新たなビジュー神像 4
ヴァレンテ君の親方さんは街では有名な工房の親方さんだったらしく、商業ギルドマスターも「彼ならこの仕事に不足はないでしょう」と太鼓判を押したので私の心配は不要のものになった。
親方さんは見知らぬ女性の似顔絵を見せられ「ビジュー神を彫ってもらいたい」と言われて最初は当惑したようだけど、詳しい話(捏造した方の話)を領主さんから聞いて納得し、ヴァレンテ君を助手の1人として参加させることを約束してくれた。
教会に貸し出したままのヴァレンテ君作のビジュー像をじっくりと見た親方さんから、「まだまだ粗削りだが悪くない。今回の仕事でおまえを助手に使うから、しっかりと(俺の技術を)盗めよ!」と言われたと、とても嬉しそうにヴァレンテ君が報告してくれた。
助手といっても仕事の内容は親方さんの身の回りのお世話、道具の準備や現場での使い走りがメインらしいけどね? ❝仕事は肌で感じろ。技術は目で盗め❞タイプの親方さんと同じ現場に入ることはとても勉強になるらしい。
……ヴァレンテ君が親方さんから一人前だと認められたら何かお祝いをしないとね! 今回のお詫びも含めて奮発する為に、❝ヴァレンテ君用貯金❞をしておこうと心にメモを残した。
ちなみに、ヴァレンテ君ともめていた兄弟子くんたちは今回不参加だ。というか、現場への出入りを禁止された。
理由は❝女神像を彫るのに穢れは禁物❞だから。まあ、兄弟弟子間の事とはいえ、窃盗・恐喝まがいのことをしてしまったんだから仕方がないのかな。今回のことでヴァレンテ君と差がついてしまうかもしれないけど……、強い心で頑張って欲しいな!
「アリスさん!」
久しぶりに街の外に出て従魔たちと一緒に狩りを楽しんでから戻ってくると、街の出入り口でクリスピーノ君が私を待っていた。
ミネルヴァ家に何かが起こったのかと一瞬だけ焦ったけどそういうことではないらしく、彼は冒険者カードを私に見せながら、
「おかえりなさい! Gランク冒険者のクリスピーノです。裁判所からの依頼でアリスさんを待っていました。裁判所まで一緒に来てもらえますか?」
改めて挨拶と用件を口にする。お仕事モードらしく、きっちりと名前とランクを名乗ってくれる。(知ってるよ~)と心の中で微笑ましく思っていると、
(しっかり見習うのにゃ!)
すかさずハクの心話が届いて焦ってしまった。
そっか。年齢制限の為にランクは私よりも下だけど、クリスピーノ君は私よりも先輩の冒険者だった。知り合いの間柄でも依頼で声を掛ける時はこうやって、身分証を見せてランクと名前を名乗る必要があるということを、私は年下の先輩から教わったのだった。
クリスピーノ君の先導で着いた裁判所。彼が受付で声を掛けるとすぐに職員さんが出て来てくれて、私をある部屋に通してくれる。
「遠見の水晶?」
(遠見の水晶だにゃ~)
(とおみのスイショウだね~)
その部屋は何度かお世話になっていた<遠見の水晶の部屋>とそっくり同じ部屋だった。違う点を挙げるなら……、順番待ちの人がいないことくらいかな?
なんなんだろう?と思いながら職員さんを見てみると、
「ジャスパーのモレーノ首席裁判官とおつなぎします。……本来なら受付でお伝えすべきだったのですが、モレーノ首席裁判官よりの❝サプライズ❞だそうです」
にっこり笑顔で告げられた。
!! サプライズは嬉しいけどね? いきなりの水晶通信はちょっと困るよ!
慌てて髪や服の乱れがないかをチェックしていると、
「やあ、アリス。私の娘は今日も美しいね」
くすくすと笑うモレーノお父さまの優しい声が部屋に響いた。そして、
「どうだい、私の娘は。可愛らしい上に美しいだろう?」
「ええ、ええ、本当に。美しいだけでなく、たいそう可愛らしい方ですねぇ」
聞き覚えのあるもう一人の声。モレーノお父さまの影で姿は見えないけど、私がこの声を忘れるわけがない。
「マルゴさん!?」
「久しぶりだねぇ、アリスさん! 元気そうで何よりだ」
モレーノお父さまのサプライズは、本当に本気の❝サプライズ❞でした!
本日もお読みいただいてありがとうございます!
もうしばらくの間、更新が不定期になってしまいますが……。
よろしくお願いします!




