治癒士ギルド 静かではない戦い 1
「きさま、我らとビジュー神に逆らうつもりか!」
❝ジュ……❞
「自分の為に幼い子らの自由を奪うことを、何と考える!? さっさと出てくるがよい!」
❝パリンッ❞
「は、はやく子供たちを解放しなさい! あなたが意地を張らなければ、その子供たちは安全なのです!」
❝シュン…❞
「ふんっ。おまえの為に犠牲になるのが、その二人だけだと思っているのか!? おまえに欠片ほどでも他者への愛惜の感情があるのならさっさと我らに許しを請い、この誓約書にサインをするのだ!」
❝ドカッ!❞
「アリス、ねえちゃん……、どうして俺たちはこんな目に遭わなきゃいけないんだ? あのおっさんたちは俺たちを保護しに来たって言っていたのに、どうして俺たちに魔法攻撃を仕掛けてくるんだ?」
「あたちたち何もワルイ事してないのに、どうしておじちゃんたちはあたちたちをいじめるの?」
「うん、2人は何にも悪い事してないよ。 悪いのはあのおじさん達と私なの。
きちんと説明をするけど、その前にごはんを食べない? ここに連れて来られてから今まで何も食べさせてもらっていないんでしょ?」
「「…………………食べる」」
……突然ですが、私は今、教会の一室に立てこもっています。というか、子供二人と一緒にハクが張ってくれた防御結界内で身を守っています。
ちなみに、さっきから怒鳴り声をあげている1人目の男はファイヤーアローで、2人目の男はアイスランスで、3人目の女性はとっても手加減したウインドカッターで、4人目の男は大きなバトルアックスでそれぞれ私たちを包む防御結界を攻撃中です。
どうしてこうなったかを一言で言うと、ヤツらが聞いていた以上の外道だったから。としか言えないなぁ。
私自身を攫うことはもちろん、私の一番大切なハクとライム、関わりのある人たちを攫って人質にすることも無理だと悟ったヤツらは、とうとう強硬手段にでた。
私とは何の関係もない子供2人を言葉巧みに教会に誘い込み、私に対する人質にしたんだ。
宿のベッドで迎えた朝。いつものように窓を開けると、いきなり飛び込んで来ようとした一羽の鳥。ハクが張ってくれていた不可視の防御壁に阻まれて飛び込んでは来なかったけど、防御壁に突っ込んだ勢いで弾き飛ばされた。
防御壁突っ込んだ衝撃で気を失い、そのまま落下していくのを見捨てなかったハクに拾われた(ハクの安全基準をクリアしたらしい)鳥は足元に書簡用の筒が括りつけられていたので、取り合えず内容を確認してみれば、……子供2人の安全と引き換えに治癒士ギルド(教会)への招待を受けろと言う文言。もちろん❝誰にも内密に❞との注釈付き。
もちろん罠だってことはわかっていた。でも、何の罪もない子供2人が私の為に非道な目に遭っていることを見逃すことはできず、渋るハクとライムを必死で説得して護衛たちの目を撒き、教会にやって来たんだ。
ああ、もちろん❝内密に❞なんて指示にはしたがっていない。
私自身はそのまま窓際から離れずに迷っているそぶりを見せつけ、その間にハクに手紙を総支配人さんの所に届けてもらった。❝まずは様子を見ていてほしい❞と一筆添えて。
そうして教会に着いたところ、子供2人を解放して欲しければ❝【治癒士ギルド】に入りたいと私の口から希い❞、❝教会に身柄を移す❞ことを要求される。
もちろん両方ともお断りだ! でも、いきなりお断りなんてできるはずもなく、私は必死に迷っている演技をし、私が巻き込んでしまった(心の中では外道たちが勝手に巻き込んだと思っているよ!)子供2人の安否を確認したいとお願いをした。
さすがに無理かと思っていたんだけど、もう、自分たちが有利だと確信していた治癒士ギルドの下っ端は私の願いを聞いてくれ、2人を私の所に連れてくる。もちろん、逃亡防止の為に5人ほどの男たちが一緒について来たけどね。
でも、ヤツらに対して❝遠慮❞の心を捨てている私たちにとっては、5人と下っ端君が束になっていても関係ない話。
子供の姿を確認すると同時にアイスボールをヤツらに投げかけ、ヤツらがひるんだ隙に子供たちを部屋に引っ張り込み、すぐさまハクに防御結界を張ってもらって身の安全を確保した。
後は、どうやって教会から出て行くか、なんだけど。
まずは腹ごしらえを優先する。だって、さっきから子供たちが空腹で目を回しそうなんだもん。
とりあえずは、たっぷり野菜と玉子の雑炊でも食べてもらおうかな。 デザートにはプリンを出して、ここから出る為の案を考えるのはその後くらい?
ハクの結界がある限り、こいつらが私たちを害することは難しいだろう。
だったら時間はたっぷりあるし、わたし達も一緒に食べちゃおうかな♪
ありがとうございました!




