信頼と心配が嬉しいから、寝る! つもりだったのに…… 4
ギルドの休憩時間にやって来たディアーナから、ポーション用の小瓶を300本受け取った。今朝工房から納品された分で初回発注分が全て揃ったので、キリが良いからと持って来てくれたらしい。
わざわざ休憩時間を潰して来てくれたのだからおもてなしを!と意気込んだんだけど、あまり時間がないから、とやんわりと断られた。決まっている休憩時間内に戻らなくてはならないのだから、確かに時間はなさそうだ。なのでギルドに戻ったら手軽に食べられる軽食を受け取ってもらうことにする。お昼を食べる習慣がないディアーナでも、おやつとしてなら食べてくれるだろう。
丸く小さく結んだ栗の炊き込みご飯のおむすびを嬉しそうに受け取ったディアーナが急ぎ足で部屋を出るのを見送っていたラファエルさんのお腹が、❝きゅる……❞と可愛らしい音で食べ物を催促するので笑ってしまう。ちょうどいい時間なので、私たちもお昼ごはんにすることにした。
今日のお昼は普通の炒飯。でも、極桃オークの背油から作ったラードと油かすを使用しているので、味は◎!の一品だ。
ラファエルさんも、
「アリスさんのコメ料理は本当に素晴らしいものばかりですね! こんなに素晴らしい可能性に溢れている<コメ>が家畜の飼料だったは……。我々は随分と長い間損をしていました!」
満面の笑顔で悔しそうに反省するという器用な表情を披露してくれた。
ラファエルさんの来訪目的は、追加注文をしていた組紐用の糸の納品だった。
現在職人さんたちが❝嬉しい悲鳴❞をあげながら糸を加工しているそうで、「ご入用の際にはどうぞ遠慮なく」と素敵な営業スマイルと共に宣伝されたので、【複製】で増やせない高級な糸を中心に追加をお願いしておいた。子供たちが思った以上にのめり込んでくれたので糸はいくらあっても足りなくなりそうだからね。私もついつい高い糸を使って何本か組み上げてしまったし。
その内の1本は花の形に整えて私の髪を飾っている。 なかなかの出来具合に自分で自分を褒めながら、私には少し落ち着き過ぎた色の組み合わせながら、一番出来の良かった1本を思い出す。極桃オーク肉と一緒にモレーノお父さまに届けてもらえばよかったと少し後悔していると、
「ナイトバード便で報告書を?」
「ええ。定期的に送っておかないと、ギルドマスターが直接乗り込んで来かねないので……」
苦笑を交えながらラファエルさんが「うちのギルド、暇じゃないハズなんですけどね」と呟いたのは聞こえなかったことにした。でも「新登録レシピに関しては❝料理レシピ〇点、雑貨〇点の予定❞としか書いておりません! 決して漏洩などはしておりませんので……!」と慌てたように言うのには、きちんと笑顔で頷きを返しておく。
そういった点では信用してるんだ。でも、「レア肉をご馳走していただいたことなど自慢して良いですか?」と言われて笑顔が苦笑になってしまったのは仕方がないよね? ギルド幹部さんたちの困った食いしん坊ぶりを思い出してしまったんだ。そんなことを書いたら、本当に乗り込んで来そうな気がするから怖いよね~。
でも、それでふと思いついた。
ナイトバード便で組紐を送ればいいんだ!手紙のような軽いものしか送れないナイトバード便だけど、組紐の1本くらいなら重さに問題はないだろう。
「ナイトバード便の利用法用を教えて!」
勢い込んでラファエルさんに聞いてみると、だったら今回は自分の報告書と一緒に送ればいいと言ってくれた。ギルドから裁判所へは毎日誰かしらが通っているので、問題なくモレーノお父さまの手元に届くとも。
重量の方も問題はないし、アイテムボックスから鎖付きの小箱を取り出して「この中に入る大きさであれば問題ない」と中の空き具合を見せてくれる。
3分の1にも満たない容量しか使われていなかったので、今回は甘えさせてもらうことにした。
でも、ただ箱の中に組紐とメッセージを入れるのもちょっと面白くない。少しだけ考えた私は、インベントリから色違いの綺麗な色の紙を2枚取り出して正方形に切り取り、折り目を付けていく。
何をしているのか、好奇心満々のラファエルさんの目の前で出来上がったのは、ただの紙で折った小箱だ。箱と蓋でワンセット。箱の中に組紐を入れて蓋の上に❝モレーノお父さまへ❞と書いて糸で縛れば出来上がり♪
❝お手数ですが裁判所のモレーノ裁判官にお渡しください❞と紙を添えて箱に入れ、ラファエルさんに渡そうと顔をあげて……。
目を爛々と輝かせているラファエルさんを見て、自分が何か失敗したことに気が付いた。
……にんまりと上がった口の端がなんだか怖い気がするのは、気のせい、かな~?
ありがとうございました!




