治癒士ギルド 静かな戦い 4
家のドアを開けてくれた料理人さんの奥さまは、料理人さんの横に並ぶ私と私の肩の上のハクとライムを見て驚き、何かに気が付いたのかハッとした表情を浮かべたと思ったら……泣き出した。
料理人さんの胸に飛び込むと「あなた、なんてことを……」とポカポカとその胸を叩き、私に向かって「ごめんなさい……、ごめんなさい………」と泣きながら謝り続ける。そんな奥さまに私は戸惑い立ち尽くすだけだったが、料理人さんは慌てたように、
「違う、誤解だ!! 俺はやってない!! アリスさまが自ら来てくださったんだ!」
奥さまの肩に両手を置いて揺さぶりながら叫ぶように言った。料理人さんの言葉で少しだけ冷静になった奥さまは今度は私に向かって、
「治癒士ギルドになんか行ってはダメよ! わたし達の為にあなたが犠牲になってはいけないの!
治癒士ギルドにあなたを売ったとしても、わたし達の息子にはもう未来は、ない…の。だから、せめてあなただけは、息子の分も自由に生きて欲しい……! それがあの子の最期の願いなのっ!」
必死に言葉を絞りだすと、耐えきれなくなったのか両手で顔を覆ってしまう。
ああ、そうか。奥さまは始め、料理人さんが私を攫って来たと勘違いしたんだ。その次に、事情を知った私が誘拐される為に来たと思って、必死になって止めてくれている。
どうしてこの夫妻は私を責めないのか。私のせいで治癒士ギルドに目を付けられたことを怒ってもいい立場なのに、どうして私を助けようとするのか……。それに、❝あの子の願い❞とはどういうことなのか。
もしかして、全ての事情を知って息子さん自らが自分の生を諦めてしまったのかと不安になり、夫妻を放って勝手に家に上がり込む。マップの反応を頼りに子供さんの寝ている部屋のドアをノックしてから返事も待たずに開け放つと、……そこには枯れ枝のように痩せ細った子供が1人、薄く目を開いて横になっていた。
薄い布団越しに見える、痩せた、本当に小さな小さな体と……、全てを諦めきったような虚ろな目を見てやっと気づく。
ああ、この子は…、いや、この子とこの子の家族はもう疲れ果ててしまっていたんだ、と。
幼い子供が自らの命を、夫妻が大切な我が子の命を諦めてしまうほどの長い闘病生活だったんだろう。がめつい治癒士ギルドの治療を受ける為の金銭的負担も大きかったのだろう。と察することができるほどに、この家族はみんなが疲れ切っていた。
「【診断】! ………えっ?」
幼い子供のこんな表情は見たくない! 可愛い一人息子の死を受け入れるご両親の虚ろな笑顔なんてこれ以上見たくない! こんな切なすぎる理由の優しさは受け取り拒否だ!とさっさと治療を始めようとした私だったけど、
「うそ……。そんな………」
【診断】の結果に私は愕然とした。
……この子の病気が治せない。
薬で治る病気だって聞いてるのに、私の【治癒魔法】では治せないなんて……。
ありがとうございました!
短くってごめんなさい><。。




