お引越し準備 7
大好評だったハンモック。作り方はギルマスも見ていたし、後は簡単な図解と申請書を書いたらお終いだと思っていたんだけど、
「へぇ、こっちのハンモックは1人でできるんだな! 使い心地も良さそうだ。だが、アリスの言う通り、組んだり解いたりを毎回するには向かないか……。
やっぱり今回は❝6段はしご❞?ってヤツで正解だな!」
アルバロが変な納得の仕方をしてくれたおかげで長引くことになった。だって、
「な、なんとっ……! たった1本の紐でこれだけのことが!? さすがはアリスさまですな!
……なるほど、これが❝6段はしご❞ですか。これは大人数でなくてはできない手法だが、たった1本のロープでこれだけのものになる上に解体が一瞬だ。 アリスさま、こちらも作り方の登録をお願いします!」
ネストレさんがとても気に入ってしまったから……。
きちんとしたハンモックに比べて間隔が広い分危険だって強調しても「厚めの布を敷けば大丈夫でしょう」と言われ、体に当たる紐が少ない分痛いし使い心地も良くないって言っても「それも厚めの布が解決してくれます。それに冒険者や軍人は鍛えているから大丈夫ですよ! 編み上げるのに人手は必要ですが短時間で編める上に、一瞬で解けてロープに戻せるとは素晴らしい!」と笑って追加分の申請用紙を差し出される。
アルバロとマルタはネストレさんの評価に満足そうに頷いているし、ハクとライムはネストレさんの差し出している申請用紙を受け取って、私の目の前に突き出してくるし……。
ハクに(諦めが肝心にゃ!)と楽しそうに心話を送られて、諦めました……。
<あやとり>の申請は、<折り紙>の時にお世話になった工芸品部門のカルミネさんと設計図担当職員さん、それから手先の器用な数名の職員さんの到着を待つことになった。
待つ間が暇だということで、マルタの提案で❝本当に子供の遊びなのかを検証しよう! あやとり教室❞が開催されることになり、ワクワク顔の生徒さん達(ネストレさん、アルバロ、マルタ)と一緒に糸を両手に授業を開始したんだけど、
「こっちの糸を親指で掬うように引っかけて……」
「……っく、ふっ……。よっ!」
「なんとも、これは……」
「引っかからんぞ!」
「こっちを外したら、また引っかけて……」
「きゃあ! 違う指のが外れた…っ!」
「な、なかなか、どうして……」
「ぐっ……、これでどうだっ!」
「ここで指に掛かっている全部の糸を一回捩じって……」
「は? なに、今の! もう一回! もう一回やって!」
「もう一回は無理だよ~? 最初からやるからちょっと待ってね?」
「…………っ」
「うおっ!? 無理だ! 指の骨が折れる! 折れるっ!」
「そんなに簡単に指は折れないよ~^^」
「中指の紐を指でつまんでから親指に引っかけて……」
「これは簡単ですな」
「ああ」
「うん…」
「……で、こっちの親指の近くの穴に指を通して、こっちの糸を滑らすように外したら……出来上がり!」
「………できあがらん!」
「……うん。違う指も外しちゃったね」
「できた! あははっ! できたーっ!!」
「ええ、私もできましたぞ! これを私が! 私が……!」
なかなか大変な作業になってしまった。
普段指先を使う作業をしていない人には難しい動きだったみたいだね。でも、まあ、これも❝慣れ❞だから。何度も繰り返すうちに上手になるだろう。と、何度か反復していると、
「これ、6段が最高なの?」
「ううん。もっと増やせるよ?」
指を動かすことに慣れたのか、マルタが素朴な疑問を口にした。
段が多くなれば間隔が狭くなってその分安全だろうし、やっぱり気になるよね? でも残念なことに、段が多くなる分、横の幅が狭くなるんだよ……。
7段、8段、9段と実演してみせると、
「うん…、無理! 無理で良かった~っ!」
「ああ、6段がベストだ。それ以上はいらん。……良かったな!」
「ふふふっ! いつかは10段越えを……!」
何か変な感想を言いながらほっとしているアルバロとマルタ、妙な野望(?)に燃えるネストレさんが力尽きたように床にへたり込んでいた。
……あやとりって、体力勝負な遊びだったっけ?
工芸品部門担当者たちが到着したら、すぐさま<あやとり教室第二弾>の始まりだ。
一応経験者になるネストレさん、アルバロ、マルタにお手伝いをお願いしようと思ったら、彼らはすすっとすみやかに職員さん達に混ざり、❝自分たちも生徒ですよ~❞の雰囲気を作り出したので諦める。
まあ、アルバロとマルタは残りの護衛組メンバーに教える為にきっちりと覚えてもらわないと困るからね。
その代わりに頑張ってくれたのが、なんと、自分たちでは未経験なハクとライムの2匹だった。
職員さんが戸惑っているとハクは可愛い肉球で、ライムは細長く変形させた体を使って指や糸に触れ、次の動きを誘導し、緊張で指が強張っていた職員さんの気持ちまでほぐしてくれるという活躍ぶりだ。
……うちの仔たち天才!って思ったのは、決して親バカな私だけではないハズだ!
私は職員さんたちが自分だけの力で六段はしごを作れるようになるまで、何度も何度も一緒にはしごを作るだけ。作っては解き作っては解きを繰り返すだけで、それを見ながら設計図担当者さんが図解を描いてくれるので楽ちんだ♪
カルミネさんは工芸品部門の幹部だけあって手先が器用で、普段とは違う指の動かし方に最初は手間取っていたけどすぐにコツを掴み、何度かハクとライムに手助けをされるだけで6段はしごの作り方を覚えてくれた。
だから、私はこれでお役御免♪
まだ一人ではできない職員さんたちに引き留められたけど、あとはカルミネさんにお任せしてさっさと退散する。
……ここにいたら、もっと違う形や2人でするあやとりの仕方を教えて欲しいと言われそうだからね。そうなると私の相方を育てる所からスタートになるから時間がかかりすぎてしまう。
続きはまた今度! 機会が有ったらってことで♪
アルバロとマルタはまだうろ覚えだったので商業ギルドに置いてきた。護衛組メンバーに教える為にも2人には完璧に覚えてもらわないと困るからね!
その代わり、ミネルヴァ家に寄って年長の子供たちにいつもよりも太くて長い組紐の作製を依頼する。
アルバロたちは出発の日までにきっちりとハンモックバージョンの六段はしごを作れるようになりたいとのことだったので、少し急いで組んで欲しいとお願いすると、ヴェルの糸を混ぜた長い紐を一体何に使うのかと聞かれてしまった。教えてあげたいけど今はまだ内緒だ。うっかりハンモックの話をして、今すぐ使ってみたい!なんてことになったら大変だからね。
子供たちに話す情報は❝旅の間に必要で、旅が終わったら護衛の冒険者たちが買い取りたいと言っている❞ということだけ。でも、それだけで十分だったらしく、
「お引越しに必要なら、早めに作っておかないと困るね? わかった、任せて!」
「何本作ればいいの? 多めに作ったらそれも買い取ってくれるかなぁ?」
「Aランク冒険者がいるの? だったら必要な長さと好みの色を直接聞いてみてもいい? それぞれの好みに合わせて作ったらぼったく…、割り増し価格で買ってくれるかも知れないから!」
とっても賢い子供たちは自分で考えて、より良い方向に持って行く努力をしてくれる。
……❝ぼったくり❞って聞こえた気がしたのは、きっと気のせいだよね?
ありがとうございました!




