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治癒士ギルド 戦いの後 1

 今後の方針が大体まとまって、今日はこれで解散の雰囲気になりかけた時、


(おしっこに行って来るのにゃ)


 ハクが突然窓から出て行った。


 私の知る限りでは初めてのトイレタイムだ。生物としては当たり前のことなんだけど、ハクと排泄行為がつながらなくて首をひねってしまう。


 が、まあ、今までは私の知らない所で用を足していたんだろうと判断して、残っていた皆さんと挨拶を交わしていると、


「うわあぁぁぁぁぁぁぁ!!」


 部屋の外から大きな悲鳴が響いてきて驚いた。


 反射的に走り出した冒険者ギルドマスター(オズヴァルド)と衛兵部隊長さんに続いて走り着いた先は、以前一度来た礼拝堂。何があったのかと思いながら礼拝堂に飛び込むと、


「っ! 痛ったぁ……」


 何故か入ってすぐの所で立ち尽くしていたオズヴァルドの背中に突っ込む形になってしまった。


 痛む鼻を押さえながらオズヴァルドとその横で同じく立ち尽くしている衛兵部隊長さんの顔を見てみると、2人は揃って何か一点をじっと見つめていて……。


「ああっ!? なんということだ……」


 私が2人に視線の先を追うと同時に、礼拝堂に入って来た商業ギルドマスター(ネストレさん)の嘆きの声が響き、その声に反応するように、


「わ、わしは何もしていない! 信じてくれっ! わしが祈り終わって立ち上がる為にほんの一瞬下を向いて顔を上げたら、ビジューさまはもうこのようなお姿になっていたんだ……! わしは何もしていないっ!」

「わたしだって何もしてないわ! 私は祈りを捧げる為に目を閉じていたから、何にも知らないのよ!」


 元々礼拝堂にいたらしい2人の狼狽しきった声が聞こえた。


 何が起きたのかとビジュー神像があった場所に目を向けてみて…………みんなの反応に納得した。


 みんなの視線の先にあるビジュー神像に、大きな傷が入っていたのだ。頭の天辺から足元に掛けて、大きく切り裂いた傷が4本。


 一体何が起きたのかと首をひねる私の横で、どさりと両膝を突く音がし、


「ビジュー神は腐敗したこの地の教会を見捨てられたのか……?」


 領主(ルクレツィオ)さんが呆然と呟く声が聞こえた。


「私の街の教会が、私の街が……、ビジュー神に見限られた……? まさか……、教会関係者を捕らえたことをお怒りなのか!?」


(ビジューさまに似ていない像が壊れただけで、何をそんなに嘆くのにゃ?)


 この世の終わり、とでも言うような声を絞り出すルクレツィオさんに対し、ハクはあまりにもお気楽で……。


 っていうか、


(ハク? トイレに行っていたんじゃなかったの?)


 用を足しに行ったハクが、どうしてこんな所にいるのか。


 ハクの顔を見てからもう一度ビジュー神像の傷を見てみると、私にはどう見ても大型の獣の爪痕にしか見えなくて……。でも、私の手のひらよりもちっちゃいハクとは爪痕の大きさが一致しない。


(ハク? あれはどういうことかな?)


 ハクなら何かを知っているかと思いながら声を掛けると、


(さあ? 僕は何も知らないのにゃ♪)


 満面の笑みを浮かべて、ビジュー像の残骸に視線を向けた。


 ……嘘だね。 ハク? 何か、知ってるよね?


 私がハクを問い詰めようとするのと同時に、


「アリスさん!」

「アリスさま!」

「アリス!!」


 衛兵部隊長さんとネストレさんとオズヴァルドが声を揃えて私を呼んだ。❝どういうことか❞なんて私に聞かれても知らないよ? と思うんだけど、なぜか3人は私の答えを待っているようで。


(ビジューさまとはあまりにも似ていない姿を恥じて、自ら壊れたんじゃないのかにゃ?)

「ビジュー神と似ていない姿を恥じて、像が自らその役目を降りたのでは?」


 答えに窮した私は、ハクの言った言葉をそのまま通訳してしまった。


 私の心証では、犯猫はハクなんだけど! でも、爪痕の大きさの違いとかの説明はできないし確証はない。第一「うちの仔がやったと思いますが理由はわかりません!」なんて言っても誰も信じてくれないだろうし……。


 なんて言い訳をしながら安易にハクの発言に乗っかった結果は、三組の期待に満ちた瞳と、三組の訝し気な瞳、一組の観察するような瞳による視線の圧力だった。


 集まっている強い視線から逃げる為、私はとっさにインベントリを開いて中から一体の木彫りの像を取り出して破壊されたビジュー神像だった物の前に置く。


 ヴァレンテ君が彫ってくれたビジュー像だ。深い考えがあったわけじゃない。ただ、自分の従魔が壊した(多分、きっと、高い確率で!)像の代わりに、新しい像で責任を取ろうと思っただけだ。


 ただ、それだけだったのに。


 ビジュー像が突然白い光を放ったと同時に、


『うふふ、嬉しいわ~♪』


 私はビジューの庭にご招待されていた。


 ………みんなの目にも、ビジュー神像は光って見えたのかな?


 だとしたら、このままずっとここにいたいかも。


 なんて、考えた私を、誰も責められないよね……? みんなにいったいどんな言い訳をしたらいいの!?


お読みいただいて、ありがとうございます!

8月末頃まで更新の時間がずれることが増えるかと思いますが……。

できるだけ頑張りますので、これからもよろしくお願いします!


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[気になる点] 作者さんの、体調 [一言] 無理しないで、くださいね~
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