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治癒士ギルド 静かな戦い 1

「アリスさん、クッキーが焼きあがりました! あの、それで……」

「は~い、ありがとう! つまみぐ…味見は1人1枚までね?」

「「「「「やったーっ!!」」」」」


「アリスさん! 水と薬草の浄化をお願いします!」

「わかった。ポーションや薬類の出来はどう?」

「はい! 本当に品質が向上していて驚いています。【クリーン】を使用するだけでここまで違いがでるとは思ってもみませんでした」

「えっと…。近いうちにレシピが発売されるから、一応買ってくれると嬉しいかな?」

「当然ですよ! レシピを購入しないで今回の手法を使っていたら、ギルドからどんな制裁を受けるか……。

 お~い、アリスさんがきてくれたぞ!」

「「「「「お待ちしていました!!」」」」」


「報告します! 商業ギルドと冒険者ギルドにポーションや薬類のストックが十分にあると周知されたせいか、治癒士たちの治療を待つ者が減り始めました!」

「そうですか! 結果が出始めたと薬師さん達にも伝えてください。ここからが勝負なので気を抜かないようにとも……。甘いものの差し入れをお願いできますか? 費用は」

「お預かりしている分で十分に賄えますので大丈夫です」

「あなた達の分もちゃんとある?」

「! はい♪」


「よう、アリス! 今日も子供たちは元気だぞ! アレ用の『糸が足りなくなりそう』だってさ」

「ちょっとペースが早くない? ラファエルさんに追加分をお願いしておくけど、あまり根を詰めずに、ゆっくりと遊ぶ時間も取るようにイザックからも言ってね?」

「ああ、わかった。でもあいつら『アリスちゃんの為に頑張ってお金を作るの!』って言ってるから、しばらくは大目に見てやってくれな?」

「……うん。ああ、そうだ。今日の晩ごはんのおかずを持って帰ってくれる?」

「おう! ハンバーグじゃねぇか! 子供たちもだけど、俺も好きなんだよな~♪」

「ふふ……、知ってる!」


「報告します! 街の薬屋から薬に関する問い合わせが殺到し、従来品よりも効き目の良い薬を自分の店でも扱いたいとのことです」

「転売とか買い占めとかされると困るから、そのあたりをギルド員さんたちで詰めてもらっていいかな?」

「お任せください! あ、ビスコッティを差し入れていただきましたが、アリスさんはまだ召し上がっていないと聞きまして……」

「持って来てくれたの? ……うん、やっぱり甘いものは疲れが取れる気がするね~。ありがとう!」

「いえ、我々の方こそありがとうございます!」




 ミネルヴァ家に【治癒士ギルド】からの勧誘が来てからはや10日。


 私は商業ギルドで❝戦準備❞に追われていた。……というか、戦いはすでに始まっていた。


 あの後すぐ、【治癒士ギルド】のギルドマスター宛に【冒険者ギルド】と【商業ギルド】の両マスターが連名で抗議文を送ってくれたんだけど、【治癒士ギルド】からの返答は「全ては女神ビジューさまのお心のままに。道を誤った者を正しい場所へ導くこともわたしの使命」とふざけた返事が返ってきて……。


 まずはハクが切れた。「自身の欲望の為にビジューさまの御名を語るとは!! おまえにビジューさまの何がわかる!? ビジューさまの望みはアリスが楽しく自由に生きる事!」と❝にゃ❞すら忘れるほどの激昂ぶりを披露して尻尾を狐さんのようにぽんぽんに膨らませ、いつまで舐めるのかと不安になるほどお腹をぺろぺろして気分を落ち着けていた。


 それを見たライムが泣きそうな声で「そんなにナメナメしたらおなかがはげちゃうよ!! アリス! ハクのおなかのふわふわのけをまもって!!」と私に依頼し、治癒士ギルドマスターの言動が腹に据えかねていた私はハクのお腹の毛を守る為にもさっさと片を付けようと即行動を始めた。


 ミネルヴァ家のみんなとマッシモの家族は冒険者たちと衛兵さん達に任せ、私は拠点を商業ギルドに移した。商業ギルドの方が何かと情報を集めやすく、何を行うにも物資の手配が手早いので便利だったのだ。


 ギルドの一室で商業ギルドお抱えの薬師さんたちにポーションや薬各種を作ってもらい、そのお手伝い(主に【クリーン魔法】の使用や、大量の薬草類の鮮度を守る為に私のインベントリに預かってその都度出し入れする)にも便利だし、大きいキッチンでは今回の戦いに参加してくれている人たちへの差し入れも作れるし、調理をお手伝いしてくれる人材も揃っている(ジャスパーの調理補助さんがまだ数人残ってくれていた♪)。


 でも、夜になると、


「アリスさま、お迎えに参りました」

「はい、いつもお世話になります!」


 キャロ・ディ・ルーナのオーナーさんがギルドまでお迎えに来てくれるんだ。


 柔らかいベッドと温かいお風呂でゆっくりと疲れを癒す為に。わざわざ馬車(なぜか領主家の紋章入り)で。オーナー自らが。


 オーナーさんとこの街の領主家との関わりは❝知っている人は知っている❞情報の為(当然、権力志向の治癒士ギルドマスターは知っていた)、彼の送迎を受けて彼の経営をしている宿にいる間は私の自由は脅かされることはなかった。


 ……いくら❝水の購入を円滑に行う為❞と理由を付けてもらっていても、本当はオーナーさんの思いやりだとすぐわかる。お部屋も相変わらず半額なんだけど……。


 そろそろ満額払っても良いんじゃないかな?と思わずにはいられないんだよね……。


ありがとうございました!

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― 新着の感想 ―
[一言]  敵の需要をひたすら削るのも良いけど、次の手も必要ですね。  次は治癒士ギルドの需要が減って、内部でイザコザが起きそう。  なので、内部の力関係で弾き出されそうな極少数の、まとも(善良)な…
[一言] むむ。ハクさんの腹毛守り隊 至急発足求む。 どこから間違ったんだろうね 始まりは多分純粋なものだったと 信じたいけれど。
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