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ビジュー神を語ってみる 2

「アリスさん! 俺は教会のビジュー神さまの像を見たことがないし、俺の中で優しくて美しい女神像を想像しながら彫っていると、どうしたってアリスさんにそっくりな女神像になっちまうんだ!」


 女神像の話は付いた。後は【治癒士ギルド】の強引らしい勧誘をどうやって躱そうかと考えていると、ヴァレンテ君が冗談みたいなことを真剣な顔で訴えだした。


 今、ヴァレンテ君が教会のビジュー神像を見学に行くのは危険だし、教会のビジュー神像と同じ顔で彫ってもらっても私が心を込めた祈りを捧げる気にはなれそうにない。


 かと言って私の顔をしたビジュー神像なんて(もっ)ての(ほか)だし……。


(だったら、以前にアリスが描いたビジューさまの似顔絵を渡してやればいいのにゃ!)


 とハクに言われて困惑する。


 私は絵を描くことが嫌いではないし、どちらかというと得意な方だと自負していた。でも、ビジューの姿を忠実に描こうとすると、どうしても満足の行く出来にはならないんだ。


 私の画力ではあの完璧な美貌を表現しきれなかった。


 そのことを知っているくせに!と恨みがましく睨んでしまうと、


(ビジューさまはその絵の10倍お綺麗だと伝えればいいのにゃ。簡単な事にゃ♪)


 ハクは得意気に胸を張って言い切った。……うん。悪くないかも!


 モデルよりも美しい絵画や彫像なんて珍しい事ではない。どこまで美しい像にできるかはヴァレンテ君(せいさくしゃ)にお任せすればいいんだ♪


 ハクのアドバイスに従って、私はインベントリから以前に描いていたビジューの姿絵を取り出してヴァレンテ君に差し出す。そしてハクから教わった魔法の呪文、


「ビジュー神はこの100倍は麗しい素敵な女神さまだから、よろしくね!」


 を唱えた。これで丸投げが成功だ♪


「……この絵より100倍も綺麗な女神像なんて、無理に決まってるじゃんかっ!!」


 なんて叫びが聞こえるけど、ヴァレンテ君頑張って! 君ならできるよ♪












 これで後しばらく待てばビジューの麗しい姿がいつでも見られるようになる♪とご機嫌な私に、


「なあ、それどうするんだ? もしかして捨てるのか?」


 ルシアンさんがのんびりとした声を掛けてきた。視線はハクとライムの玩具になっている私似の木像に向いている。


 材料にトレント材を使用しているのでただ捨てるのは勿体ない。薪の代わりにするつもりだと答えると、


「そこまでアリスさんにそっくりな像を燃やしちまうのか? 何かの禍が降りかかったらどうするんだ?」


 と眉を顰められた。 


 そう言われると、自分に似ている木像を燃やしたり処分するのは確かに気持ちのよいものではない。別に何かが起こると思っている訳ではないんだけどね? なんとなく、感覚の問題だ。


 だからルシアンさんが、


「それ、俺にくれないか? マルゴおばさんにアリスさんに似た像を送ってやりたいんだ。アリスさんが急に旅立ってからすごく寂しがっていたから、きっと喜んでくれると思う」


 と言われて譲ることにした。


 そこまで思ってくれていると聞くとやっぱり嬉しいからね。ちょっと恥ずかしいけど、マルゴさんが喜んでくれる(かもしれない)のなら、多少の羞恥心には蓋ができる。


 もしも私がマルゴさんを送り出す立場なら、私もマルゴさんに似ている像が欲しいと思うだろうしね。陰膳をお供えしちゃう自信がある。


 マルゴさんの温かい笑顔を思い出している私の後ろで、


「お兄ちゃん、ビジューさまの絵をあたしにも見せて! うわぁ! こんなに綺麗な人、アリスちゃん以外に見たことない!」

「すげぇ……。本当にこんなに綺麗な女神さまが俺たちを見ていてくれているのか…? 俺、頑張るっ!! なんかいろいろと頑張るよ!」


 子供たちがはしゃいだ声を上げていて、そのまた後ろの方でルシアンさんがこっそりと木像を子供たちに渡し、


「ほら。アリスさんに見つかるんじゃないぞ? あとアリスさんを女神さまと呼ぶのはおまえたちの間だけにしておけ。他の奴らに聞かれたら、優しい女神さまの加護を奪われちまうかもしれないぞ?」


「わかった! 家の外では絶対に言わない。これからはアリスさんとビジューさまにも感謝のお祈りをすればいいんだね? 私嬉しい! ルシアンさん、ありがとう!」

「俺の女神さまはやっぱりアリスさんだと思うけど、これからはビジューさまにもお礼を言うよ! アリスさんと俺たちを会わせてくれたんだもんな! 感謝しないとな」


 なんて会話があったことは全然気が付かなかったし、


「ああ、ヴァレンテ。アリスさんには❝アリスさんに似た木像をマルゴおばさんに送る❞って言ってるから、早急にもう1体作ってくれな? もちろん金は俺が払うよ」

「だったら俺も金を払うからもう1体彫ってくれ。モレーノさまに送って差し上げたら喜ばれそうだ。ああ、トレント材はアリスの持ち込みだったな? それについては俺たちが木材として買い取っておくから心配するな」


 なんて会話があったことも聞こえなかったんだよ。


 聞こえていたら、止めたんだけどな!


 ハクとライムが妙にいたずらっぽく笑って楽し気にしていたのには気が付いていたんだけど、理由までは聞かなかったんだよね……。


ありがとうございました!


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