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信頼と心配が嬉しいから、寝る! つもりだったのに…… 9

予告もなしに、投稿を止めてしまってすみませんでした。


「えっと……。紙を折って何かを作るから<折り紙>。折り方の基本はこれが❝山折り❞で、これが❝谷折り❞。後は開いたりとかの作業もあるけどそんなに難しくないから大丈夫。ポイントは折り目をきちんとつけることと折った紙の角をきっちりと合わせること。それだけ気を付けたら綺麗な鶴の形に折れるから。

 じゃあ、まずは……。私の手持ちには正方形の紙がないから、紙を正方形に整える所からだね」


 他にも仲割り折りとかかぶせ折りとかもあるけど、まあ、いいや。とりあえずの基本だけを説明することにして一緒に紙を折っていく。


「いま、紙は三角形の形になってるよね? それをもう1回折るよ~。で、ここに袋ができるのがわかる? ここを開いてから上から押さえて四角形の形にするの。上の紙と下の紙をきちんと合わせてね?」


 おっかなびっくり紙を手にしたネストレ(せいと)さん達だけど最初の注意点をよく覚えていて、私の手元を見て真似ながら、きちんと紙の端や角を合わせながら折り目を付けて行く。きちんと綺麗な折り目を付けることで綺麗な鶴になることを理解してもらうために、わざと雑に折った鶴を丁寧に折った鶴の横に並べていたのも良かったらしい。……丁寧に作業をするあまり、一つの工程ごとに呼吸を止めているのにはびっくりしたけど、1羽折り終わる頃には余計な緊張も解れるだろうと見守るだけにする。


 工作部門の設計図担当職員さんは流石の画力で、❝山折り❞や❝谷折り❞もとても分かりやすい図解になっている上に、❝端を揃える❞や❝角を合わせる❞などのポイントもきちんと添えて書かれていて、これを見ながら折れば、初めて紙を折る人でもなんとかなりそうだ。


 ……と思っていたら彼にとってはどこかが不足だったのか、凄い勢いで描き直している。十分に素晴らしい図解だと思うんだけどね? どこが違っていたのかと彼が放り出した図解を見ながら折り直していると、「そのままで!」と鋭い声が上がった。

 何が引っかかったのかと思い顔を上げると、彼に視線は紙と同意に私の手に向いていた。紙を押さえている時の私の手の形も一緒に書き留めているようだ。 ……そんなの必要かな?と私には疑問だけど、ネストレさんが感心したように頷いていたので黙って動きを止めておいた。


「見てくれ! これは私が折ったんだ……っ!」

「本当に、私にも素晴らしい<ツル>が折れました!」

「マエストロアリス! こ、この技術を本当に公開してもよろしいのですか!?」


 それぞれが自分の折った鶴を手に、感動を分かち合おうと笑顔を向けてくれる。……なんか変な呼ばれ方をしたけど、そこはスルーでいいかな?


 嘴がよれてしまっていたり羽が左右で微妙に不揃いだったりするけど、初めてにしては上出来だし、工芸品部門の責任者さんは流石の器用さで最初から完璧な鶴を折り上げている。


「うん! みんなとっても上手に出来てるわ!!」


 だから誉め言葉が自然と出たんだけど……。ネストレさんとラファエルさんが、工芸品部門の責任者さんの折った鶴を見て少しだけ意気消沈してしまった。


 大の大人が、折り紙1つで寂し気な微笑みを浮かべるのは切なすぎる。だったらここは、


「出来上がりが気に入らないの? だったらもう一度折ってみたら? 次はもっともっと上手に折れるよ!」


 練習あるのみ、だ。インベントリから紙の束を取り出して目の前に積んであげる。


 満足な鶴が出来るまで、何枚でも遠慮なくどうぞ♪









 以前に買った様々な紙。料理に使えそうだと思ったものから手紙用にと思った上質なものまで数種類出して置いたんだけど、さすがは商業ギルドのやり手たち。出した中では質の良くないものばかりを使って練習していた。しかも、長方形の紙を正方形にする為に切り落とした方の紙を、無念そうにそっと束ねて置いたりするものだから、


「なんと! なんと可憐で可愛らしい……っ!!」


 切り落とした方の紙も無駄にならないことの証明に、そこからまた鶴を折り上げて見せたら、最終的には私の親指の爪ほどの小さな鶴になり……。


 何故かネストレさんが泣き出した………。えっと……? うん。イミガワカラナイ……。


 なんだか共感しているラファエルさんと設計図担当職員さんもうっすらと涙目なんだけど……。ここは見ないフリが得策だよね?


 気が付かないフリをしながら、工芸品部門責任者さんの要望に応える形で<連鶴>を作り始める。


 その途端にキッチリと意識を切り替えて紙の束を手に私の手元を凝視する設計図担当職員さんは、流石にプロだと感心した。












 紙を裏返して切り方の設計図を書くと、その様を描きとる設計図担当職員さん。出来上がりまでの手順を何度か描き直しながらも仕上げては、工芸品部門責任者さんと一緒に唸り声をあげ、次は? 次は?と期待に満ちた視線で私をみてくる。


 実はちょっとだけ飽きてきたので、もともと作ってテーブルに置いていた連鶴を折り終わると「思い出せるのはこれくらいかな?」と一区切りつけようと思っていたんだけど……。


(アリス! アリス! 次はどんなのにゃ!?)

(アリスすご~い! もっとみせて?)


 嬉しそうに目をキラキラさせながら私の手元を覗き込んでいた、可愛い従魔たちのおねだりには勝てなかった。


 ねだられるままに、手持ちの紙の中から綺麗なものを選んで切り貼りした<五色鶴>や(私にとっては超!大作の)<十六文字>まで披露し、目を爛々と輝かせている大人組の視線に負けて、ワンポイントアドバイスなどを添えながら何度も同じものを折り続けることになったのは……、ちょっとだけほろ苦い思い出になったかもしれないなぁ。


 ちなみに、


「たくさんの鶴を糸でつなげたものを<千羽鶴>っていって平和の象徴なんだよ。千羽じゃなくても千羽鶴っていうの。不思議だよね~」


 とか、普通の鶴はテーブルの上できちんと折るのに<連鶴>を手に持ったまま折っているのを見て、ますます❝凄い職人❞を見るような目で見られるのをごまかす為に、


「<連鶴>は私の国の僧りょ……神官が編み出した折り方でね。私は7羽しか折っていないけど、最高で97羽まで折れるんだよ」


 なんて世間話のように話した豆知識は、


「平和の象徴……。神官さまの編み出した折り方……。それをこのように美しく折り上げ、世に広めるアリスさまはやはり聖女さまなのでは!?」


 なんて、おかしな方向に彼らの勘違いを加速させる結果になってしまった。


<治癒魔法>だけじゃなく<折り紙>で聖女認定の危機に陥るなんて思ってもみなかったな。


 それに、聖女になんてなりたくない!と逃げ出そうとした私を見て、


「このままだと教会がアリスさまを奪いにやってくるぞ! 我らの全力でお守りするのだ! <アリスさまをお守りし隊>! ここに発足だ!!」


 なんて訳の分からない方向に話がいくなんて、もっともっと思っても見なかった。


 ビジューっ! どうやって収拾を付けたらいいのか教えてください! 私はハクとライムの喜ぶ姿が見られたらそれだけで良かったんだよぉ!


本日も読んでいただいてありがとうございます。



一時どん底まで落ちてしまったモチベーションを、❝気遣い❞と❝真心❞で引き上げてくださったのは同じく読者さまのお1人でした。 

丁寧なメッセージをいただいたこと、感謝しています。

ありがとうございました!!


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― 新着の感想 ―
[一言] いつも楽しく読んでほんわかしております。落ち込まなくても大丈夫ですよ!楽しくゆっくりと更新してください。
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