お昼ごはん
「少しルシィと相談する時間をもらえるかい?」
そう言って、マルゴさんがルシィさんと店に行くと、
「じゃあ、その間にルシアンに素材を渡してくるよ」
ルベンさんも家に戻ろうと外に出たので、急いで引き止めた。
「どうした?」
「ルシアンさんに、毛皮のなめしをお願いできますか?」
腕がいいなら、ぜひお願いしたい。
「種類は?」
「ホーンラビット11枚とワイルドボア1枚です。 いくらになりますか?」
「ルシアンに聞いてみないと正確にはわからんが……。
ラビットで1枚1000メレ、ボアで1枚5000メレほどだと思うが」
「お願いしようと思うので、一緒に行っていいですか?」
(どうするのにゃ?)
(出先で使う敷物にしようと思って。地面に直に座るよりいいでしょ? 布団にもなるし)
(良い考えにゃ~♪)
「ああ、なら俺が預かっていこう。アリスさんはそこで頑張っている従魔に付き合ってやると良い」
そう言ってくれたルベンさんの視線の先では、ライムが廃棄部分の消化・吸収を頑張ってくれている。
「ぷっきゅっ!」
(行っていいよって言ってるにゃ)
ライムの気持ちは嬉しいけど、頑張ってるライムだけをお留守番させるのはイヤだな。
「お願いしても良いですか? 代金が倍以上になるようなら、教えてください」
自分で行くのは諦めて、毛皮をルベンさんに渡してお願いすると、
「ああ、確かに預かった。急いで戻ってくるよ」
毛皮を見て嬉しそうに笑ったルベンさんは、小走りに出て行った。
「時間、空いたね」
「空いたにゃ~」
「携帯食を作るには時間がなさそうかな…?」
何をしようかと考えていると、ハクが力を込めて言った。
「鑑定するにゃ!」
「何を?」
「アリスをにゃ! アリスは自分のステータスが気にならないのにゃ!?」
「だって、ついこの間鑑定したばかりだし」
「自分の成長を確認することで、もっともっと頑張ろう!ってモチベーションをあげるのにゃ!」
……どこかの自己啓発セミナーみたいになってきたぞ?
「成長の確認って言っても、数値とかあんまり覚えてないんだけど…」
「なら、わかるようにイメージしながら鑑定するにゃ! とにかく、早く鑑定するのにゃーっ!!」
ハクが牙を剥いて鑑定を勧める。 ……素直に鑑定した方が良いみたいだ。
名前 :アリス
年齢 :16
職業
レベル:4 →9
HP :380 → 780
MP :800 → 2,300
攻撃力:85 → 115
防御力:430 → 460
従魔 :ハク(神獣・守護獣)
:ライム(リッチスライム)
称号 :女神ビジューの加護を受けし者 女神ビジューの友人
神獣の主 異世界からの転移者
所持金:991,100G
スキル
身体能力向上 レベル3 → 4
剣術 レベル3 → 4
魔力操作 レベル3 → 4
魔力感知 レベル4 → 5
鑑定 レベル3 → 5
料理 レベル1 → 2
回復 レベル3 → 5 (Newリカバー)
薬師 レベル3 → 4 (New診断)
クリーン レベル2 New
ウインドカッター レベル1 New
特殊スキル
インベントリ レベルなし。容量無限。時間経過なし。
リスト機能・ソート機能あり
マップ レベル3 → 4
複製 レベル1 3/3 → レベル2 5/5
わかりやすく、とイメージしたら前回の鑑定結果も一緒に出てきた。 ビジューのくれたスキルはどこまで便利になるんだろう…?
「いろいろと上がっているにゃ♪」
「うん、軒並み上がってるね。 ……【鑑定】と【回復】の上がり幅が大きくない?」
「ボーナスポイントが付いたにゃ♪」
「ボーナスポイント?」
「【鑑定】は他のスキルとリンクしたから、【マップ】や【診断】を使った時も【鑑定】に経験値が入るようになったにゃ。
【回復】は新しい魔法を作り出したから、経験値にボーナスが付いたにゃ!」
「新しい魔法?」
「【ヒール】を改造したにゃ!」
「たったそれだけで!?」
「十分にゃ!」
レベルが上がるのは嬉しいけど、この世界の経験値が良くわからないな……。
鑑定の結果を見終わるのとほぼ同時にマルゴさんとルベンさんが戻ってきた。
「待たせたね。すぐに出られるかい?」
マルゴさんは椅子に腰掛けることもなく家を出るつもりらしいが、とりあえず引き止める。
「先にお昼ごはんを食べましょう? 今日までお昼ごはんの時間を取れていなくて、すみませんでした」
生活リズムを狂わせていたことを謝ると、
「アタシ達は元々昼にごはんを食べる習慣はないよ」
二人は顔を合わせて首を横に振っていた。 なんだろう?
「そうなんですか? じゃあ、このまま行きましょうか」
もともと食べる習慣がないなら食事に誘うのも迷惑になるだろう。 出かける為に玄関に向かおうとすると、ハクが私に飛び掛ってきた。
(生姜焼きむすびは!? 生姜焼きむすびは食べないのにゃ!?)
悲しげに訴えると、私の頬に歯を当てながら、
(生姜焼きむすびを食べるのにゃ~!)
叫びながら、ゆっくりと歯に力を込め始めた。
脅迫? ごはんのことで保護対象を脅迫する“保護者”がどこの世界にいるの!?
(ハク、わかったから離しなさい。 …今すぐに離さないと、晩ごはんも抜くよ?)
「にゃーっ!??」
どれだけごはんに比重を置いているのか、ハクは裏返った声で悲鳴を上げて私から飛び離れた。
「うちの従魔にごはんを食べさせないと顔を傷物にされそうなので、付き合ってもらえますか?」
2人を待たせながら自分たちだけ食べるのはイヤだったので、ダメ元で誘ってみた。
「何が出るんだい?」
「おむすびだけです。手軽に食べられるけど、ちょっと寂しいですね」
誘っておいて何だかなぁ…と、申し訳なく思っていると、
「じゃあ、茶でも入れようか」
マルゴさんが笑って立ち上がった。
「ありがとうございます! じゃあ、私はルシィさんを呼んできます」
「俺が行く」
ルベンさんがルシィさんを呼びに行ってくれたので、私はインベントリから生姜焼きのおむすびセットを出すだけだ。
従魔たちと一緒に席に座って待っていると、ほどなくルベンさん親子も戻ってきて、マルゴさんが紅茶を注いでくれる。
「「「いただきます」」」
「んにゃん!」
「ぷっきゅ」
『いただきます』に参加したマルゴさんとルシィさんにルベンさんが驚くと、ルシィさんが日本の『食前・食後の挨拶』について説明をしてくれた。
「いい考え方だな……。一言に、ビジュー様への感謝も込めていいのか。 『いただきます』」
ルシィさんの説明をゆっくりと咀嚼したルベンさんも『いただきます』に参加することになり、みんなで『いただきます』を言う事が懐かしくて、ちょっと嬉しい。
「これは良いね」
「にゃ~♪」
「ああ、手軽なのに美味い」
「ルシアンには内緒だわ…」
「お茶がおいしい…(欲しいなぁ…)」
「ぷきゅ~♪」
生姜焼きむすびは概ね好評のようで、塩むすびと共にあっと言う間に食べ終わり、
「いってらっしゃい!」
手を振るルシィさんに見送られて、家を出た。
ありがとうございました!




