治癒士ギルド 静かではない戦い 5
「んにゃ~~ん♪(アリス、偉いのにゃ!)」
(ビジューがモレーノお父さまに何かするような言い方は、不愉快だからね)
嬉しそうな声で私を褒めてくれるハクに笑いかけると、
「き、きさま! よくも我にこのような無礼な振る舞いを……! 我に何かがあれば、ビジュー神の怒りを」
❝ジュッ……❞
(きたないつばをアリスにとばすなっ!)
「ぎゃあああああああっ!」
激昂した治癒士ギルドマスターが私を怒鳴りつけ、ライムからお叱りを受けている。
残っていた髪が少し溶けただけなのに、随分と大袈裟な悲鳴をあげるものだ。と呆れながら、
「ライム、偉いねぇ! 髪だけを狙えるなんてお利口だよっ♪」
言外に❝怪我は負わせていない❞ことをアピールしておく。それから、
「ああ。ビジュー神の名を私利私欲の為に利用するあなたを罰すれば、ビジュー神が喜んでくれるって話だっけ? 私もそう思うよ」
ライムが叱られないように、ちょっとだけ言葉を添えておく。
動けない犯罪者を甚振った訳ではなく、ビジュー神を敬う者として、無礼な男を罰しただけだと。
これはもちろん、マリアンジェラ首席裁判官へのアピールなんだけど、彼女は、
「あらあら? 随分と激しい捕物だったのね? ご自慢の髪が気の毒なことになっているわ」
私たちがヤツを攻撃したこと自体をなかったことにして、この場を納めてくれた。
感謝の気持ちを込めて目礼を送ると、彼女はにっこりと微笑みながら、
「それにしても本当に美味しいお菓子ねぇ! ……今夜はみんな、とっても忙しくなりそうなのだけど、こんなに美味しいお菓子があればきっと喜んで働いてくれるんだろうなぁ」
賄賂を要求……、いや、違うな。 これから多忙となる部下を心配するあまり、少しだけ大きな声で独りごとを呟いた。もちろん、バッチリと聞こえた私としては、
「衛兵さんたちや裁判所の職員さんたちはこれからが本番よね? 私たちのせいで大変な思いをする皆さんに差し入れをしたいな。甘いものは疲れを癒すから、良かったら受け取ってくれる?」
❝善意の差し入れ❞を提案する。ここでは食べにくいと思って出していない、プリンやゼリーならまだストックがあるからね♪
もちろん彼女の返答は「喜んで」。わざとらしく遠慮するそぶりの芝居もなく、すっきりと話がまとまった。
捕らえられた教会関係&治癒士ギルド関係者たちが衛兵さん達によって連行され、人質になってしまった2人の兄妹も保護され、集まってくれていた冒険者&商業ギルド関係者が解散したあと、各ギルドや団体のトップだけがその場に残った。
つまり、領主のルクレツィオさん、冒険者ギルドマスターのオズヴァルドと商業ギルドマスターのネストレさん、衛兵部隊長さんとマリアンジェラ首席裁判官。そしてなぜか、王都から来たらしいロマーノさんが残っている。
このメンバーの中に入っているロマーノさんが何者なのかがどうしても気になって、思わずじっと見つめていると、マリアンジェラ首席裁判官が苦笑を浮かべてロマーノさんを手のひらで示し、
「ロマーノは今回、ジャスパーのモレーノ首席裁判官の指示でアリスさんのお手伝いに来た人だから心配はいらないわ」
と教えてくれる。……だったら前回はなんだったんだ?と思わないでもないんだけど、まあ、いっか。
とりあえずは今後の相談だ。
今回の捕物で、この街の<治癒士ギルド>が機能しなくなってしまった。この件についてはロマーノさんが、
「一月後には王都の<治癒士ギルド>から新ギルドマスターが赴任し、各地のギルドから治癒士たちが集まります」
と教えてくれたので、新しく来る人たちが拝金主義のろくでなしでないことを祈りながら、治癒士たちが到着するまで怪我・病人のフォローに注力すれば良い。
これについては今まで通り、冒険者ギルドと商業ギルドが連携して薬師たちの手伝いをすることでひと月を乗り切る形になる。もちろん私もできる限り薬やポーションを作り、治癒魔法を使用するつもりだ。
教会の方も王都から新しい責任者を送り込んでくるそうだけど……。どんな人がくるのやら。礼拝の度に献金を募るような人でないことを祈るばかりだ。と思っていたら、
「今まで教会と治癒士ギルドを放置しすぎていたことを反省している。これからは領主としてしっかり目を光らせておくし、最悪の場合は教会の取り潰しや治癒士ギルドの撤退を要求する」
ラリマー領主がきっぱりと言い切ってくれたので安心する。
そして、今回捕まった教会&治癒士ギルドのおバカさん達の処遇は、僻地での強制労働になる可能性が高いそうだ。
と言ってもヤツらが開墾に関わるわけではなく、開墾している人たちの回復役(もちろん無料)にしたいそうなので、ここは全てマリアンジェラ首席裁判官にお任せすることにした。
私たちも疲れているし、早く帰りたいからね!
今日もお読みくださってありがとございます!
投稿が遅くなってすみません……。




