特技:つまみぐい
「すまなかったね……」
「いいえ、私こそ波風を立ててしまって…。 ルシィさんにもいやな思いをさせてしまって、ごめんなさい…」
狭い村の中で、贔屓されたって言われて困るのはルシィさんなのに、考えなしな事をしてしまった…。
反省して、ルシィさんに頭を下げると、
「謝らないで! 私、髪で隠れるから大丈夫だって自分に言い聞かせてたけど、本当はとっても気にしていたの!」
「俺はルシィが気にしていることに気が付いていたが、立場を考えたら治療を頼むなんて出来なかった。 治してくれて、本当に感謝している」
「アリスさんが治療をしてくれる条件として最初に提示したことは、アタシが了承したんだ。治療に関する苦情は全てアタシに責任があるんだよ。
それなのにさっきはアリスさんに庇って貰った上に、村の衆を抑え切れなくて…。 すまなかった」
誰も私を責めないで、謝罪までしてくれる。 ここで私が“許す”のも何か違うし、どうしたらいいかわからなくて困っていると、
「えっ? ハクちゃん? ライムちゃん!?」
「んにゃん♪」
「ぷきゅう♪」
ルシィさんの慌てる声と、従魔たちの満足そうな鳴き声が聞こえた。
「ああ、随分と腹っぺらしだったんだねぇ。待たせてごめんよ!」
「ルシィ、早くもう一枚焼いてやれ!」
従魔たちをを保護する声も聞こえるけど……。
「ハク! ライム! つまみ食いはダメって言っているでしょう! そんなに小さい体のどこに、そんなに食べ物が入るの!?」
つまみ食いに関しては、一応、叱っておく。
(ハク、ライム! 偉~い! ありがとうね!)
(オークカツのつまみ食いも見逃してくれるにゃ?)
(今回はご褒美に見逃してあげる♪ でも、次につまみ食いをしたら、食事抜きね?)
「ウチの従魔たちが食いしん坊で、すみません! 急いで仕度しますね!」
宣言した内容がショックだったらしい、従魔たちの “ガーン”とでも書いていそうな顔を見ながら、いそいで炒飯を作る。
ボア油を作った時に出たそぼろを使い、野菜は前もって用意していたから炒めるだけ。
フライパン3つ目を作り終わると同時にルシィさんの焼きオークの最後の1枚が焼きあがったので、かまどからホーンラビットと野菜の煮込みを、インベントリからご飯と焼きオーク、オークカツに、りんご水を取り出した。
今日は、ちゃんとルシアンさんの分を確保してから、
「「「「いただきます!」」」」
「んにゃん!」
「ぷっきゅ!」
みんなで手を合わせてから食べ始めた。
「んにゃ~♪」
「アリスさんのアイテムボックスって、本当に便利よね。ちょっと前に出来たものも、熱々でテーブルに並ぶんだもの」
「ホーンラビットの煮込みってこんなにおいしいんですね!」
「これが、オークカツか。美味いな! ルシィ、作り方は覚えたか?」
「ぷきゃ~っ!」
「今夜も美味いねぇ」
みんなが好きなように好きなことを言ってるのに、空気が円い。 まるで、招かれざる客なんて来なかったようだ。
「そういえばアリスさん、今日の治療にクリーンを使っていなかったかい?」
「ええ。破傷風の予防を兼ねて、使ってました」
「『はしょうふう』?」
マルゴさんも【クリーン】を所持しているから、気になったらしい。
「えっと…。 土の中には“破傷風菌”という病気の元がいて、それが傷口から体内に入ると起こる病気です。発症すると、高熱を出して痙攣を起こしたり、重症になると命に関わります。
獣の爪は土に触れるし、牙は色々な病気の元を持っているので、念のためにクリーンを掛けておきました」
「クリーンにそんな使い方があったのかい…」
「土の中には他にも色々な病気の元がいるので、怪我をしたらきれいな水でよく洗う習慣をつけておくといいと思います。 マルゴさんの魔力に余裕があれば、クリーンを掛けてあげると感染症に罹る確率が減りますね」
「『かんせんしょう』も教えてくれるかい?」
ごはん時の話題じゃないと思うんだけど、ルベンさんもルシィさんも真剣な顔で聞いているので、続けることにした。
「病気の元が体内に侵入して増殖することで、発熱や下痢、咳などの症状が出ることをいいます。
感染症には、人から人に移るものや、傷口から、あるいは動物や虫から感染するものもあります。感染してもほとんど症状が出ずに終わってしまう場合もありますが、症状が出ると死に至るようなこともありますので、注意が必要です」
「今回のような怪我には、アタシがクリーンを掛けてやらないといけなかったんだね」
「皆が皆、感染する訳じゃないので、“余力があれば”で良いと思います。
もしもマルゴさんの魔力に余力があれば、大きな怪我をした人、年配の人、赤ん坊や幼い子供を優先してクリーンを掛けてあげるといいかと思います」
「病が流行ったら、死んでいく順番だね」
「そうなりますね。 でも、1人が出来ることには限界がありますし、出来るからと言って、しなくてはならないことではないので…」
なんて言えばいいんだろう…?
「ああ、わかっているよ。 なんでもかんでも背負い込んだりはしないさ」
マルゴさんは笑いながら言った。 これ以上は言わなくても大丈夫そうだ。
「ねえ、それって、治癒士の秘匿事項なんじゃないの…?」
「いいのか? そんなことを俺たちに教えて」
軽い気持ちで話したことだったけど、ルシィさんとルベンさんには衝撃だったようで、私の立場を心配してくれていた。
(ハク?)
(アリスが良いなら大丈夫にゃ。ここではほとんど知られていない知識だから広めるにゃ)
(なんで? 先輩転移者たちは話さなかったの?)
(話しても信用されなかったり、それこそ一部の人間に秘匿されてしまったのにゃ)
だったら、広げた方がいいよね!
「私の故郷では、みんなが知っていることなので大丈夫です」
「みんな…?」
「子供たちは、“怪我をしたら綺麗な水で傷口を洗う” “洗った後は綺麗な布などで傷口を覆う”程度の認識ですけどね」
「子供まで!?」
「はい。だから大丈夫です。良かったら村に広めてください」
「………」
「そうさせてもらうよ」
「信じる、だろうか…」
“広める”と言ったが、この情報を広めるのが難しいと気がついた3人は黙り込んでしまった。
(ハク、この沈黙をなんとかして!)
(対価は?)
(ええ!?)
(対価を求めるにゃ!)
(……この後、あま~い、お茶はいかがでしょう?)
(甘いのにゃ!? 約束にゃ!)
ハクは私から約束を取り付けるとライムの方を向いてから頷いて、ハクは私とルベンさんのお皿から、ライムはマルゴさんとルシィさんのお皿から、オークカツを一切れずつ盗み食いした…。
「はあっ!? ハク? ライムっ!?」
(早く食べないと、僕たちがぜ~んぶ、もらうにゃ~♪)
「……っ! あははははははっ!」
「おいおい、早く食べないと、無くなっちまうぞ?」
「大変! 早く食べましょ♪ ハクちゃんも、ライムちゃんも、本当におりこうさんね!」
「やだ、もうっ! うちの従魔たちがごめんなさいっ!」
謝る私を気にも留めないで、従魔2匹は自分のごはんを食べ続けている。
「いいよ、いいよ。 アリスさんの従魔は本当に利口だねぇ! せっかくのごちそうが冷めるともったいないよ。アリスさんも早く食べな?」
「そうですね。従魔たちに全部食べられないうちに、お腹いっぱい食べましょう!」
今夜の材料、ホーンラビットとオークと野菜。 オークには解体で泣かされたけど、食べると美味しい肉だった♪
でも、次はつまみ食いさせないからねっ!
ありがとうございました!




