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お引越し準備 14 

「触らないように気を付けるのにゃ!」

「さわっちゃだめだよ!?」


「うん。ちゃんと手袋してるし、スコップでそのままインベントリに入れるから大丈夫だよ~。……よし、採れた! これで10本揃ったね!」


 今日の採取品は<モンクスフード>。とても綺麗な紫色の花で、必要な部位は花から根までの全て。名前の由来は花の形が修道士の被る頭巾に似ているから、だそう。でも、修道士には不似合いな、とても強い毒を持っているんだ。しかもその毒は経皮吸収・経粘膜吸収されるから素手では触れないので、慎重に採取しなくてはいけない。


 ……この花にそっくりな花を私は知っている。その花の名前は<トリカブト>。


 日本では犯罪に使われる花として有名だったけど、ビジューでは普通に討伐などに使われるらしく依頼ボードに載っていた。10本一束3,000メレ。決してお得な依頼ではないけれど【マップ】のお陰で採取場所には困らないと判断して受けて来た。


 ……何かに使えるかもしれないから、少し多めに採取しておこうかな? ついでだし。


 毒物を所持することにほんの少しの罪悪感を感じるけど、ヒト相手に使うつもりじゃないからね。意味のない罪悪感はここに捨てていくことにした。


 それから次はスライムの討伐。依頼は5匹以上。これはF&Gランクの用の依頼と思われがちだけど、ランク制限なしの常設依頼だったので問題ない。スライムは何かと便利な素材だからね。たくさん狩っておく。


 私が狩ったら低ランクの人たちが困るかなってディアーナに聞いたら、スライムはすぐに湧くし、気を抜くと繁殖しすぎる魔物だから一時的に絶滅させても問題ない。戦闘のできない人たちの被害を無くす方が大事って言っていたから遠慮はしないよ!


 そのついでにハウンドドッグの群れの討伐だ。街から少し(スレイ達の足で少し)離れた草原でハウンドドッグの群れの目撃情報があったらしく、速やかな討伐を求められた。


 ちなみにハウンドドッグの魔物ランクはF。Fランクになったばかりの冒険者には荷が重いけど、Eランク冒険者なら1人でも討伐が可能なランクだ。でも、10頭以上の群れになると危険度が上がってCランクになる。しかもパーティーでの受注を推奨する案件になるらしい。


 理由はハウンドドッグの機動力と執念深い性質にある。犬の魔物だから足が速いのは想定内。ただ、ヤツらのその足は獲物に襲い掛かる時以上に、自分たちが逃げる時に真価を発揮するらしい。……いわゆる❝逃げ足が速い❞ってやつだね。


 ❝今の群れではこいつに敵わない❞と判断したリーダーが遁走の指示を出すと、群れはすぐさま逃げることに全力を注ぐ。自慢の逃げ足でヤツらは見事に散り散りに散らばって逃げるそうだ。そうすると少数のパーティーでは全ての個体を討伐することは難しくなり、何頭かを逃がしてしまうことがある。すると、無事に逃げた個体が後日仲間を引き連れて復讐に戻って来ることがあるらしい。……ネフ村で体験したアレのことだね。


 ヤツらの復讐を防ぐ為にはきっちりと群れを全滅させる必要があるので、できるだけパーティーでの受注が望ましい、とのことだけど、もちろん私は誰ともパーティーを組んでいない。


 でも、当然単独(ソロ)でもないんだよね! ハク、スレイ、ニールの頼りになる従魔たちが一緒だ(よいこのライムは従魔部屋(ハウス)でお留守番)。


 12頭いた群れの中でも体の大きい個体を3頭狩った時点でリーダー(雌だった!びっくり!)が撤退の指示を出し、生き残っていたハウンドドッグたちは瞬時に四方八方に逃げ出した。


 早すぎる撤退の判断に少しだけビックリしながら、私は自分の前方を走る4頭に向けて、


「ウインドカッター・クアドラプル!」


 風魔法で攻撃する。


 残りの5頭はそのまま逃げる事だけを考えている様で、仲間が殺されても振り返りもせずにひたすら逃げている。けど、


「ギャウッ!?」


「ギャッ!!」


 ハクの結界にぶつかった1頭が結界に跳ね飛ばされるのと、別の方向に逃げていた1頭がニールに蹴り殺されるのははぼ同時だった。一拍遅れて、スレイが追っていたハウンドドッグの断末魔の声が聞こえる。


 残り3頭。


 リーダーを含めた生き残りの3頭は、ハクの結界で逃げ道を塞がれたことを理解したのか逃げようと無駄に足掻くことはせず、3方から一斉に私に向かって来て……、辿り着く前にニールとスレイに追いつかれた2頭がそれぞれ頭を蹴り砕かれた。


 残り1頭。


 最後まで残ったリーダーの雌はもう後がないことを悟っているらしく、私を殺そうと牙を剥き出しにしながら襲いかかって来る。左右にフェイントを掛けながら駆け寄って来るので魔法で狙いを定めるのは難しかったけど、最後、攻撃の瞬間は真っ直ぐに飛びかかって来たので、太刀(からす)を持った腕をそのまま前に伸ばすだけで決着はついた。


「ぐっ…!! 【ヒール】【ヒール】【ヒール】!!!」


 ハウンドドッグが私を噛み殺す為に開いた口の中に、【鴉】を飲み込ませるようにして突き刺したのは良いんだけど、切れ味抜群過ぎる私の愛刀は途中で止まることなく獲物の体内に吸い込まれ……。結果、私の手がハウンドドッグの口の中に入ってしまい、その鋭い牙で私の手が傷ついてしまったのは大誤算。


「痛かったーっ!!」


 思わずヒールを3回も重ね掛けしちゃったせいで、


「アリス! 傷を見せて! もう治った…? いいから早く見せろ!」

「主!」

「主さま!」


 心配してくれた従魔たちに囲まれて、しばらくは「大丈夫」をひたすら言い続けることになってしまった。


 怪我自体はヒール1回で完治する程度だったんだよ。ただ、自分の怪我に驚いてヒールを連発しちゃっただけなんだ。


 そう説明してもみんなはなかなか離れてくれず……、助けを求めてハウスから出て来てもらったライムにも、


「アリス…っ! いたかったね…。いたかったねぇ……っ」


 泣かれてしまって、もう、ひたすら反省の時間になった。


 ……目を血走らせて牙を剥き出しに襲ってきたハウンドドッグよりも、❝にゃ❞を忘れたハクの方が迫力満点だったことは秘密にしておく。


 すっごく心配をかけてしまったことは申し訳なかったんだけど、みんなの心配してくれる様子が嬉しかったなんて……、ビジューにしか言えないよね? 


 ふふっ。今夜のごはんはお礼とお詫びの気持ちを込めて、みんなの好きなものを好きなだけ作っちゃうぞ♪


ありがとうございました!

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― 新着の感想 ―
[一言]  過保護ですねえー。  切った張ったのお仕事で、かすり傷を前に大騒ぎする面々。  こりゃあ難易度の高い討伐任務なんて、受けるのを認めてくれなさそうですわ。
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