治癒士ギルド 静かな戦い 10
遅くなってすみません!
冒険者ギルドにディアーナを訪ねてみると、
「ディアーナちゃん! 今日は俺が家まで送ってやるからな♪」
「今はまだ人通りも多い時間だから1人で大丈夫よ」
「あ? 何言ってんだ? ディアーナさんはBランクの俺が送って行くんだよ。Cランクに上がったばかりのおまえなんかに任せられるか!」
「あなた達の気持ちは本当に嬉しいけど、1人で大丈夫よ……」
「お2人のお気持ちだけいただいておきましょう。 ディアーナのことは、彼女のアシスタントの私が責任をもってミネルヴァ家に送り届けます」
「シルヴァーノまで……? そんなに心配なら巡回上がりの衛兵さん達に送って貰うから、あなたはあなたの仕事をしてちょうだい。今日は夜までの勤務でしょう?」
……元気いっぱいにモテている姿を目撃できた。モテモテな本人は困惑…っていうか、若干迷惑そうだけど。
このまま放っておいても楽しいんだろうけど、ここはひとつ、
「だったら私たちがディアーナを送って行くよ。私はこの件の当事者だからディアーナの安全を守る権利があるし、同行するイザックはいつAランクに上がってもおかしくないBランクだしね。不足はないでしょ?」
私も参戦することにする。私のせいで迷惑をかけてしまったことのお詫びもきちんとしたいしね。
イザックと私に気づいたディアーナは一瞬ホッとした表情を浮かべたが、すぐに困ったように眉を寄せ、
「心配してわざわざ来てくれたの? でも、大丈夫よ。怪我一つしてないわ。 だから安心して、アリスは少し休んでちょうだい」
なんて言ってくれるから、
「実は私も今からミネルヴァ家に行くところだから、その❝ついで❞なんだ。久しぶりにゆっくり話をしたいし、一緒に行かない?」
今は昨夜のことを謝れなくなってしまった。その為にわざわざ来たと言ったらディアーナが気に病んでしまいそうだったから。
その代わり、
「今私と一緒にミネルヴァ家に行くと、おやつに<ミルクレープ>とおいしい紅茶が付いてくるよ!」
甘いものが大好きなディアーナの為におやつを奮発することにする。
本当はミネルヴァさんから「美味しいオヤツはたま~に食べるからよいのです! あまり子供たちを甘やかしてはいけません!」って釘を刺されてるんだけどね? 今回は特別ってことで!
もちろんディアーナは、満面の笑顔で私のエスコートを受け入れてくれたよ♪
悔しそうな男性陣には申し訳ないけど、ちょっとだけ優越感を持ってしまうのは仕方がないよね? ふっふっふ、ディアーナに満面の笑顔でお誘いを受けてもらいたかったら、私のおやつを越えるだけの気合が必要なんだよ~!
……シルヴァーノさんだけは悔しさよりも羨ましさが前面に出ていた気がするけど、見なかったことにする。ここでシルヴァーノだけお誘いすると、まとまる話もまとまらなくなっちゃうからね。
ミネルヴァ家の子供たちが大歓声でミルクレープを頬張る中、私は顔に微笑みを貼り付けながら視線だけでミネルヴァさんに謝っていた。
どうやら昨日、商業ギルドの職員さんが私の名前で差し入れをしてくれたばかりだったらしい。私が言った❝みんな❞の中にきちんとミネルヴァ家とゲストたちの分を入れてくれていた職員さんは本当に優秀な人だ!
そのことを私に報告してくれていたら、完璧な対応だったんだけどな……。
ミネルヴァさんに咎める視線を向けられて、表情では反省を示しながら心の中でギルド職員さんにお礼と恨み言を言う、とっても忙しい私だった……。
「アリスさん、これでどうかな……?」
賑やかなオヤツタイムの後、自信なさげなヴァレンテ君が差し出してくれたのは、
「あ、ビジューだ!」
私の片腕サイズのビジュー像だった。
まだまだ荒削りだけど、確かにビジューだとわかる女神像に私は満足して、
(ビジューさまの隠しようのない威厳が表現できていないし、溢れる優しさも表現できていないし、麗しさがぜんっぜん!足りないけど、まあ、似ていることは似ているのにゃ。
教会にある像よりかはずっとビジューさまっぽいから許してやるのにゃ!)
ハクからも(随分と辛口だけど)合格が出たので、喜んで依頼料を支払うことにした。が、ヴァレンテくんに受け取りを拒否されてしまった。
「今の俺にはこれが精いっぱいだけど……。いつかアリスさんが本当に満足できるビジュー神像を彫り上げたいんだ。だから、預かっている木材から今回の依頼料で買えるだけの木材を譲ってくれ…譲ってもらえませんか?」
と言うことらしい。
そう言う話なら大歓迎だ! いつかハクの満足するビジュー像を彫ってもらう為に、今預けている木材はそのまま全て預けておき、その代わりに、彫りあがったビジュー神像は全て私が買い取ることで話をまとめる。
でも、そうするとこの木材を使って他の物を彫りたくなったら困るとヴァレンテくんが言うので、商業ギルドの職員さんに依頼して、木材の適正価格を1本1本に記入してもらうことにして、ついでに今回の話を委託する。
製作に失敗したものは焼却することを条件として、無料。
彫りあがったビジュー神像は、商業ギルドが適正価格を割り出して私がギルドに預ける(今ある口座とは別に預ける)お金で買い取る。
ヴァレンテくんが個人的に使用した木材の代金は、ギルドを通して支払う。
難しい話は特にない。この条件でギルドの手数料を引いたお金が私とヴァレンテくんの間を行き来することになるだけだ。
私たちが直接お金をやりとりをするよりも、商業ギルドの職員さんを挟んだ方がきちんとした適正価格を支払えるだろうとの判断だったんだけど、
「もう、アリスさんは俺の彫るものを直接見ないのか!?」
なんて誤解を与えてしまったことは反省する。
ギルドを挟むだけでヴァレンテくんが彫ったビジュー神像はきちんと私の手元に届くことと、これからもミネルヴァ家とのお付き合いが変わることがないことを理解してもらうまで、彼の目に浮かぶ水の膜が涙にならないように必死に説明をすることになった。
落ち着いたヴァレンテくんから菜箸の追加分を受け取り、そろそろ宿に戻ろうとすると、イザックとルシアンさんから❝待った❞が掛かった。
トレント材を丸太のまま1本ずつ譲って欲しいとのことだ。
高品質のトレント材の中でもより品質の良い物を選びたいとのことで庭に全てのトレント材を出して見せると、2人は真剣な表情で木材を吟味し、商業ギルドの職員さんが感心する2本を選び出した。
……職員さんが付けたお値段から、本当に良い物を選んだんだと理解できたけど……。いったい何に使うんだろうねぇ?
ありがとうございました!




