治癒士ギルド 静かな戦い 9
スライムパック入りの干し芋の試食係は、いつもお世話になっているラファエルさんと私の可愛い従魔たち。それと、タイミング良くこの部屋を訪ねてきたギルドマスターだ。
干し芋を竈に置いた網の上で焙った時に広がったあま~い香りに釣られて来たらしい。
「深い甘みとねっとりとした食感……。これが20日以上も前に作られたものだとはとても信じられない!」
「芋を蒸して乾燥させるだけでこれだけの甘味ができるとは……! 私はなんと不勉強だったのか……。あ、これは焼いた芋を乾燥させたのですね? どちらがより美味なのですか?」
ラファエルさんとネストレさんが❝今まで知らなかったことが悔しい❞といった表情で呻っているのを見ながら、うちのハクとライムは、
(とってもおいしいのにゃ! でも、明日には傷んでいるかもしれないから、明日も味見の必要があるのにゃ♪)
(さすがハクだね! ぼくもまいにちアジミしたほうがいいとおもう!)
とってもマイペースに❝毎日食べたい❞と訴えてくる。毎日だとさすがに飽きると思うんだけどね?
日本で食べていた干し芋の賞味期限は2か月ほどだった。この2匹に2か月間毎日食べられるといくら複製しても追いつかない予感がするので、そっと目を逸らして聞こえないフリをする。もしも本当に腐ったら【鑑定】でわかると思うしね!
味に変化がないことを私も確認してホッと安心していると、
「なんと! アリスさまはそのように素晴らしいものを開発されたのか!?」
ネストレさんが顔を輝かせながらラファエルさんに掴みかかるようにして迫り、
「え、ええ。何でも<魔力循環不全>の薬が苦くて飲み込めない幼子の為に開発したそうで。
え? ええ。その幼子は無事に薬を飲めたばかりか、❝美味しい❞と喜んでいたようですよ」
ラファエルさんの返答を聞いて、嬉しそうに何度も何度も頷いている。
どうしたのかと聞いてみると、なんと、ネストレさんも薬を飲み込むのが苦手な人だったようで。
昔から薬を飲み込むときの異物感に悩まされていて、時には薬を素直に飲み込めないこともあり、そんな時は喉の奥に張り付く薬のせいで嘔吐いてしまうこともしばしばあったそうだ。
「何よりも、<薬>はどれもこれも苦い物ばかりで……。稼げるようになってからは薬の苦みから逃げる為に軽い病で<治癒士>に掛かることも……」
と自嘲するように話してくれ、
「なのに、あの苦みから逃れられるばかりか美味しさまで感じられるとは! 服薬用ゼリーとはなんと素晴らしい物なのか!! 最短での登録に向けて尽力しましょう!
……あのぉ、先行販売などはなされないので? あ、もちろん、私の為ばかりではありませんよ? これを薬師の店に卸すことで、私のように❝薬が苦手で治癒士に頼っていた❞層を治癒士たちから引きはがせるかと……」
新たな販路の提案までしてくれる。
もちろん私に異存はないのでさっさと服薬用ゼリーを増産し、取り扱いをギルドにおしつけ……任せた。
冒険者たちの積極的な薬草採取&街の薬師たちの精力的な薬作り&薬を服用するのを手助けするおいしいゼリー、冒険者ギルド&商業ギルド員たちによるプロパガンダのお陰で治癒士ギルドに掛かる人たちは日に日に数を減らし、順調に治癒士たちを追い詰めていき……、とうとうヤツらは力業に及び始めた。
私に近しい人を攫って人質にしようとしたのだ。もちろん、これは当初から懸念していたことなのでミネルヴァ家の周りには何人もの冒険者&衛兵たちが護衛についている。その様子にしびれを切らしたヤツらが狙ったのは……、冒険者ギルドから帰宅する途中のディアーナだった。
夜間、人通りの少ない道で突然襲われるなんてどれだけの恐怖か。
イザックからその話を聞いた私は一瞬で頭に血が上り、すぐさま治癒士ギルドに殴り込みに行こうとしたが、
「ディアーナなら大丈夫だ。アイツもアリスの関係者だからな。ちゃんと護衛が付いていたし、アイツ自身もそれなりに強い。怪我一つなく、治癒士ギルドに雇われたゴロツキどもを制圧したってさ」
と続けられて、安心で一気に力が抜けた。
そうだよね。私の担当職員のディアーナ(しかも女性!)は立派に私の関係者。護衛が付かないわけがない。
それにしても、ギルドの看板職員のディアーナが強いってなんだろう? 荒くれ者もいる冒険者相手の仕事だから、自衛の為に鍛えてたのかな?
疑問に小首を傾げた私に苦笑しながらイザックは、ディアーナがずっと以前、とあるパーティーで<斥候>を務める敏腕冒険者だったと話してくれる。
知らなかった事実に目を丸くし、まだ若いディアーナがどうして今はギルド職員になっているのかと疑問に思った私だけど、その過去のおかげでディアーナが無事だったのだから、それ以外はどうでも良くなった。
でも機会があれば、どんな依頼を受けてどんな冒険をしていたのか、聞いてみても良いよねぇ?
ありがとうございました!
今回のお話に協力いただいた読者さまに感謝を込めてお届けします!




