宣戦布告? いいえ、丁寧にお断りしただけです
「よし! アリスのことは<冒険者ギルド>が総力を挙げて<教会>と<治癒士ギルド>から守ってやる!」
「いえいえ、アリスさまは我々<商業ギルド>が一丸となってお守りしましょう」
「だったら両ギルドで手を組んだらどうだ? アリスさんは両方のギルドに所属しているんだから、あんたらが矢面に立つ大義名分はあるだろう?
ああ、非公式にだが、俺たちも❝アリスさんをお守りし隊❞改め❝アリスさんをお守りする会❞に参加させてもらうぞ。俺の部隊にはアリスさんのファンが多いんだ」
後に❝<治癒士ギルド>変革戦❞と呼ばれた騒動は、それぞれの団体の責任者の、
「「「ビジュー神の御為に!! アリス(さん)の自由を守り抜く!」」」
という訳の分からない誓いの下に始まった。
ちなみにスローガンは❝ビジュー神はいつも見てくださっている❞だ。
ビジューの名前が出ているせいか、この場にいたラファエルさんやルシアンさん、イザック、マッシモ、ミネルヴァ家の子供たち(とミネルヴァさんも)までもが参加を表明し、なぜそんな話になったのか理解できない私を置いてきぼりにして作戦会議なるものが始まっていた……。
ミネルヴァ家の子供たちとマッシモの家族はこの家の中で冒険者と非番の衛兵さんが保護し、家の外は衛兵さん達が今まで以上に巡回に力を入れる(当然ここにも冒険者が参加する)。いわゆる❝籠城❞ってヤツになるため、食料などの物資の補給は商業ギルドが手配を行う。
これで❝人質❞を盾に私を無理やり勧誘するという手を防ぎ、その間に私が所属している<冒険者ギルド>と<商業ギルド>のギルドマスター2人が<治癒士ギルド>のマスターに対し『治癒士にはなりたくないと拒否しているうちのギルド員に、余計なちょっかいかけてんじゃねぇぞ!』と抗議を行い、その間に冒険者・商業の両ギルド職員が中心となって治癒士ギルドに対するプロパガンダを仕掛けるそうだ。
事が大事になり始めていて、どうしようかと戸惑う気持ちもあったけど、
「分を超える権力を求める<治癒士ギルド>をこのままにはして置けませんからね。今回のことは良いきっかけになりました」
商業ギルドマスター(ネストレさん)の何かを含んだ笑顔を見て私も覚悟を決めた。❝私の自由を守る❞とみんなが言ってくれるのなら、私はみんなの今後の健康を守る為に戦おう。
<治癒士ギルド>がこのままの権力・拝金主義では街の人たちが困る。
もちろん治癒士たちに❝無償❞の治療行為をして欲しいわけではない。ただ、教会を拠点にしてビジューの名を口にしながら治療を行うのなら、もっと多くの困っている人が治療を受けられるように考えて欲しいだけだ。
その為に私に何ができるかなんだけど……、
「おい、凄い量だな?」
「うん。薬やポーションがすぐに手に入る環境なら、<治癒士>たちの出番も少しは減るでしょ?」
とりあえずは大量の薬類を用意しておくことかな?
もちろんいきなり安く大量に流通させて価格破壊を起こしてはいけないことはわかってる。他の<薬師>やそれにかかわる人たちの生活を脅かしてはいけないからね。
でも、元々【治癒魔法】よりはお手頃価格だった薬類。ただ流通量が追い付いていない為に、泣く泣く大金を払って治癒士たちに治療を依頼していた人たちもいたと聞き、だったら大量に薬をストックしておけばいいと思っただけだ。もちろん恒久的にではなく、治癒士ギルドが組織を健全化させるまでの間だけだ。
自分たちの存在意義が薄れる前に、彼らが態度を軟化させてくれるのを祈るのみ、だね。
そして、私が<治癒士ギルド>には所属するつもりはないとの宣言。まずはこれが一番大事だよね? だって、何が何だかわからない内にこの家に匿われてしまって、きちんとしたお断りの文句を言っていないんだから。
だから私は表へ出て、
「ほほ、やっと我らにたてつくことの愚かしさを理解したようだ。さあ、さっさとお乗りなさい。マスターさまをお待たせするでないぞ、小娘が」
にやにやといやらしく笑う使者に対して、
「ギルドって<教会>の中にあるんでしょ? 私、教会の神父らしき人から出入りを禁じられてるのよね。献金を強要されて断ったから恨まれてるの。もちろん私もそんな腐敗した集団の拠点になんて近づきたくないんだ。という訳でさっさとお引き取り願える?」
丁寧にお断りの文句を述べる。
勝手な理由で❝出入り禁止❞にしてくれたのはそっちサイドの人間なんだから、私に文句を言うのはやめてね?ってことで! さっさと帰れーっ!!
ありがとうございました!




