてもらうし!」
「えっと、あいすくりーむの数が足りないのなら、みんなできちんと平等に分けるから……。あ、おチビちゃん達の分はクッキーとか? アリス価格の3倍払ってもいいわ!」
「もちろんあいすくりーむだって、ありす価格の3倍払う!」
なんだかどんどんと話が大きくなってしまい、
(まいどありなのにゃーっ!)
(まいどあり~♪)
「きゃあ! 売ってくれるのね!? ありがとーっ!!」
「さすがはハクとライムだ、話が分かる!」
私が何も言えない間に、守銭奴と護衛組代表の間で話がまとまっていた。
‥‥‥‥おかしいなぁ? 今日って、おやつを売りに来たんだっけ?
ありがとうございました!




