お引越し準備。の準備 16
<冒険者ギルド>の有能な職員兼男性冒険者憧れの華でもあるディアーナは元は期待の冒険者で、イザックやマッシモのパーティーと何度か共同で依頼を受注したことがあるそうだ。
「腕の良い【斥候】だったんだがな。あの通りの美形だから、パーティーメンバーや他の冒険者たちからコンパニオン扱いを受けることも間々あって……。時々鬱屈した表情を見せていたからいっそうちのパーティーに引き抜こうかと話していた矢先に、気が付いたらギルドの職員に転職していたんだ」
懐かしそうに当時のことを説明してくれるイザックは、先ほど彼が口にしたように❝振られた❞直後の男性の表情ではなかった。
黙って続きを待っていると、
「ここに戻って久しぶりに会ったら、以前よりもずっと生き生きしていて目が釘付けになっちまったよ。で、今回の❝移住❞の前に告ってみたんだが、きっぱり振られちまった」
残念な内容なのに、どこか吹っ切れたようなすっきりとした表情でさらりと告げる。
なんとな~く感じた違和感と、少しの好奇心を我慢できずに、
「❝移住❞を決めてから告白するなんて、イザックもなかなかチャレンジャーだよね」
出来るだけサラリと、なんなら聞こえないフリでスルーしてくれても大丈夫なくらいの声で呟くように言うと、
「そうだな。ネフ村で一緒に冒険者をしないかって言ったら、『このままここで受付業務をしたい』って言われちまった」
あっさりと答えてくれる。ついでのように、
「シルヴァーノと付き合い出したようだから結果はわかってたんだがな。これで心置きなくネフ村へ行ける」
なんて笑って言われたら、衝撃の事実に驚くやら、その状態で告白をしたイザックに感心するやらで……。
「そっか……。ダンジョンの発生、いつになるのかわからないけど楽しみだね」
なんてことしか言えなかった。
こんな時に気の利いたことの一つも言えない自分に内心でため息が出るけど、「ああ!」って笑って頷くイザックがとても格好良く見えて、ネフ村で素敵な出会いがあることを祈らずにはいられなかった。
イザックと別れてお店を出ると、
「お、アリス! ギルドに小瓶を取りに行くのか? 都合が付くなら、ポーションと増血薬を何本か売ってくれよ!」
顔見知りになった冒険者さんから声を掛けられる。
以前にギルド経由で発注していた小瓶が納品されているそうだ。
さっきのディアーナの表情を思い出すとなんとなく気まずい気もするんだけど、せっかく教えてくれたんだし、これも良いタイミングだと思いなおしてギルドに寄ることにする。
情報提供してくれた冒険者さんにはお礼代わりにポーションと増血薬を販売し、少しだけ割り引いて上げるととっても喜んでもらえた。もちろん、ハクとライムが無言で私をじっと見つめていることには気が付かないフリだよ?
ギルドの扉を開いたら、
「なんてこった! 俺たちのディアーナちゃんが……! 俺の心の癒しが~~っ」
「シルヴァーノのヤツっ……! くっそう!! 幸せ者めーっ!!」
酒場の方から男たちのくだを巻く声が聞こえてきた。
ディアーナとシルヴァーノさんがお付き合いを始めたことは、内緒にはしていないらしい。
男性冒険者たちの嘆きの声を聞きながら受付に向かうと、ディアーナの前にお通夜のように暗い顔で並ぶ男性冒険者と楽しそうにディアーナをからかう女性冒険者の姿が目に入り、思わず苦笑がこぼれた。
さすがディアーナ、モテモテだね。
いつもなら軽く手を振って❝来たよ~❞ってアピールするところなんだけど、なんだか今日は傷心の男性冒険者たちの邪魔をしたくない気分だ。
誰か手の空いていそうな職員さんはいないかとカウンター内を見回すと、話題の人物の片割れであるシルヴァーノさんと目が合った。彼も私の担当さんだから丁度いい。
笑って手を振ると速やかカウンターから出て来てくれたので、小瓶の受け取りに来たことと今回の分で小瓶の注文を取りやめたいことを伝える。工房が今作っている分はギルドで買ってもらえないかと相談すると、シルヴァーノさんは問題ないと頷きながら応接室に案内してくれてから、小瓶を取りに出て行った。
「嬉しそうなのにゃ~」
「うれしそうだね~」
私の目にはいつも通りのシルヴァーノさんだったんだけど、私の可愛い従魔たちの目には違う風に映っていたようで、
「シルヴァーノなら、まあ、合格なのにゃ!」
どこ目線なのかわからない発言をしている。2匹ともディアーナのことはお気に入りで自分たちの食べ物を分けてあげるレベルの仲間扱いだったから、仕方がないのかな?
2匹の好奇心を満たす為に、私は一時インタビュアーに転職することにした。
今回の小瓶の納品は300本。まあまあの数だ。
預けていた小瓶購入代金の残りを受け取りながら、ディアーナとのことを聞こうとすると、
「アリスさんには明日の夜ご挨拶に行こうと思っていたのですが……、ディアーナと私が婚約したことをご報告させていただきます」
シルヴァーノさんから口火を切った。
❝お付き合い❞と聞いていたのに、もう❝婚約❞なの!?
びっくりして思わず目を大きく開いていると、
「アリス!」
ディアーナが慌ただしく部屋に飛び込んできた。
ふふっ、これはアレだね。❝飛んで火にいる夏の虫❞ってヤツだ。
インタビュアー・アリス。腕の見せ所です♪
ありがとうございました!




