お引越し準備。の準備 12
目が覚めたら、辺りは一面真っ白だった。
前も後ろも上も下も横もみ~んな!真っ白な世界。この不思議で、でも見覚えのある光景は、
「………えっ、また死んじゃった? 今度の死因は何?っていうか! うちの仔たちは無事っ!?」
そう。地球で死んだ後、ビジューと初めて会ったあの空間だ。
だからてっきり、不慮の死亡を遂げてしまったんだと思ったんだけど、
「ええ、ハク達はみんな無事よ? ハクはアリスの首の上、ライムはアリスの頭の下、スレイとニールは厩舎でゆっくりと睡眠中だもの。
一応説明すると、ここはアリスの夢の中よ♪」
いつの間にか目の前に現れたビジューが、くすくすと笑いながら私がまだ生きていることを教えてくれた。
最初の約束を果たせずに、さっさと死亡してしまったと思ってびっくりしたんだけどどうやら違うらしく、
「昼間にアリスが作っていたものが気になって、遊びに来ちゃった♪」
人差し指を頬に添えながら小首を傾げるという❝あざとかわいい❞ポーズを決めたビジューの言葉に安心する。
今日の昼間に作った物といえば、大量の干し肉(煮ボアバージョン)と片栗粉。片栗粉を使った卵ボーロくらいなので、ビジューが気になったのは卵ボーロの事かな?と思って聞いてみると、
「そう! 卵ボーロ! ほろほろ崩れる食感と優しい甘みが大好きなの!」
嬉しそうに笑って答える。なんでも、地球の神とのお茶会の時にお土産としてもらってからお気に入りの一品になったらしい。
卵ボーロは私も大好きだけど、女神にしては随分と素朴なお土産を気に入ったんだな~。と思ったけど、それは私の勝手なイメージだと苦笑する。
外見はとても華やかな美貌なんだけど、纏う雰囲気が穏やかで優しいビジューにはなんとなく❝似合う❞と思い直したからだ。
「作っている工程も見てた?」
「ええ、楽しそうだったわね! それに、とっても簡単そうに見えてびっくりしたわ!」
日本では、小さな子供から大きな大人まで嫌いな人は少ないだろう卵ボーロ。離乳食から歯を失ったご年配の方にまで食べてもらえる素晴らしいお菓子なんだけど、実はとっても簡単に作れる。
材料は卵黄・砂糖・牛乳、そして片栗粉の4つだけ。
作業工程は、混ぜて・混ぜて・丸めてフライパンで焼く。 たったこれだけでできるんだ♪
ポイントはサクサク食感にしたければ直径1㎝程度の大きさにしておくこと。面倒だからって大きくしちゃうとサクサクしてくれないからね。それを弱火でじっくり15分ほど焼いたら出来上がり!
丸めるのに根気がいるのが難点だけど、それもハク(スライム皮の手袋着用)やライムが手伝ってくれたから楽しくできたしね♪
唯一困ったことといえば耐熱ガラスの鍋蓋がないことくらいかな? 普通の鍋蓋を使ったんだけど、蓋を取って様子を見る度に「出来たのかにゃ? 味見にゃ! 味見~♪」「ボクもあじみするの~♪」と騒ぐ2匹を落ち着かせるのが大変だったから。まあ、それも込みで楽しい時間だったんだけど♪
ビジューの期待に応えて取り出した卵ボーロ。とアウドムラのミルク(クリーン済み)はビジューの期待以上の出来だったようで、
「ああ! この噛むとサクサク、口に含むとほろほろと崩れる食感が癖になるわ! グローブ(地球の神)がくれる日本の市販の物よりおいしいし、アリスは本当に料理上手ね♪ それにアウドムラのミルクに【クリーン】を掛けるだけでここまで美味しくなるものだったなんて、アウドムラが発生してから何千年もの間知らずにいた自分を悔やむわ!」
喜んだり感心したり悔しがったりと忙しい。
その間も手はず~っと、卵ボーロと麗しい唇の間を行き来していたのはご愛敬だ。面倒だろうに1度に一粒ずつしか口にしないのはビジューらしいのかな? 流威と同じ食べ方(まあ、私もなんだけど)だったのでもっと見ていたくて、減る傍からおかわりをどんどん追加していた。……ハクやライムにバレると「「ズルいーっ」」って怒られちゃうから内緒だよ?
ビジューが私の夢の中に降りてきたのは、ただ手作り卵ボーロに興味を引かれただけだったので、安心して❝女子会❞を楽しむことにした。お題は<地球の神・グローブ>について。
ビジューのような麗しい女神のお土産に<卵ボーロ>を選ぶセンスから、白いお髭を豊かに蓄えたおじいちゃん神さまを想像していたんだけどどうやら違っていたようで……。頬を嬉しそうに桜色に染めたビジューの話では、まだ若く、雄々しくも端正な美貌を誇る、超!有能な男神らしい(実年齢46億歳以上のはずなんだけど、神さまの世界って凄いよね!)。
グローブさまはビジューの元師匠にして現茶飲み友達で、ちょくちょく地球産(最近は日本産がお気に入りらしい)のお菓子とお茶を持ってビジューを訪ねてくれるらしい。
そのグローブが今度遊びに来た時に、ビジューはこの卵ボーロをお土産として差し上げたいらしいんだけど……。
なんとな~く、だけどね? 私が作ったものより、ビジューが作った方が喜ぶと思うんだよねぇ。
だから、良かったら一緒に作らないかと誘ったんだけど、
「アリスが教えてくれるのっ!? 嬉しいわ!!
……でも、今はまだ、アリスの夢の中でお料理はできないの。夢の中でもアリスがインベントリから取り出している物は顕現してるから……。それを調理という形で変化させることは、魂に不安が……」
一瞬だけ喜んでくれたビジューは、とても残念そうにシュンとしてしまった。
❝今はまだ❞ってことは、今後は大丈夫になる可能性があるってことだよね!? その時には一緒に作ろうと約束して、ビジューに大量の卵ボーロとアウドムラのミルクを渡す。
卵ボーロはともかく、アウドムラはビジューの管理している世界の魔物だからね。きっとグローブ神も喜んでくれるだろうと言ってみると、ビジューはとても嬉しそうに笑って受け取ってくれたので安心する。
ビジューと一緒にお菓子作りができる日を楽しみに、レパートリーを増やしておこうと頭の中にメモをして、
「残念だけど、そろそろ時間のようね」
本当に残念そうに別れを言ってくれたビジューに手を振り、眠りの中に戻った。
ありがとうございました!
怪我をした家族のリハビリは順調で、本人もとても楽しそうに家の中をうろうろしているのですが、今度は大福が❝仕事辞めたい病❞に罹患してしまいました。
特効薬、どこかに販売していないかなぁ……。
とりあえず、いってきま~す。




