されて嬉しいサプライズ 5
どこにでもあるような、ただの田舎の集落。それが現在のネフ村だ。
村長が王都の冒険者ギルドの元・解体部門責任者だったり、村長代理が冒険者ギルドの<英雄>だったり、村長夫妻の息子が国でも指折りの凄腕<魔道具職人>だったりするけど、今の所はそれ以外に目立ったところのない(十分に目立ち過ぎだと思うけど)、近くの森で狩った低級の魔物素材と育てた野菜を売って細々と生計を立てているただの鄙びた村。
だから今なら土地の価格はほとんど二束三文なのでそれくらいマルゴ家が奢ってくれると言うのだけど……。
マルゴ家が個人で持っている土地を無料でお借りするのと、村の土地をマルゴ家に買ってもらうのはやっぱり違うよね?
せっかくのご好意だけど辞退させてもらい、自分でお金を払いたいと言うと、
「アリスはオースティンを助けてくれた礼を受け取ってくれないんですよっ! 一体どうしたらいいんですかねっ!?」
マルゴさんはモレーノお父さまに向かってボヤくように言った。
オースティンさんの治療費は最初から受け取るつもりはなかった。なのに<冷凍庫>と<冷蔵庫>を贈ってもらったのは記憶に新しいんだけどな?
しっかりお礼を受け取らせてもらったことを伝えると、
「アリスさんはそれ以上のものを贈り返してくれたじゃないか! あの素晴らしいレシピで作った高位オーク料理は、オスカーとオースティンの大好物になってるよ! もちろんアタシも大好きさ!」
マルゴさんは困ったように、でも、とても愛おしいものを見るような温かい眼差しで私に苦情(?)を言う。
私のレシピと私たちが狩った魔物肉に<冷凍庫>と<冷蔵庫>程の価値を付けてくれるのは嬉しいんだけどね?
お礼のお礼がわらしべ長者的な展開になるのはちょっといただけない。
だから、購入する土地代や建設費は私が払うけど、場所や敷地面積、建物のデザインなどは全て一任させてもらうことで話を付けた。今後村がどんな発展の仕方をするかわからないので、それを見込んで全てを丸投げする形だ。
とっても面倒なことを押し付けているのに、マルゴさんは、
「アリスさんの譲れないものは<風呂>と使い勝手の良い<キッチン>だね? 寝室はハクちゃんやライムちゃんと一緒でいいのかい? ああ、スレイプニルもいるのなら、みんなで一緒に転げ回れるように広い庭が必要だねぇ。それにゆくゆくは離れを建てるかもしれない、と。
魔道具はオースティンが喜んでいくらでも作るだろうし、建設はオスカーの伝手を使おうか。ああ、アイツに声を掛けたら良い素材を安く回してくれそうだし……。土地・家屋込みで500万メレ程貰っておこうかね」
嬉々として引き受けてくれたばかりか、とんでもない捨て値価格を提案してきた。
いくら田舎でも、結構な土地の広さになりそうだし、家を建てるのにそんなに安く済むわけがないよね? それにオースティンさんの魔道具が付いてくるなら、億単位になってもおかしくない。
いくら私がそう訴えても、
「こう見えて、アタシは金勘定は得意なんだ。アタシや村に損は出てないよ」
と笑っていなされてしまう。
でも、私がそれに同意した次の瞬間に、
「領主さまはアリスの隣の土地をご希望でしたね? 土地だけなら800万メレ。家屋の建設を任せていただけるなら1億メレほど預けていただきましょうかね」
満面の笑みで訳の分からない価格を打ち出す。
マルゴさん!? 実は金勘定がすっっっっっっごく! 苦手なんじゃないの!?
私は慌ててさっきの同意を翻そうとしたんだけど、その前に、
「家屋のデザインはこちらで用意するから、アリスの家のデザインが出来上がり次第に写しを送ってくれ。建設費用に土地代とは別に1億5千万メレ預けることにするが、足りなければ後から請求してくれ」
モレーノお父さまがマルゴさんの言い分をあっさり受け入れるばかりか、値上げまでしてしまった。
「お任せを。これまでの伝手を使って、最高の素材をご用意させていただきますよ」
マルゴさんもマルゴさんで、モレーノお父さまの値上げをそのまま受け入れてるし……。
私の家の値段がおかしいってこと、2人とも気が付いてるよね!?
私が言及しようとすると、
「アリスさんの家を挟んで反対側に、アタシたちの家も新築するかねぇ」
「ほう。では村では私たちは❝ご近所さん❞ということになるな。何か困ったことが起きれば、いつでも相談すると良い」
「ええ。遠慮なく、相談させていただきますとも。まずはアリスの家の屋根の色、何色が良いと思います? アタシは赤い屋根の家なんて可愛いと思うんですがねぇ」
なんて言って話を逸らせてしまう。
ねえ! 2人とも! 私を甘やかし過ぎじゃあ、ないかなぁ!?
ねえ、ハクとライム! 笑っていないで、あなた達も何とか言ってやってよ!!
ありがとうございました!




