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治癒士ギルド 5

 おバカなことを言い出した大人組の意見を聞いた、素直な子供組は、


「アリスちゃんは❝せいじょ❞さまなの?」

「❝せいじょ❞ってなんだ?」

「あたし知ってる! 聖女さまは女神さまのお使いでとってもえらい人なんだよっ」

「アリスさんは女神さまのお使いなの!? あ、だから、何もできない女神さまの代わりに私たちを助けに来てくれたんだね!」

「「「「「アリスちゃん(さん)、すご~いっ!!」」」」」


 ……簡単に感化されてしまった。


 ダメだっ! このままでは私は教会や王家……、いや、王家は大丈夫かな? おバカな権力者たちの良い駒にされてしまう!


 ❝私は聖女ではないし、ビジュー神なんて会ったことない❞


 私はとっさにそんな嘘を言おうとした。


 前半は本当のことだから良心になんの呵責も感じないが、後半はこれを聞いたビジューがどう感じるかを考えて一瞬だけ言葉に詰まる。その一瞬の隙を突くように、


「そう言えばマルゴおばさんが言っていたな。❝アリスさんも嘘は吐くけど、それは自分たちの身を守る為のものであって他人を傷つけるようなものではない❞って。 だから、俺はアリスさんが言うことを素直に信じるぞ」


 ルシアンさんが慈愛に満ちた、まるでおじいちゃんが初孫を見守っているような優しい目で私を見つめ、私を守るように大人組を軽く睨みつけるのを見て、もう嘘を言う気にはなれなかった。


 でも、本当のことを言ったら余計に❝聖女認定❞されそうだし、そもそも転生なんて突飛な話を信じてもらえる気がしない。だから、なるべく嘘にはならないように気を付けながら言葉を紡ぐ。


「私は聖女ではないし、聖女なんかになりたいと思ったこともないよ。

 ビジュー神の寵愛……はわからないけど、私に備わっているスキルはどれをとっても❝加護❞を受けていると判断されてもおかしくないくらいに恵まれているものだという自覚はあるけどね」


 ハクとライムを両腕に抱きしめながら、ちょっと困ったように笑って言うと、


「アリスさまは聖女にはなりたくないとおっしゃる……?」


 ネストレさんも困ったように笑いながら言った。


「うん。私にとってはデメリットしかないからね」


「女神のことをあれほどに理解されているのに? 面識がおありなのでしょう?」


「あ~……、さっき子供たちに言ったことは間違ってはいないと思うんだけど、直接ビジュー神から聞いた話ばかりじゃないんだ。ビジュー神とはつい先日夢の中でお話したけど、それもただの夢かもしれないし、それこそ教会の奴らと同じような勝手な思い込みかもしれないよね?」


 うん。全部が本当ではないけど、嘘は言っていないと思う。転生前に直接会って仲良くなったことを言っていないだけだ。だから、


「夢で、ですか? どのような夢かお聞かせいただいても?」


 と問われたら素直に応える。ハクもすました顔で私を見ているので、話しても大丈夫なんだろう。


「これまで関わって来た人たちとのご縁が素晴らしいものだったことと、この体が授かったスキルのお陰で今日まで楽しく生きてこられたことの感謝を伝える夢よ。それと、……フランカが可愛いお花の姿になっていて、私の話を聞いて満足したらしく、魂の休息期間を終えて転生準備に入った夢」


「まあ、フランカが女神さまの御許に…!?」


 それまで黙って話を聞いていたミネルヴァさんが、驚いたように口を開いた。


「では、女神さまはフランカの自死をお許しに……?」


「うん。ビジュー神はフランカの身に起こったことを全て知った上で、フランカの性質を愛でてくれたの。わずかだけど祝福を与えてくれたよ。 ……都合のいい夢を見ただけかもしれないけどね?」


「まあ! うふふっ、わたくしはただの夢ではないと信じますよ。だって、わたくしがビジュー神でアリスさんのことをずっと見ていたなら直接お話したくなりますもの。見ているだけではきっと満足できないわ。 ああ、だから❝夢❞なのね? きっと夢の中ならこの現世(うつしよ)に影響を与えないですむのだわ。

 女神さま、今も見ておられますか? フランカの魂に祝福をお与えくださったことに心より感謝を申し上げます」


 ミネルヴァさんは私の話を聞いて微笑み、一筋の涙を流すと、その場に跪いてビジューに感謝を告げる。


 それを見ていた子供たちがミネルヴァさんの真似をするので、まるで私がみんなの感謝の祈りを捧げられている形になってしまった。


 それを見ていた大人組が、


「なんだよ。聖女じゃなくても、しっかり女神ビジューの代理を務めてるじゃねぇか」

「そうですね。私も祈りに参加したくなるほど素晴らしい光景ですね」

「坊主たちの女神はアリスさんのままで良いんじゃないか?」


 なんてふざけたことを言い出したので思わず不快を表明しようと思ったら、


「アリスさんは新人の<冒険者>で駆け出しの<商人>でいいじゃないか。俺は本人の希望を大事にしてやりたいと思う」

「ああ、アリスは<平民>の冒険者であり商人でありたいと思っているようだからな。俺も今のままでいさせてやりたいと思うぞ」


 ルシアンさんとイザックが❝仕方がねぇよな~❞とでも言いそうな顔で笑い合い、


「ほら、ミネルヴァと子供たちは早く立て! まるでアリスが聖女を通り越して女神さまみたいになっちまってるぞ! 治癒士にすらなりたくないアリスは今のままがいいんだと。このままアリスを神格化すると、アリスがここから逃げ出すかもしれないぞ?」


「アリスさんがいなくなるの!?」

「アリスちゃん! いなくなったら嫌だ!!」


 子供たちを即座に立ち上がらせてくれた。ミネルヴァさんまですぐさま立ちあがって私を見つめるので、私はゆっくりと首を横に振って大丈夫だと伝える。


 でも、これだけは言っておかないとね?


「ヴァレンテ君? 女神像は私が依頼したものだよね? 私は私の姿をした木像に向かって感謝や祈りを捧げる趣味はないんだけどな? きちんとした女神像を彫って、…くれるよね?」


 最後に少しだけ意地悪な表情を浮かべるのがポイントだ。彫り直しを拒否したら怒るぞーっ?と心の中で脅しをかけると、ヴァレンテ君はコクコクコクコクと何度も首を縦に振って彫り直しを受け入れてくれる。ついでに、


「お箸、まだ受け取っていないよね? ここに来るたびに腕の長さとか指の寸法を測っていたのに、まだできていないなんておかしいよねぇ? どうしてお箸よりも難しいだろう木像の方を先に作っているのかなぁ?」


 と詰め寄ってみると、ヴァレンテ君は途端にあたふたし始めた。うん、怪しいね。もう少し詰めてみようと思っていると、


「え? ヴァレンテ兄ちゃん、まだあの棒を渡してなかったのか? 俺が取って来てやるよ」


 ヴァレンテ君よりも少し幼い男の子が部屋を飛び出して行った。どこに行くのかはわからないけど今下手に動くのは危ない。もしも外に出て治癒士ギルドの奴らに見つかったらどうするの? 


 私が急いで止めようとするよりも一足早く、マッシモが任せろと言うように手を上げて男の子の後を追っていった。彼のことはマッシモに任せて大丈夫だろう。万が一攫われるようなことがあってもマッシモが目撃してくれていたら、すぐさま治癒士ギルドに殴り込めるしね。


 さて、ヴァレンテ君? 君は部屋を出る必要はないよね?


 お箸が出来上がっているのなら、どうして私に渡してくれなかったのかなぁ? 説明を求めます!


ありがとうございました!


ありがたいコメントに心を癒され、楽しいコメントに元気づけられています♪

最近時間が不定期になっていますが、出来るだけ定時投稿を頑張りますのでしばらくの期間ご容赦を!

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― 新着の感想 ―
[良い点] 更新ありがとうございます(≧▽≦) 女神様でも聖女様でもない、『ムッチャいい人』認定で丸く(?)収まりましたね~(苦笑) [気になる点] ヴァレンテ君、お箸を渡すの忘れてたんか~い!(笑…
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