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お引越し準備 6

 すっかりなじんでしまった商業ギルド。


 私たちが近づいて行くと同時に門番さんの1人がさっと身を翻してギルドの中へ入って行き、もう一人の門番さんがにこやかに挨拶をしてくれる。


 珍しい反応に戸惑いを覚えたのは私だけではないようで、


「アリス、このギルドでどのくらいの商品を登録したの? ここはモレーノさまの領地じゃないのに……」


「門番が門を離れる……? 扉の向こうでアリスの担当者が頭を下げていても俺は驚かんぞ」


 マルタとアルバロはギルド側の上得意に対する特別な扱いだと誤解して私に視線を向ける。だけど、今までそんな対応をされた記憶は私にはない。


 門番さんの「今日はいい天気ですね」「登録にお越しくださったのですか?」「ご活躍の噂をいつも楽しく聞かせていただいています」といった言葉に戸惑いながら返事を返していると中から扉がゆっくりと開いた。


 出てくる人の邪魔にならないように横に避けようとする前に門番さんがさっさとドアを開けるのを手伝ってしまったので、私は中の人とご対面することになってしまったんだけど……。


「いらっしゃいませ、アリスさま!」


 ………まさか、このタイミングでギルドマスターその人が立っているなんて、思ってもみないよね? 


 しかも、ギルドマスター(ネストレさん)の両脇にはさっき中に入って行った門番さんを始め、体格の良い男性職員さんがずらっと並んでいる。


 明らかにいつもとは違う反応に驚き返事を返し損ねてしまったことを気にする様子もなく、


「そちらの方々は初めてのご来訪ですね。アリスさまのお知り合いの方でしょうか?」


 ネストレさんは穏やかな口調で私に問いかけながら、私の両脇のアルバロとマルタを冷ややかな視線で射抜いた。


 ……………おやぁ?












「紛らわしい真似をしてすまなかったな!」


「いえいえ、こちらこそ失礼をいたしました」


「アリスを守ろうとしてくれたんだ。気にしないでくれ。俺たちは感謝しているぞ」


 何事かとびっくりしたギルドマスター(ネストレさん)の対応は、有能な冒険者であるアルバロとマルタにはすぐにピンとくるものだったらしく、2人は私を拘束するように肩や腰に回していた腕をすぐさまほどくと、自分たちがジャスパーを拠点とするAランク冒険者であることや私との関係、今日は私に登録申請をさせる為に連れてきたことを簡単に説明した。


 どうやら2人は私がギルドに預けているお金か、これから登録する(させる)商品の権利を横取りしようとする悪人と思われたようだ。……両脇から腰や肩を拘束するように抱かれていたんだから、誤解されるのも無理はないよね。


 話を聞いたネストレさんは私が以前話題にしたことのあるアルバロとマルタの名前を憶えていて、2人が「面倒な手続きを嫌うアリスを逃がさないように、ってのもあるが、久しぶりにアリスに会えてついはしゃいじまった」と照れ臭そうに笑うのを見て納得したように頷き、周囲にいた男性職員さんたちを散開させた。


 それから通された部屋で(どうしてギルドマスタールームなんだろうね?)お茶をいただきながら、和やかな雰囲気でお話の最中なんだけど……、


「面倒な手続きを嫌がるアリスさまを説得してお連れくださったことに、我々の方が感謝をしなくてはいけません。……大変でしたでしょう?」


「ああ、まあ、な。知ってるかも知れんがアリスは自分の知識に対する評価がイマイチ低くてなぁ。今回も俺たちの説得を長々と聞くのが面倒だから諦めて登録に来たってのがアリアリの雰囲気で、つい、な」


「いつアリスの気が変わっても大丈夫なようにって考えるとあの態勢になったのよねぇ。でも、アリスってば柔らかくていい匂いだから役得だったでしょ? アルバロ!」


「阿呆。モレーノさまに聞かれたらどうすんだ! 冗談だってわかってても(なん)かされるぞ!」


「あたしは女だからね! 羨ましい? あ~、アリスってば本当にいい匂い♪」


「ちょっ、止めてマルタ! クンクンしないでーっ!!」


 ……話がおかしな方向に行くのは止められないのかな? 


 楽しそうに話を聞いているネストレさんはともかく、ハク? ライム? 面白そうに笑っていないで助けてくれてもいいんだよ? 仮にもご主人さまがピンチなんだけどな!?












 説明は簡単。ギルマス(ネストレさん)も知っている<組紐>をアレンジしてハンモックを作る。それだけ。あとは実演あるのみ。


 ギルドで少し太めの紐と棒を用意してもらったら、私の知っているハンモックを作る。……あやとりで作る6段はしごのハンモックを登録するのはなんだか躊躇われたからね。


 2本の棒にそれぞれ穴を開け、穴に通した紐を隣同士で結ぶだけ。初めは長い紐が絡まないように扱うのが面倒だけど、作業自体は単純で時間もたいしてかからない。


 用意してもらった紐の長さが少し短かったから大人が使うには小さ過ぎる出来上がりになってしまったけど、見本としては問題ないだろう。使う人の体型に合わせて長さや穴の間隔を変えればいいだけだしね。


 とりあえずはこれでOKだろう!とみんなの反応を見てみると、


「え、こんなにあっという間!? アリスが1人で作ったのに? って、言うか、これならあたしも1人で作れそう!」


「強度は? 強度はどうなんだ!? 普通の紐でも大丈夫なのか試してみようぜ! おいマルタ、真ん中に乗ってみろ! ギルマスさんはそっちの端を持ってくれないか?」


「ええ、いいですとも! さあ、さあ、マルタさん、お早く! ……アリスさん! 後でうちの職員を呼ぶので、私にも試させてくださいね!?」


「あ、俺も! 俺も試したい! いいだろ? アリス!」


 ……うん。使う前から大好評みたいだね。


 この様子だと、申請とかの手続きの代行を任せて帰ってしまって大丈夫な感じかも♪


ありがとうございました!

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― 新着の感想 ―
[気になる点]  そう言えばですけど。  アリスはこうやって立場をある程度確立できましたけど、アリス以前にこの世界へ送られて命を落とした人々の足跡って、どこかに無いんですかね?  他の女神の目代わり…
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