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極桃オーク祭り 3 場外編?

 栗の炊き込みご飯のおむすびを、にこにこと嬉しそうに微笑みながら食べているルクレツィオさん。嬉しくて、私もにこにこと表情を緩めながら彼がおむすびを平らげるのを見つめていたら、


「………あの、食べ方を間違えましたか?」


「え?」


 ルクレツィオさんが少しだけ困ったような微笑みで私に問いかける。


(おむすびをがっついている所をじっと見られて恥ずかしいのにゃ~)


 何のことかわからずに困っていると、助け舟を出してくれたのは困ったときに頼りになる保護者さま(ハク)だった。


 ルクレツィオさんは決してがっついていたわけではないのだけど、見ていて気持ちの良い食べっぷりに視線を注いでしまったせいで居心地の悪い思いをさせてしまったようだ。かと言ってこの雰囲気でただ謝るのも気まずくなりそうなので、


「(貴族の)ルクレツィオさんが私のお出しした(おむすび)を忌避することなく、しかも手で直接持って食べてくれたのが嬉しくて視線を外せませんでした。ごめんなさい」


 彼を見ていた理由を話してしまう。


 私の周囲にいる人たちがいつも抵抗なく食べてくれるのでつい、うっかりと領主(ルクレツィオ)さんにも差し出してしまったんだけど、この国の人たちにとって<米>は最近まで<家畜の餌>と思われてきた食材だ。その米を使った炊き込みご飯を、貴族である彼が何の躊躇もなく受け取り、口にしてくれたから驚いてしまった。


 炊き込みご飯のおむすびは、私の大好きな料理の1つなのでとても嬉しいと伝えると、


(おむすび)までの料理の数々が素晴らしいものばかりでしたので、何も考えることなく手が伸びてしまっていましたね。これは少しお恥ずかしいですな……。

 しかし、この<栗入り炊き込みご飯のおむすび>とやらは本当に美味で、今まで米を忌避していたことが悔やまれます」


 ルクレツィオさんは照れくさそうに笑いながらおかわりに手を伸ばし、


「じい、このように美味なるものを私に教えてくれずに自分たちだけで楽しんでいたのか? 水臭いではないか!」


 総支配人さんに苦情を訴える。が、


「わたくしもつい最近米の素晴らしさを教わったばかりなのです。宿のお客さま方にはまだ受け入れられないと思いメニューには載せておりませんが、坊ちゃまがいらしたら是非味わっていただこうと、米の準備はしておりましたとも。

 ですが、アリスさま自らの手料理で米の素晴らしさを教わるなど、坊ちゃまは相変わらず強運でございます」


 ❝坊ちゃま❞の睨みを総支配人さんはさらりと躱してしまう。❝坊ちゃま❞❝じい❞と呼び合うだけあって、仲良しさんだ。


 情報通なラファエルさんだけでなくイザックもルクレツィアさんが領主であることを知っていたようで、さっきは驚く私を見ながらクスクス笑っていた。


 ちょっと悔しいので、本日の栗メニューに使っている栗はイザックとニールのお土産であることを紹介すると、ルクレツィオさんはとてもにこやかにイザックとニールの帰還を祝ってくれる。


 いきなり領主から話しかけられ握手を求められたイザックが、ほんの少しだけどたじろいでいたのを見逃さない。さっきとは逆に、私が笑いを噛み殺しているのをイザックが恨めしそうに見ていた。


 ふふっ、頑張れ~♪












「領主さまはソースを使わないのですか?」


 そう聞いたのは、深皿に盛ったご飯の上に串から抜いたカツを載せて<カツ丼>を自作していたイザックだ。初めは腰が引けていた領主さんの相手も、今はすっかり打ち解けたらしい。


 私の感覚ではびっくりするくらいソースを掛けているんだけど……。カツの下のご飯にもしみるようにとのことらしいけど、辛くないのかな?


 イザックに聞かれた領主(ルクレツィオ)さんは、自分にはソースが甘すぎることを告白し、ついでに、


「料理長のステーキソースと混ぜたら美味いソースになりそうだ」


 ウキウキとした表情で提案して、


「坊ちゃま! それはソースを作った料理人に対する冒涜ですぞ!」


 総支配人さんに叱られていた。


 なんでも、<レシピは料理人の命>で<ソースは料理人の誇り>と言われているらしい。


 ……日本で、マヨネーズとケチャップを混ぜてオーロラソース。ウスターソースとケチャップを混ぜてデミグラスソースもどき。マヨネーズと醤油を混ぜてマヨ醤油なんてものを作っていた身としては耳が痛い。


 ということで、私には自分の作ったソースと他のソースを混ぜ合わせることに抵抗はない。考えてもみなかっただけで。


 料理長さんはどうだろうと見てみると、


(……期待されてるにゃね~?)

(どんなアジになるか、ぼくもきになるよ~)


 期待に満ちた目で私を見ていた。なんとなく見つめ合う形だ。


 総支配人さんに叱られた領主さんは慌てて謝罪の言葉を贈ってくれてるけど、どうやら料理長さんの中では誇りよりも新しい味への興味の方が大きいらしい。私がゆっくりと頷くと、脱兎の勢いで宿の中へと走って行った。


 あまりの勢いにびっくりした領主さんが驚いている間に料理長さんが壺を抱えて戻って来て、小皿に自作のソースを注ぎ入れる。続いて私も小皿にソースを注いでルクレツィオさんに差し出すと、ルクレツィオさんは総支配人さんの顔をチラチラと見ながら小皿を受け取り、料理長さんと私にそれぞれお礼を言ってくれた。


 料理人にとってのソースの価値を改めて諭されたことで、総支配人さんの好意にきちんと感謝を覚えてくれたようだ。


 聞いていた噂の通り、悪い人ではないらしい。というより結構良い人っぽいかな?


 私の甘い目のソースに料理長さんのスパイスたっぷりのソースを少量混ぜると、領主さんの好みドンピシャの味になったらしく、嬉しそうにハンバーグの付け合わせのフライドポテトにまで掛けていた。ラファエルさんも少し辛めの方が口に合う用で、2人で嬉しそうにソース談義に花を咲かせている。


 ……この後の展開が目に見えるみたいだけど、料理長さんは大事なソースのレシピを登録するのかなぁ?


ありがとうございました!


肌寒さが戻ってきましたね。風邪などひかれませんように!

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[一言]  ゆで栗、焼き栗、栗ご飯、栗おこわ、栗きんとん、栗羊羹、栗入りどら焼き、栗の甘露煮、栗の渋皮煮。  モンブラン、マロングラッセ、栗のポタージュ、栗のクリームパスタ。  栗尽くし(にっこり)…
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