のんびりとした時間は長くは続かないようだ……。 2
「屋台のごはんを食べて食中毒!? で、怒った当人や家族たちが屋台に抗議をしに行ってそこで乱闘!? どうしてそんなことに……」
回復した男性たちに案内されて、北の広場に向かいながら事情を聞いた。
彼ら2人は冒険者なんだけど、今日は北の広場の近くにある建設現場で荷運びの仕事をしていたらしい。
大きな建設現場では本職さん以外のお手伝いも珍しくないようだ。
その建設現場で働く作業員たちのお財布を当て込んで、北の広場に新しい屋台が出たことは別段珍しい事ではないらしい。が、今日出ていた屋台はちょっと事情が違っていた。
❝異国の料理のお試し❞という触れ込みで大々的に、妙に酸っぱい料理が格安で販売されていたそうだ。
いつもなら本能的に酸っぱい料理は避けていた彼らだけど、今回は❝珍しい異国の料理❞❝格安❞❝売り子のお姉さんたちが色っぽかった❞の3拍子に負けてついついお試ししてしまった、と。
その結果、見事にお腹を壊すやら吐き戻しをするやらの症状が多数の人に出てしまい、比較的症状の軽い人たちやその関係者が屋台に抗議に向かった。
すると、❝色っぽいおねえさん❞たちの代わりに厳ついおっちゃんたちが出て来て、最初は❝聞く耳持たない姿勢❞でのらりくらりと交わされていたが、次第に「うちの売り子に鼻の下を伸ばして買ったんだろ? だったら腹痛くらいでガタガタ言うな!」と恫喝されて、被害者やその関係者たちは怒りを覚えたらしい。まあ、当然だよね。
で、気の短い被害者の家族が怒って、厳ついおっちゃんの肩を小突いたことから乱闘騒ぎにひろがった、と。
普段なら、一般人よりは当然強いはずの冒険者(新人含む)や現場で鍛えた男性たち。簡単にやられることはないんだけど(と、彼らは言っている)、今回は比較的軽傷とはいえ体調不良者本人とその家族や知り合いたちでは、暴力を仕事にしているような男たちには敵わなかったそうだ。
結果、多数の病人&怪我人が北の広場で転がっているらしい。
………性質の悪い屋台があったものだね。私たちも気を付けないとね。
それと、どうして教会まで行ったのに治癒士の治療を拒んで私に治療を頼んだのか、なんだけど……。
「だって、アリスさんなら余計な講釈を挟まずにすぐに治療をしてくれるから」
「アリスさんなら治療費以外の賄賂を要求しないって聞いていたから」
と言われてびっくりしてしまう。
どうやら教会にいた<治癒士>たちは、命に関わらない怪我や病気に対しての姿勢がのんびりしすぎているらしい。
苦しむ患者の前で自分たちの【治癒魔法】がいかに素晴らしいものであるかを長々と講釈し、なかなか治療に移らない。素早く治療をして欲しければ、講釈を遮る為の袖の下が必要になるし、治療が終わった後も、女神の素晴らしさ、女神に使える自分たちの素晴らしさを得々と語り、治療費以外の寄付金をそれとなく(?)強請るそうだ。
……自分が痛みや不調に苦しんでいる時に、そんなことで時間を取られるのは私も嫌だ。
でも、今回は私がいたけど、次回からも私がいる保証はどこにもない。治癒士ギルドとの関係を悪化させると後々困るんじゃないかと思うんだけど……。
「考えてなかったよ。じゃあ、どこかへ移動するか?」
「そうだな。次は王都なんてどうだ?」
なんて軽く笑い飛ばされてしまって呆れてしまう。
病気や怪我はタイミングを計ってはくれないよ? もしも、この街にいる間に体調を崩すことになったらどうするんだろうね?
ありがとうございました!




