ミネルヴァ家 家族会議 7 沈黙の誓い
<沈黙の誓い>を行うには痛みがついてくる。
これを子供たちに話したら絶対に嫌がるだろうと思っていたし、泣いて拒否されると思っていた。
だけど、
「ちょっと痛みを我慢するだけで、アリスさんが作ってくれた美味しい<アイスクリーム>が食べられるんだ! アリスさんがレシピを開発したばかりだから、まだ王さまだって食べたことがないんだぞ!」
と嬉しそうに笑って食堂を出て行った少年が、
「へへっ! 思っていたほど痛くなかったな。アリスさん、ご褒美の<アイスクリーム>をください。………うっめぇ!! なんだこれ! 冷たくって甘くって、口の中ですぅぅって溶けたら、喉の奥に幸せが流れ込んでくるぞ!!
王さまよりも先にこんなに美味いもんが食えるなんて、<沈黙の誓い>は最高だな!」
意気揚々と戻って来てみんなの前で得意そうにアイスをスプーンですくい、口に入れた瞬間に幸せそうに笑み崩れることで、子供たちの意識を奪うことに成功し、
「つぎはあたし!」
「ちがうよ、ぼくだよ!」
「おれが先だよ!」
すっかり彼の演技に騙された小さい子たちは、❝ちょっとだけ痛いのを我慢したら、美味しいものが食べられる!❞と我先にと立候補を始めた。
でも、小さい子たちは素直だからきっと泣いて戻って来て、❝すっごく❞痛かったって言っちゃうんだろうな。次の子たちが尻込みするかも、と思っていたら、
「何言ってるの? こういうのは年の順よ! 次はわたし!」
事情を分かっている少女が抜け駆けをするように笑顔で食堂を出て行き、
「確かにちょっとだけ痛かったけど、思っていたほどじゃあなかったわ! アリスさん、私にも❝ご褒美❞をください。 ……こんな所で食べたら、順番がまだの子たちに悪いわね。わたしは部屋で食べるから、あんた達も終わったら部屋でゆっくりと食べなさい。まだの子たちに自慢しに来ちゃだめよ?」
受け取ったアイスを持って意気揚々と部屋を出て行くことで、❝年齢の高い順から❞❝食堂で食べてはいけない❞という雰囲気を作り出した。それを受けて、すっかりとアイスを食べ終わっていた少年が、
「ああ、それもそうだな。こんな所で見せびらかすように食っちまったのは俺が悪かったよな。じゃあ、俺がアイスを持って行ってやるから、おまえらは<誓い>が終わったら部屋でゆっくりと食え」
自分が運ぶと宣言し、事情を分かっているもう一人の少年が、
「じゃあ、次は俺だな。部屋で❝ご褒美❞を待ってるから、早く持って来てくれよな!」
❝ここへ取りに来る必要はない❞ときっちりとみんなの意識に刷り込んだ。
小さい子たちのワクワクした表情を見て、
(あいつらなかなかヤルのにゃ)
(うん、ゆーしゅーだね!)
ハクとライムは感心しきりだし、私も内心で彼らの演技に拍手喝采だ。
楽しそうに順番待ちをしている子供たちは、先ほどさっさとこの部屋から退場した少女の目が潤んで赤くなっていたことには気づいていないし、得意気にアイスを運んでやると笑った少年のパンツで隠れた太腿に握りしめた指の跡がくっきりと付いていることにも気が付いていない(私も少しだけ歩き方がおかしかった彼を【診断】するまで気が付かなかった)。
おにいちゃん、おねえちゃんたちの演技力と心意気(?)、見事です!
ありがとうございました!




