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治療の対価 孫の勝利

「この怪我の治療の対価は、

 1、飾られている大皿3枚セット

 2、仕舞い込まれていた中皿2枚とグラス5客セット

 のどちらかになります。どうしますか?」


「高すぎる! 大根を5本でいいだろう!?」


 左足の骨折の治療に要求した対価は気に入らなかったようだ。 でも、大根はもうあるので必要ない。


「1か2のどちらかを選んでください」


「だったら大根に小麦粉もつけてやる。それでいいだろう?」


 小麦粉ももうあるから要らないな。


「折り合いがつきませんね。では、治療は不要ということで…」


 さっさと出て行こうとすると、


「他のヤツらは野菜で治療をしてやったんだろう? どうしてわしだけ野菜じゃないんだ!?」


 と聞かれた。 村民に都合のいい噂が広がっているようだ。


「欲しいものが他になかっただけです。 それに野菜以外にも色々貰っていますよ?

 治療費が高いと思ったなら、治療を受けなければいいんです。 

 その怪我なら、数ヶ月おとなしくしていれば、自然に治癒しますよ」


 ここできちんと説明をしておいたら、明日には村中に広がるかな? 期待を込めて話し続ける。


「私があなたに要求する対価は1か2のどちらかです。

 大根と小麦粉で治療を受けたいのなら、他の、きちんとした治癒士に見てもらってください」


「街の治癒士なら中銀貨5枚ってところか?」


 中銀貨5枚? 高級宿と同じくらいか。 結構高いな。


「この子なら野菜でいいって聞いたんだ! そんな金払えるかっ」


 野菜なら安いから治療を受けるだけで、本当はそんなに必要じゃないってことかな?


「平行線ですね…。 話はここまでです。お大事に」


 時間がもったいないので、さっさと切り上げることにした。


 マルゴさんもルベンさんも反対はしなかったので、問題ないだろう。


 家を出て、次の患者さんの家に向かっていると、若い娘さんに呼び止められた。


「大皿を3枚お支払いするので、おじいちゃんを治してください!」


 さっきまで家の隅でおとなしく立っていた、お孫さんだった。


「おじい様は了承されていますか?」


「まだですけど、説得しますから!」


 あれだけ『野菜での支払い』にこだわっていたのに? これ以上時間を取られるのは勘弁して欲しい。


「戻るのが面倒なのでイヤです」


「中皿とグラス5客も一緒にお支払いしますから、おじいちゃんを治してください!」


「あなたが勝手にできる判断ではないでしょう? 次の患者さんが待っているので…」


 話を終わらせて歩き出そうとしたら、お孫さんは急に泣き出した。


「助けてください! 治癒士様、おじいちゃんを治して…!」

 

「おじい様の怪我は無理に治さなくても、おとなしくしていたら治りますよ?」


「すぐに治りますか!?」


「数ヶ月はかかりますけど…。 ただで治ります」


 無理に治さなくても大丈夫だと伝えたら、


「そんなに長い時間、私が耐えられません! 今すぐに、治療をしてください!」


 ますますひどく泣いて訴えられた。 そんなにおじいさんのことが心配なのかと思ったが、それだけではなさそうな泣きっぷりなので事情を聞いてみる。


「おじいちゃんはもともと穏やかな人ではなかったけど、怪我をしてからは、ちょっとのことで機嫌が悪くなって私に当たるし、自分でできそうなことでも全部私に言いつけてくるんです…。 畑の世話をしに外に出るだけでも、『動けない自分を置いてどこへ行く』って怒るし…、もう、もう、耐えられませんっ!」


 思った以上に大変だったようだ…。 わがままな怪我人の世話は、思った以上にストレスを抱えるらしい…。


「…おじい様の説得を、今すぐにできますか?  明日、出直してきましょうか?」


 歩み寄ってみると、お孫さんは泣き顔のまま立ち上がり、


「今、すぐに! すぐに説得しますので一緒に来てください!」


 そう言って、私の腕をがっちりと掴みながら家に戻った。 …すごい気迫を感じる。


 振り返ると、マルゴさんとルベンさんが苦笑いをしながらついて来ていた。










「おじいちゃん! 大皿3枚と中皿2枚とコップ5個で、治療を受けて!」


「なっ…、高くなってるじゃないか! わしは払わんぞ!」


「ダメよ、今すぐにちゃんと治して!」


「寝てれば治るんだろっ? そんなに払うくらいなら、治療なんかいらん!」


 やっぱり平行線かぁ。 そう思って溜息を吐くとお孫さんがキレた。


「じゃあ、おじいちゃんが治るまで、私は家を出るわっ!」


 ……ん?


「おまえは動けないわしを置いてどこへ行くつもりだ!?」


「だから、治してって言ってるんじゃない! 私はこれ以上、おじいちゃんの八つ当たりを受けるのは嫌よっ」


「なっ……」


「朝から晩まで『あれしろこれしろ』。 ちょっとでも気に入らないと、すぐに大声で怒鳴る。 

 おじいちゃんが治癒士様にお渡しするって言った大根だって、私が1人で世話をしているのに、それすら怒られて水遣りひとつままならない。大根が萎びかけてるの、おじいちゃん知らないでしょ!?

 お皿とコップで治療を受けるか、私が出て行って治るまで1人でこの家にいるか、どっちかを今すぐ選んで!」


 説得じゃなくて、脅迫?


 お孫さんの煮詰まり具合をひしひしと感じる。


「でも、あの皿はわしが街に行った時の記念に買った…」


「治してから、また行けばいいでしょ!?」


「大皿に中皿にグラスは多すぎるんじゃないか?」


「飾ってたり仕舞ってたりで、どうせ使ってないじゃない!」


「せめてグラスは…」


「たかがコップと私とどっちが大事なの!?」


「大皿3枚と中皿2枚でいいですよ」


 早く話しを終わらせたくて妥協をすると、2人は凄い勢いで振り向いた。


「大皿3枚と中皿2枚。これが今回の対価です。どうしますか?」


「…どっちかって言っていなかったか?」


「わざわざ出直してきたんです。手間賃ですよ。 どうしますか? 今、決められないなら、私はあなたの治療を拒否します。他の患者さんの為にも時間を無駄にはできませんので」


 これが最後のつもりで言うと、お孫さんはお皿を集めておじいさんを睨み付けた。


「どうするの!? おじいちゃんはお皿と私とどっちが大事なの!?」

 

「………治療をしてくれ」


 お孫さんの剣幕に負けたおじいさん、それで正解だと思います……。


 ヒール2回で完治して、未使用のお皿5枚を貰って家を出た。


【回復】スキルがレベルアップしたおかげで、ヒールも強くなっていた。 これなら、多分…。








 この後は比較的順調で、5人を治療して、


 内布付きのストローバスケット 5個

 ワイン2本

 シードル5本

 細工の凝った未使用の木製スプーン5本

 玉ねぎ10個

 小ビン3本

 小麦粉2キロ

 はちみつ 中ビンに1本


 を支払ってもらった。


「みごとにバラバラだねぇ」


「基準がわからん」


「金のない家から回っているようだね。 今日は比較的金のある家だった」


 マルゴさん、鋭い…。


「次で最後にしましょうか。右腕を怪我したおじいさんのお家です」


「ああ、ニナの家だね」


「……最初に会った女の子ですか?」


「ああ」


 なるほど。 身内に怪我人がいたから、必死に私を引き止めようとしていたのか。










 家に着くと、ニナちゃんが出迎えてくれた。


「ちゆしさま、おじいちゃんのけがをなおしてくれるの?」


 嬉しそうに笑われると、言い難いんだけど…。


「おじい様とお話をした後に、おじい様が『治して欲しい』って言ったらね」


 ニナちゃんの時みたいに、無料じゃないんだよ……。


「うん! 『たいか』がいるんだよね?」


 ……対価の意味を理解してるのかなぁ? 


「ニナ、畑の様子をみておいで」


 子供にお金の話はしづらいな~、と思っていると、マルゴさんがニナちゃんを家の外に出してくれた。


 代わりにニナちゃんのお母さんが出てきてくれたが…、


「足、どうかしたかい?」


「箪笥の角にぶつけてしまって腫れてるのよ……」


「あんたは相変わらずそそっかしいねぇ」


「恥ずかしいわ…」


 お母さんは足をひょこひょこと引きずっていた。


「小指、ひびが入っていますね。 痛いでしょう…」


「ええっ!? ひび!?」


「気が付きませんでしたか? 痛みに強いんですね^^」


 褒めたつもりだったんだけど、お母さんは涙目で座り込んでしまった。


「ひびが入ってるって聞いたら、余計に痛くなってきたわ…」


 ………余計なことを言ってしまったみたいだ。


ありがとうございました!

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― 新着の感想 ―
[一言] 「気が付きませんでしたか? 痛みに強いんですね^^」 掲示板やコメント等で煽りとしてよく使われる^^が付いてるから煽ってるように見えちゃいますね。 ありえないのは判ってますが。
2020/02/15 04:08 退会済み
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