信頼と心配が嬉しいから、寝る! 1
新村長から新領主への手紙に書かれていた、村の今後の展望。
その中にあった❝ダンジョン発生の可能性❞はマルゴさんにとってもモレーノお父さまにとっても期待される事柄のようで、元・冒険者ギルド長の助言を基にして、すでに予算まで組まれ始めているらしい。
そんな案件に対し、私にできる事を頭の中で整理していると、
(アリス? グレープシードオイルは商業ギルドで登録申請していることを忘れてないかにゃ?)
ハクがちょっとだけ意地悪な声で言った。
(ギルドでオイル工場を新設する話も出ているのに、レシピを王家に献上したら、ラファエルや商業ギルド長が大泣きなのにゃ~♪)
(………あっ!!)
どうしてこんなに大事なことを忘れていたの!? うっかりにも程がある!!
ハクの指摘に慌てているとモレーノお父さまが心配そうに声を掛けてくれる。なんでもない、と言っても心配そうな表情は晴れないので、仕方なく、自分のうっかりを告白した……。
「少し忙しすぎるのではないかい? 心の疲労は自分では気が付きにくいものだ。無理をしてはいけないよ?」
心配そうに表情を曇らせたモレーノお父さまは、<グレープシードオイル>の件はラファエルさん経由でジャスパーのギルド長からも報告が上がっていたことを話してくれた。
なので、私が❝レシピを王家に献上❞と言った時は話の食い違いに気が付いた上で、サラリと流してくれていたんだ。
……私がモレーノお父さまに❝良い顔❞をしたくていい加減なことを言った、と捉えられても仕方がない事なのに、お父さまはそんな風には考えずにただ、私を心配してくれていたんだ。信頼が本当にありがたい。
だから、商業ギルドや王家とは大まかな話が出来ていること、
・レシピが登録でき次第王家が買い取って、各領主&孤児院に広める形(貧困層救済の為の国策として)。
・出来上がった<グレープシードオイル>は各領にある商業ギルドが取り扱う。ただし、この件に関しての統括は、王都のギルドではなくレシピ登録したギルド(ネストレさんのところ)が請け負うことになるので、この街の商業ギルドにより多くの利益が集まることになる。
・ネストレさんは「大仕事だ」と喜びながら、この件でギルドが手にする利益から一定額を公共福祉に役立てる為の草案を練り始め、サンダリオギルマスは<グレープシードオイル>の登録がジャスパーでなかったことを残念がりながらも、ネストレさんの草案作りに協力しているらしい(組紐の占有登録だけでも十分過ぎるだろうとお父さまは笑ってた)。
などの話をしてくれた後に、
「アリス。しばらくの間、ゆっくりと休みなさい」
と言われて素直に頷いた。
本当はすることは山ほどある。ミネルヴァ家の子供たちの事も気になるし、毎日収穫される野菜の買い取りや、発注したままになっている馬具や馬車だって取りに行きたいし、新しい保存食もインベントリに追加しておきたい。
でも、心から私を心配してくれているモレーノお父さまや、口にはしないけど目で「休め!」と訴えているハク達の表情を見て、これ以上、無理をしていると思わせるのは嫌だったんだ。
自分では何かにつけて結構休んでいるつもりだったんだけどね?
今日は宿に戻って、ひたすらベッドと仲良くすることを約束した。
ありがとうございました!




