総支配人さんは、何者?な人でした! 1
裁判所を出たのはもう真夜中で、街の明かりはほとんど消えていて人影もほとんどない。
【ライト】の魔法を使いながら夜道を歩いていると、
「あの……っ! 私はこの先にある<キャロ・ディ・ルーナ>という宿に戻るのですが、あなたと道が分かれるまでの間、一緒に歩かせていただけませんか?」
横道から出てきた女性に声を掛けられた。手には灯火具を持っているようだけど灯りは付いていない。
いきなりの声掛けと行き先が同じことに少しだけ警戒したんだけど、【マップ】で確認しても赤くマークされないしハクも敵意を持っていないのでひとまずは様子見、かな?
同行を了承すると彼女は心底ほっとした表情でお礼を言ってくれる。
話を聞いてみると彼女は宿に宿泊している商人の奥さん付きの使用人で、奥さんの言い付けで他の宿に宿泊しているお友達宛の手紙を届けに行った帰りらしい。
「お返事をいただくのに時間がかかってしまって……。もう人通りもまばらな夜道を歩くのはとても怖かったので助かりました!」
と嬉しそうに笑う彼女に、どうして灯火具を持っているのに火を灯さないのか、と聞くと油が切れていて使えないとのこと。だったらどうしてアイテムボックスに入れずに手に持っているのかというと、
「何も持っていないのは不安で……。もしも襲われても、これで叩いたら怯むかと思って……」
だそうだ。……間違って私たちを殴ることのないようにお願いしたい。
道すがらに❝この街の領主の人柄を知っているなら教えて欲しい❞とお願いすると、
「商人が言うには結構なやり手らしいですが、家族を大切にしていて妾なども作らず悪い噂もほとんど聞かないので、つけ込む隙がない、とのことでしたが……。それ以上のことはわかりません」
聞きたい答えを聞かせてくれた。私が聞いていた話や会ってみて感じたイメージとも合致している。
ルクレツィオさんには色々と話したいことがあるので、明日にでもアポイントメントを取っておこう。
宿への道はそれなりの距離があったはずなんだけど、おしゃべりをしている内に着いてしまった。
「おかえりなさいませ」と微笑んでくれる門番さん……の恰好をした総支配人さんとその隣に立っていた女性が安心したように破顔する。帰りの遅くなった同僚を心配して、門のところまで様子を見に来ていたらしい。
嬉しそうに駆け寄る彼女たちを見て❝仲良しなんだなぁ❞と、なんだかほのぼのする気持ちで総支配人さんと微笑み合った。
宿までの同行にお礼を言って玄関に向かう彼女たちを見送りながら、総支配人さんが、
「ご無事のお帰りで何よりです。狩りは楽しめましたか?」
優しく微笑みながら声を掛けてくれる。
ほんの少しだけ心配そうなのは、今朝私が「お散歩がてら一狩り行って来る」と言って出掛けたきり、こんな時間まで戻らなかったからだろう。……もしかすると、遅くなった私を心配して、こんな時間まで門番をしながら待っていてくれたのかもしれない。という考えは、総支配人さんの好きな❝来客の人柄観察❞には不向きな時間だから、きっと当たっているだろう。
お礼の気持ちを込めて、
「私たちは今から軽い食事をするんだけど、良かったら総支配人さんも一緒にいかが?」
夜食に誘ってみる。すかさずハクが総支配人さんの足元で「んなぁ~ん」と小首を傾げて甘えた鳴き声を出し、ハクの横でライムが「ぷきゅ~う」と頷くように立てに伸び縮みをしているので、2匹も同じことを考えたんだろう。
スレイとニールは庭の向こうからこちらを伺っている幼い厩務員兄妹の方が気になるようなので、ニールの鞍に夜食の果物と野菜の入った袋を引っかけてからポンポンとおしりを叩いてあげると、
(では、主。おやすみなさいませ)
(おやすみなさいませ、主さま。素敵な夢を)
と嬉しそうに兄妹の方へ歩を進める。
幼い子供たちが夜更かしするのは感心しないけど、2頭を心配してのことだと思うので感謝の気持ちを込めて手を振っておいた。スレイとニールに、
(幼い子供が寝る前に果物を食べすぎると、トイレに起きちゃうかもしれないから少しだけにしておいた方が良いかも)
とだけ言っておく。2頭はきっと、自分たちの夜食を分けてあげると思うから。
2頭が幼い兄妹に迎えられるのを見届けてから、
「では、遠慮なくご相伴に預からせていただきましょう」
夜食の誘いを受けてくれた総支配人さんと一緒に部屋へ戻った。
夜食を食べながら、今日は狩りの後に裁判所へ行って後見人たちとおしゃべりしていたことを話すと、
「さようでございましたか! 楽しい時間をお過ごしになったのですね」
と自分の事のように喜んでくれる。
ついでにこれからの予定を話して、明日、領主にアポを取りたいのだけど、Gランク冒険者に手紙を届けてからお邪魔する形でいいのかと相談すると、
「そういったお話でしたら、ルクレツィオをこちらにお呼びしましょう。この老骨も少しはお役に立てるかもしれません」
とにっこりと微笑みながら、私の代わりにさらさらとお手紙を書いてくれる。
「食事を餌にいたしましたので、アリスさまもそのおつもりで」
と微笑む総支配人さんは……、なんだかいつもと雰囲気が違って、❝現役バリバリ、やり手だぜ!❞の雰囲気を醸し出していた。……頼もしいな♪
ありがとうございました!




