イザックとニールの帰還 3
【浮遊】スキルは、本来スレイプニルが持っているスキルの1つ。というか、真骨頂であるスキルの1つらしい。
では、スレイプニルの真骨頂とは何か?
それは、❝空を駆ける❞こと。……だそうだ。
(空を駆け、海の上を滑走できるのが<スレイプニル>なのにゃ♪)
と誇らしそうにハクが教えてくれたけど、私が2頭を【鑑定】した時にはそんなスキルは付いていなかった。でも、ハクは自信満々な様子を崩さない。視線で理由を問うてみると、
(スレイもニールもまだ成長途中なのにゃ。 でも、僕が❝加護❞与えたらそれくらいの成長はすぐなのにゃ♪)
と胸を張って言い切った。
……胸元で揺れる白いもふもふの毛並みを触りたくなるけど、今はそんな場合じゃないと自重しながら思い出す。
本来はとてもとても弱い種族であるスライムの事。
すぐに他の魔物(ほとんどが身近にいるスライム)に捕食されるので滅多にお目にかかれないほどに弱いはずの<リッチスライム>であるライムは、馬車の激しい振動から私を守るクッションになってくれてもなんのダメージを負うこともないし、酸を飛ばしての攻撃はなかなかの攻撃力だ。
それに何よりも賢い。元々の資質も当然あるだろうが、ハクの加護を受けたからだと聞いて納得したことは記憶に新しい。
<神獣>の加護を受けたなら、スレイプニルが本来持っている(未来に取得する)能力を開花させることは容易いのかもしれない。
まあ、今回は❝保留❞になった話だけどね。
体の大きな2頭をどうやって部屋に入れるかがネックになったんだ。
窓はスレイプニルの巨躯が潜れるほど大きくないし、階段や廊下は通れても曲がり角が曲がり切れないだろう、と。
<従魔部屋>を人前で使えない以上、クリアできない問題だった。
仕方がないから❝一緒に帰還のお祝い❞をする為に、一度街を出ようかと考えていると、総支配人さんが中庭の使用を許可してくれた。
さすがに中庭での調理は無理だけど、厨房の使用を料理長に相談するとまで言ってくれるのだからありがたい。
(賄賂にゃ! ここで賄賂にゃ!)
私の肩をパシパシと叩くハクの勢いに釣られる形で、もしも希望があれば、森で汲んだ水を使った浄化水の追加販売と、桃オーク(極桃オークはダメだってハクとライムに止められた)と桃の販売を申し出てみた。
桃も桃オークも高級食材だからこの宿にはふさわしい食材だと思うし、ギルドを通して買うよりも直接私から買ってくれた方が安くつくから喜んでもらえるかな?と思って。
結果。私の提案は、総支配人さんと料理長さんに諸手を挙げて喜ばれた。❝特別メニュー❞として明日のディナーに出すんだと張り切っている。すかさず厨房の使用をお願いすると、満面の笑みでコクコクコクコクと何度も頷いてくれた。
……なぜか、料理長さんが調理の手伝いをしてくれることになってるんだけどね?「芋洗いでも皮むきでもなんでもするし、新作を調理する時には部屋を出て行くから安心して欲しい」と笑顔で押し切られたんだ。
なので、明日の食事会には料理長さんもご招待。料理長さんが忙しい、宿の朝食の時間が終わったら中庭に集合だ。その時間でいいかと総支配人さんに確認したら、「わたくしもご招待いただけるのですか?」と嬉しそうに言われてちょっとびっくりした。
総支配人さんのことは、もうとっくに誘ったつもりになってたよ。 確認して良かった!
宿に販売する分の食材を出す為に、料理長さんと一緒に総支配人室を後にする。
部屋を出る直前に、
「アリスさん、今夜の装いもとてもお似合いですね。とても軽やかな印象で素敵です」
と褒めてもらえてとっても嬉しかった。
お風呂上りに、新しく作ってもらった服を着てみたんだよ。イザックは全然気がつかなかったみたいだけど!
部屋に戻ってみたら、イザックはベッドの中で寝息を立てていた。
遠出から戻って疲れが出たんだろう。
いつ起きるかわからないので、明日の朝食の時間が変更になったことを紙に書いて枕元に置いておいた。ペーパーウエイトの代わりにりんごを3つ置いておいたので、お腹が空いていたら食べてくれるだろう。
さて、今夜も忙しくなるぞ!
何を作ろうかなぁ♪
ありがとうございました!




