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のんびりとした時間は長くは続かないようだ……。 3

 壊れた屋台とぶちまけられたすっぱい(らしい)料理の残骸に、怪我をしている人たちの血の匂いとそれに混じって漂う吐瀉物や排泄物の匂い。


 ぐったりと力を失っている怪我人に下卑た笑いを浮かべながらなおも暴力を加える男たちや、下半身を排泄物で汚しながら腹痛に苦しんでいる人を嘲笑っている商人風の男。


 乱闘騒ぎに乗じて衣服を破られたのか、露わになった素肌を男たちに見物されて泣いている女性を見下すように見ている、扇情的な衣装の女性たち。


 そして、それをただ遠目で見ているだけの見物人たち。


 ………私の目に、北の広場の惨状は地獄のように映った。


 広場に転がる怪我人や病人たちに死人はいないし、内臓をぶちまけるような怪我をしている人もいない。魔物に襲われることを思えば❝地獄❞なんて表現は大袈裟だ。と思われるかもしれないが。


 人が笑いながら他人の尊厳を傷つけている現場は、地獄に棲む鬼の仕業にしか見えなかったんだ。


(アリス! お仕事の商売の時間にゃ!! ライムは危険だから、しばらく従魔部屋(ハウス)に入っているのにゃ!)


 あまりの衝撃に一瞬硬直してしまった私を正気に戻したのは、頼りになる可愛い保護者(ハク)の声と、


「動くなっ!!! そこまでだっ!! この場は我々衛兵任務部隊が預かる。 

 衛兵たちは、これ以降、暴力を振るう奴がいたら誰であろうと問答無用でひっくくれっ!!」

「「「「「はっ!!」」」」」


 やっと現場に到着した、衛兵さんたちの大音声だった。









「アリスさん、ポーションの追加を15本頼みますっ! それとあちらの3人が【クリーン】を希望しています」

「わかった」


「アリスさん! 次はこっちの人の治療を頼む! 【クリーン】も希望だ」

「わかった」


「アリスさん、布を追加で10枚貸して欲しいのだが」

「わかった」


「アリスさん! こちらの老人の様子がおかしいので先に見てくれませんかっ!? 支払いの同意はまだですが身元は分かっているので僕が責任を持ちます!」

「わかった」


 怪我をしている人たちの内、誰が被害者で誰が加害者なのかもわからない現場だったけど、衛兵さん達の活躍のお陰で私はただただ治療行為に専念することができている。


 もちろんタダ働きではない。そんなことをしたら、さっき教会の前で治療費を払ってくれて人にも悪いしね。


 それでも忙しすぎて、目が回りそうだけど。


「アリスさん、あちらの女性なのだが……。男たちの見世物にされたショックで下半身を汚したようだ。男の俺たちは近づかない方がいいと思うからすまないが」

「わかった。すぐに」

「私が行くわ! アリスはそのまま治療をしていて」


「ディアーナ! うん。お願いね」


 衛兵さんと協力して目まぐるしく治療を行っていると、心強い味方が増えた。冒険者ギルドからサブマスターを始めとしたディアーナたち職員さんと手の空いていた(酒場にいた)冒険者たちが応援に来てくれたのだ。


「協力に感謝します! では、治療費などについてのルールを説明しますのでこちらに」


「ルール?」


「アリスさんの提示した治療費や洗浄費に納得されてからの施術となりますので。支払いができない方は我々が最低限の治療を行うことに。ちなみに加害者側の治療費は3倍額になります」


「ああ、なるほどね」


 治療費についても衛兵さんが冒険者ギルドの面々に説明をしてくれるから、私は安心して治療を続行する。


 この突然の混乱の中では治療費の支払いが難しい人もいるだろうと判断した衛兵さんの提案で、私が最初に提示した【クリーン】【キュア】【ヒール】の代金を衛兵さんたちが患者さんに説明。支払いを了承した人から治療。支払いを了承しても持ち合わせがない人の分は書面にしておいて、衛兵任務部隊の方で立て替えて後でまとめて支払ってくれるのだ。その場合は患者さんは衛兵任務部隊にお金を返すことになるのだが、衛兵任務部隊にお金を借りて踏み倒す人もそうはいないので、安心だ。


 そして、怪我人や病人に手を割かれて、加害者たちに手が回っていなかった衛兵さんのフォローには、


「おいっ、てめぇ!! これだけのことをしでかしておいて逃げようとしてんじゃねえぞっ!」


「放せっ! 貴様わしを誰だと思っている!?」


「ああ? 知らねぇなぁ? おら、大人しくしやがれっ」


 ❝ギリッ❞


「痛たたたたたっ! 衛兵! この男がわしに暴力をふるったぞっ! 捕まえろっ!!」


「あ? 暴力? おまえが逃げようとしたのをそちらの男性が取り押さえてくれただけだろう? 痛い思いをしたくなかったら大人しくしてろっ」


 冒険者たちがとても役に立っている。それに、


「おい。見ろよ、スレイプニルだ。貰っちまおうぜ! へへっ、いい金になるな」


「あん? なに言ってるんだ。この馬は元々俺らのモンだろ? 俺たちは自分の馬を連れてこの場を離れるだけだ。言葉に気を付けろよ?」


「ヒヒンッ!(無礼者っ!)」

 ❝ドカッ❞


「アガッ!!  …い、いてーっ!! ほ、骨が折れた! 骨が折れたよぉぉ!」


「何しやがるんだ、この馬野郎!! 死にさらせっ!」


 ❝ビシッ!!❞

「何しやがるはこっちのセリフだねぇ。 可愛い可愛いスレイを盗もうとしたんだ。旦那のニールが怒って当然だろう? 骨が折れた? 命があるだけ感謝しな!」


 混乱に乗じてスレイを盗もうとした現場をサブマスターが押さえてくれていたので、ニールが不当に人を傷つけたという言いがかりをつけられずにすんだ。


 サブマスターの鞭で巻かれた男たちの顔だけ確認して、あとはひたすら治療を続け……。


 怪我をした被害者はいなくなり、吐瀉物や排泄物の汚れは綺麗になり、北の広場は大分元の姿を取り戻した。


 混乱の痕跡は、壊された屋台とひっくり返されたすっぱいらしい元・料理。それと衛兵さん&冒険者たちに囲まれた、屋台の関係者たち。


 さて、どんな言い訳が聞けるのかなぁ?


 ああ、さすがにこの状況で色仕掛けに引っかかる衛兵さんや冒険者はいないみたいだね。


「自分は無関係だ」なんて言いながら妙に色気を振りまいているおねえさんたち? おとなしくしている方が身のためだよ? 


 周囲の視線がどんどん冷たくなっているのがわからないのかな?


ありがとうございました!

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