信頼と心配が嬉しいから、寝る! 2
清潔なベッドの上でころころと寝返りを打つたびに、私の身体の上をころころと転がりながら器用にバランスを取るハクとライム。
昨日はモレーノお父さまと約束した通りにゆっくりとベッドの中で1日を過ごした。指摘された通り疲れが溜まっていたようで、ベッドに横になるなりぐっすりと眠っていて気が付いたら翌日の太陽が昇っていた。
……日課の【複製】もせずに眠っていたことにびっくりしたけど、守銭奴のハクが複製回数を無駄にしてまで私を寝かせてくれていたことにもっと驚いたことはハクには内緒だ。
いつもは「お腹が空いたのにゃ!」とか言って平気で起こすのにね? ハクとライムのごはんをテーブルに用意してから寝たのが良かったのかな?
それでも、テーブルの上に置いてあったごはんもすっかりなくなっていたので、そろそろ起きようと1度はベッドから出たんだけど……、私はまだベッドの上の住人でいる。
❝今日は1日ごろごろする日❞だと言い張るハクとライムにベッドへ連れ戻されたからだ。
彼らの為にごはんを作ろうと思っても、
「今日はインベントリの中の物を食べるのにゃ」
と言われ、お風呂に入ろうとしても、
「あとでいっしょにはいろうね!」
と引き留められ、厨房にお水を売りに行かないと!と仕事を理由にしても、
「甕と水差しを運ぶようにメモを書くのにゃ!」
ハクが届けたメモの通りに、部屋まで甕や水差しなどが運ばれて来た。水が入った甕や水差しは重いから私が直接厨房に行った方が早いって言ったんだけど、
「スタッフがアイテムボックスに入れて運ぶから大丈夫にゃ」
ことごとく反論されてしまって、私は昨日帰って来てからまだ1歩も部屋を出ていない状態だ。
……ベッドの上でだらだら過ごすのも飽きて来たんだけどなぁ。さすがにもうこれ以上は眠れそうにないし。
何かできることはないかと考えて、今日の分の【複製】をすることにする。さすがにハクも2日連続で【複製】の回数を無駄にするのは勿体ないと思ったらしく、渋々とだけど許してくれたのでほっとした。
最近レベルアップした【複製】のスキルは、複製回数とできる複製の種類が増えていた。
でも、相変わらず<極桃オーク>の複製はできないし、組紐に使う糸も、極上質の糸だけは複製できない(スレイやニールが狩ったアラクネーの糸は複製できるのに!)。子供たちに渡しているお手頃価格の糸は複製できるから今の所問題はないんだけど……。べニアミーナちゃんの腕がもう少し上がったら上質な糸に切り替える予定だから、ちょっと冷や冷やしてるんだよね。
どういう理屈で複製できるものとできないものに別れているのかはわからないけど、少しずつ複製できる種類も増えてるから、いつかは複製できるようになるハズだ。 いつかはわからないけど、とりあえず今はコツコツと複製を続け、早くレベルが上がることを祈るのみ!
ゆっくりと時間をかけて行っていた【複製】作業が終わってしまい……。今、私はまたベッドの上でごろごろしている状態です。
こんな時に限って誰も来てくれないしね。
さて……、どうやって時間を潰せばいいのかな?
「くあぁぁ~、あ? あぐぐ……」
私の胸の上で寝そべっていたハクが、ちっちゃなお口を大きく開けて(顔の半分以上は口だったと思う)欠伸をした。その様子がどうにも可愛くて、ついつい口の中に指を突っ込んでしまったんだけど、あぐあぐしながらもきつく歯を立てないように気遣ってくれているのが嬉しくて可愛くて……。
そのまま反対の手でまるっと可愛らしい後頭部を撫でていると、
(何するのにゃ!)
心話で怒りを訴えながらガジガジと指を甘噛みされる。
いつもなら容赦なく噛みついてくるのに、今日は私を甘やかす(?)日なのか、ほとんど痛みを感じない。
可愛らしいハクと、ハクを見て笑っているライムの姿に癒されながら、こんな日も悪くないと少しだけ思った。
何をするでもなくベッドの上で怠惰に過ごしていると、従業員さんが来客を告げに来た。
退屈していた私はベッドから飛び起き、私の上で転がっていたハクとライムをベッドの上に転がしてしまう。
自分たちへの扱いに腹を立てたわけではないだろうけど、2匹が身を寄せて「今日は何もしないから、誰にも会わないのにゃ!」「いそぎじゃないならでなおしてもらおう!」と訴えるのを、宥めて説得するのが少しだけ大変だった……。
2匹が追い返そうとした来客は、野営具用品店の店主さんだった。注文していたテントが出来上がったので納品に来てくれたようだ。アイテムボックスのスキル持ちらしい従業員さんが手ぶらで後ろに控えている。
この店主さんはなかなかに商売っ気のある人で、警戒したディアーナから「受け取りに行くときには声をかけてね?」を言われていたことを思い出したけど、仕事中のディアーナを呼び出すのは気が引ける。というか、してはいけないことだ。
まさか店主さん自らがわざわざ納品に来てくれるとは思っていなかったので、こんな時はどうするかなど打ち合わせていない。部屋に通して挨拶を受けながら、さて、どうしたものかと考えていると、またもや来客を告げられる。
二組同時にはお相手できないのでフロントで待っていてもらおうと思ったんだけど、誰が来たのかを聞いて考えを変えた。案内されて入室してきたのは、
「どうやら間に合ったようですね? アリスさまにはご機嫌麗しく……」
いつもとは少し違う雰囲気を纏い、おかしな挨拶を聞かせてくれた商業ギルド長だった。
……なにかあったのかな?
ありがとうございました!
少し凹んでいましたが、何とか持ち直した……ハズ!
今後もよろしくです^^




