ミネルヴァ家 家族会議 4
信じたくないことに、子供たちを養子に、と言って来た男は、引き取った子供から自分の商売に有益な情報を得ることが目的だったようだ。
どうしてこの家の子供たちに目を付けたのかは、男がいなくなってしまったので正確にはわからないけど、衛兵部隊長さんが集めていた情報を元に推察してくれた。
ここ最近のミネルヴァ家の経済状態が向上していることは、誰の目にも明らかなことだったようだ。
理由はミネルヴァさんをはじめ子供たちの服が小綺麗なものに代わっていることと、全員が靴を履くようになったこと。そして、毎日の公衆浴場通いだ。
もちろん、これだけなら支援者が付いただけだと推測されるけど、そうでないことは子供たち自身の口からもらされていた。
もちろん子供たちに悪意はない。
ただ、公衆浴場などの人が集まる場所で、
「今日のごはんもおいしかったね~! もっといっぱいヒモを作ったら、もっといっぱいおいしいものがたべられるんだよね!?」
とか、
「あたしの作ったヒモはいくらくらいで売れるのかなぁ?」
とか、
「俺の育てた野菜だってすごいんだぞ! 商業ギルドのおっちゃんがわざわざ買いに来るんだからな」
といった、仲間内の会話がなされていたからだ。
守秘義務をしっかりと理解している大きい子たちが慌てて止めても、小さい子たちは何が悪いのかわからないようで、その場では、
「あ、ヒミツなんだよね? しぃぃ~」
と言いながらも、日が代わればまた同じようなことを言ってしまうらしい。一応は小さな声で内緒話のように話しているようだけどね。
子供たちの内緒話の時の声って結構大きいんだけど、そこはなかなか改善されないようだ。……周りにいる人たちには丸聞こえの内緒話は内緒話じゃないと思うんだけどね。
そのせいで、ミネルヴァ家の子供たちがなにやら割のいい稼ぎ口を見つけたようだと噂が立ってしまい、目端の利く商人たちには子供たちから漏れる情報が狙われるようになり……。
そしてやって来たのが今回の男だったという訳だ。
……正式に養子として引き取られても、情報と労働力を搾取されつづける存在になるところだった。ということらしい。
順調に行っていると思っていたミネルヴァ家の再建計画だけど、ただ、私が落とし穴に気が付かなかっただけのようだ。すこしだけ、自分の鈍さに嫌気が刺してしまったころ、
「だからね、アリスちゃん! 私たち全員に<沈黙の誓い>を立てさせて欲しいの!」
「私たちには誓いを立てる際に必要な金銭の準備ができませんので……、アリスさんにお願いしたいのです」
大きい事ミネルヴァさんの言ったことに、驚いてしまう。
<沈黙の誓い>は誓いを立てる際に痛みが伴うんだよね? それも結構な大きさの。
びっくりした私は、大きい子の毅然とした表情と、困ったように笑うミネルヴァさんの顔を、ただただ、じっと見つめてしまっていた。
ありがとうございました!




