お届け物♪
検討の結果、料理長さんのソースはレシピ登録しないことになった。
理由は、高価なスパイスをふんだんに使っているソースなので一部のお金持ちやお金持ち相手のお店でしか使えないこと。その為、公開しても買い手は限られてくるだろうというラファエルさんの意見と、最近の宿の食事の人気の傾向から、スパイスをふんだんに使っているソースは先が見えている。お金持ちが好む、スパイスを強調した(しすぎた)料理はこの先廃れていくだろうという料理長さんの意見にみんなが納得したからだ。
その代わり、私のソース(ケチャップも)をレシピ登録し、そのソースに料理長さんの作るソースを合わせたものを宿で販売することになった。宿泊客を対象に限定販売するらしい。
そして、その際に売り上げから数%を料理長さんに還元することになり、料理長さんは嬉しそうに総支配人さんにお礼を言っていた。
その隣で、
「これが金持ちの味か! 俺は金持ちの味にはなじめねぇな」
串カツに料理長さんのソースをたっぷり使って辛さにむせたイザックが涙目で感想を言うと、
「そうですね。私もです」
「いや、あんたには十分に馴染んだ味じゃねぇのか? 金持ちな上に、ここのオーナーなんだから」
総支配人さんが茶目っ気たっぷりに話を合わせてイザックに突っ込まれ、
「いえいえ、イザックさん。このソースを作った私が言うのもなんですが、なんていうか……、このソースを使った料理の後には、生のままの野菜を食べたくなります」
料理長さんに味方をされて、嬉しそうに頷き、その隣では領主さんまで何度も頷いている。
お金持ちだから高価なスパイスをふんだんに使った料理を食べられていた、というより、お金持ちだから、高価なスパイスを使った料理を食べなくてはならなかったんだ。という風に見えて、少しだけ気の毒になる。
富と権力の象徴であるスパイス類は、時としてお金持ちの人たちに我慢や忍耐を強いる食品だったようだ。
<運び屋さん>が宿を訪ねてくれたのは、それからすぐの事だった。
せっかくなので一緒に食事をどうかと誘ったら、「出発の準備をして宿で待っている仲間に悪いから」と首を横にふる。
出発を1日遅らせてもらったお礼に、と思ったんだけど無理強いも良くないので、今回運んでもらいたい<極桃オーク肉>と一緒に、ラウルさんとお仲間さんの分の串カツ(普通の桃オーク肉)と合わせソースを使ったサンドイッチと携帯食をお礼として渡しておく。
「こちらがジャスパーのモレーノ裁判官さま宛で、こちらがネフ村のマルゴさんやルベンさん宛ですね?
それぞれに<極桃オーク肉>と<手紙>のお届け、と。確かに承りました!」
ラウルさんのアイテムボックスは時間停止機能が付いていない(時間の流れは遅くなるけど)ので、<極桃オーク肉>が傷まないようにと、速攻で宿を駆け出していった。お仲間さんと宿で合流してからすぐさま街を出てくれるそうだ。
依頼料は結構なお値段だったけど、「肉が傷まない内にお届けしますよ!」と力強く笑って請け負ってくれたので、後悔はない。
モレーノお父さまやマルゴさん達、喜んでくれるかな♪




